22.死ねない狐は闇夜に舞う ―妖憑きの落ちこぼれ陰陽師― 夏村シュウさん作

「さびー!」


 山の中間地点ではあるが視界の目の前は白い霧に覆われて、先ほど乗って来たゴンドラも表面が濡れている。啓馬が分厚いダウンコートを着ているにも関わらず、肌を擦るように手が忙しなく動いていた。

 下を見下ろせば、車から少し走った場所にあるだろう温泉街が見える。

「あっ、後で土産にあったアイス食おうぜ」

「お前寒いって言って無かったか?」

「限定って言われると、食べたくなるんだよなぁ」


 旅行二日目、山登りは久しぶりなんだが、霧が出ている事もあって登山は中止でゴンドラリフトに乗って、中間地点の観光スポットを軽く見てから下りる事になった。


 最初に見たのは山の神を模したらしい、いかにも観光用に作られたような龍の置物があり、その奥には巨大な滝が流れていた。細かい水の粒が常に空気を舞っている。滝を紹介している看板には、夏の終わり頃にはトンボが飛び交い、もっと美しい光景となるとあった。想像するだけでも中々風流と言える。

 しかし、春頃の今ですらそこそこ寒いのに、秋になるともはや冬並みになりそうだ。

「おっ、あそこにそば屋あるぞ」

 近くには昼の11時頃開店と書かれた「うどん・そば」と書かれた旗が見えた。滝を必死に撮っている人の傍ら、ぽつんと建っている店には既に人が並んでいる。啓馬がゴンドラに乗る前に貰った観光マップを開いた。経路に合わせて、山の中でも店が並んでいるらしい。

「えーと、ここの水を使ったそばと……うどんもあるってさ」

「どうする?」

「予定変わったせいか、腹に余裕あるからなぁ」

「なら食うか」

 限定品は食べたくなる、そんなの俺も同じだ。それに、こういうちょっとだけ新しいだかボロいんだか分からない店は嫌いじゃない。木目がくっきりと浮かんでいて、いかにも旅行先のちょっと小綺麗な店って感じだ。

「すいません、2人で」

「はぁい、お好きな席へどうぞー」

 夫婦で経営してるのか、女性が通して来て、奥には男性が1人。一番奥の座敷席が空いていたので、そこに二人座る。山の中は寒いせいか、熱い茶が出て来た。窓の外は、滝から流れ出て来る水のせいもあってか、やはり霧が出ていた。

「天ぷらうどんで」

「俺この、今日のオススメセット」

「はい、天ぷらうどんとオススメセットですね。かしこまりました」

 女性がカウンターから奥へ引っ込んで「お願いしまーす」と料理人に声を掛ける。1人じゃなかったらしく、奥からは若い男の声も聞こえてくる。店は既に客でいっぱいだが、滝を見てから帰る観光客も多いせいか混雑はする様子がない。

「じゃあ来る間、次レビューする小説読むか」

「そうだな」

 ゲームをしようにも充電が若干不安だ。調子に乗って写真を撮りまくったせいだろう。携帯充電器は持って来てるが……せっかくの旅行だ。なるだけ風景の方を優先したい。物語の舞台にもぴったりだ。夏だったら、さぞかし良い光景になるかもしれない。


 今回レビューするのは、夏村シュウさん作、『死ねない狐は闇夜に舞う ―妖憑きの落ちこぼれ陰陽師―』だ。



「で? 読んだ感想は?」

 そう訊かれたのは観光スポットの休憩所だった。小さな小屋の中は扇風機が壁に取り付けられてて時代を感じる。中には、あまり人は居ない。自販機が置いてあったがホットはお茶だけだった。

 俺は再度小説の内容を振り返りつつ、熱いお茶を喉に流してから話し始めた。


「ダッシュの使い方が特殊な事以外は、WEB小説の基準で考えたら普通寄りだとは思う。前に言ったけど、俺みたく3000字くらい欲しい人にとっては話数から割れば物足りないと思うが」

「前も言ったけど拓也が活字ジャンキーなのもあるとは思うぞ、それ」

「まぁ……WEB小説だと割と普通だしな。今回は序章から5話までの全6ページ、合計話数が10126字だから、ここの範囲内で話していく」


「じゃまず内容は?」

「王道的な現代ファンタジーだな。陰陽師の学校に通ってる割に剣術以外は落ちこぼれな主人公が幼馴染の女の子と一緒に怪異に巻き込まれるって話だ。今回見た部分までだと【鬼に襲われどうなる女の子!?】って所で終わってるから、これ以上はレビューのルール上書けない。ざっくり話を分けるなら、3話くらいで主人公と幼馴染の話、2話で怪異に巻き込まれる戦闘シーンになる」


「文体とかは?」

「一般的なWEB小説の文体だとは思う。台詞の行間を空けたり、一行が短かったり、長かったりで俺的にはもうちょっと詰めて書いて欲しいなぁ……と思ってしまう文体なんだよな」

「隙間空けるのは普通じゃないか?」

「でも、その分だけ会話の纏まりが無くなってしまうし、1つ1つのインパクトが減っていくから会話文は纏めても良かった気がするかな。後、ダッシュの使い方がちょっと引っかかった」


「例えば?」

「ダッシュ(―)って基本的に2本繋げて置いてあるんだよ。(例:――)長い場合(―――――)は緊迫した場面や、無言の瞬間やインパクトを与える時に使ってる場合が多くて、俺はちょっとそこで『あれ、なんか違う……?』って違和感を覚えてしまったかな」

「あぁ……普段見ないタイプに出会うと、一瞬『ん?』ってなるやつだな」

「読むのに時間が掛かるというか……打つ方も手間が増えるだろうし、見る方も視線が動きまくるから、出来たら2本線にした方が良いと思う。WEB小説だし、これは細かすぎる点かもしれないが、インパクト的な意味でも薄くなっていくからここで落とすのも勿体ない」


「表現的にはどうなんだ?」

「後は世界が反転したシーンだと『辺りの活気が消え失せた』とか、もう少し現世と隔離されてしまった異世界感を出しても良かったかなと思う。三人称視点なのも原因かもしれないが、盛り上がり所も引き込むより、状況説明が優先的になってしまってる気がして、本来インパクトを与えるはずのダッシュが淡々とした文章の一部に混ざってるのももったいないと思ったな。せっかく主人公の説明や世界観の説明で、引き込み自体は良いと感じたんだが」


「良い部分はもちろんあるけど、その分だけ悪い部分が目立ちがちに感じる点もあるってところだな」

「三人称一視点、説明はすると主人公の視点を中心に書く事を置いていくと、作者自身も話に入りながら書いていけるから……俺も三人称視点の作品は書いて、淡々としないようにしたいし、頭の隅に置くだけでもだいぶ違うと思うぞ」


「具体的な表現としてはどうなんだ?」

「表現1つ1つにあまり悪い点は見当たらないけど、場所が住宅街だし下校時刻なら、人が居てもおかしくないから『ここまで辺りが変貌したというのに、家からはざわめき一つ聞こえない』みたいな、もう一歩、背景に踏み込んだ描写が欲しかった部分はあるかもな……俺からは以上だ」



 話し込んでると周りの観光客はいつの間にか入れ替わっていた。子供連れの親子が居たはずなんだが、それが爺さん達になってる。しゃがれた話し声を聞きながら、俺達はそろそろ降りる事にした。温泉街の温泉巡りだってしたいんだ。時間は有効に使った方が良いだろう。

「よっし、アイス買って次行くぞー! 運動したから丁度いいしな」

「登山じゃなくて、観光コース歩いてるだけなんだがな……」

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