14.千の鈴の華を尋ねて バル@小説もどき書きさん作

 おでんの中では餅巾着が一番好きだ。なんで好きなんだと聞かれたら、まず「練り物」が結構好きだったから。二番目に、餅も好きだったから。合わさったらそりゃあ俺みたいな奴は飛びつくに決まってる。

 そういう訳で、友人から「後で金払うから具材買いに行って」と言われて買いに行ったのが約3時間ほど前になる。今年最高の寒さだとニュースで流れていた通り、外に行けば何にも守られていない顔が寒さで痛くて堪らなかった。

 さて、おでんは「じっくり漬け込まないといけないから時間もかかる料理」という印象があるが、実は煮込み過ぎない方が美味いらしい。


「だから意外とお手頃料理だったりするんだぜ。まぁ、具材の投入順番を守ったらの話だけど」


 目の前の友人、啓馬は自慢げにそう言って具材を注いでいた。食べる事への執着に並々ならぬ情熱を注ぐこの男の料理は意外と凝っていてハズレは少ない。まぁ、好奇心に負けてたまにゲテモノクッキングも始めてしまうんだが。

 炬燵の温さとおでんの湯気で全身温まると、気が抜けていく。

「それにしても、もうすぐ12月の折り返しだなぁ……どうだった、今年は」

「気分的には上を向けたけど、成果は出てない気もするなぁ」

「まぁ、上を向けただけ良しとしようぜ」

 俺にお玉が渡されたので、餅巾着と卵とこんにゃく、後はじゃがいもとはんぺんを取っていく。おつゆは多めに注いで、白ご飯が湯気を揺らしている間に「いただきます」と二人で手を合わせて食べ始めた。


「そういえば終わったらレビューするからよろしく」

「そんな事だろうと思ったよ」

「いーじゃん、自分の小説の更新終わったんだろ?」

「終わったんだから労わって欲しいんだけど」

 という事で食べ終わったら見る予定の小説は、バル@小説もどき書きさん作、「千の鈴の華を尋ねて」だ。


「ちなみに、見る話数は7話。合計で9617字な」

「はいよ」




「で、感想は?」

 啓馬がおでんの残りは置いておくらしく。丁寧に蓋をした後で聞いて来た。


「味が薄く感じた」

「いやおでんの感想じゃなくてだな……」

「小説の感想だよ」

「あぁ、そっちか……うーん、どこら辺がそう思ったんだ?」

「俺は百合小説はよく分からないから一般的な恋愛物に置き換えて話すんだけど、まず波がない。ただひたすら文字が置かれているだけに見える」


「具体的には?」

「主人公の描写もたぶん恋する相手の先輩も、第一印象は『一般人』でキャラ立ってるかと言われたらピンと来ない。背景も極力減らしてあるし、いわゆる主人公の心理描写、それの殆どが全部説明のための台詞に置き換えられてるのが目立った。一人称視点を使ってるのに先輩の第一印象で『綺麗に思った』とか、お世話のシーンで優しくされた所を長く取って、少しトキめいた所を作るとか……とにかくそういったものを台詞多めにして減らしてるから薄く感じる」

「緩急がちょっとないような印象に感じちゃったわけか」

「特に10000字以内で見た場合、後半の台詞の「」が多めとか、続けば続くほど、文章らしさが減っていく気がするから見ててモヤモヤしちゃうんだよな」

「書き手目線だとは思うけど、見てて気になっちゃうというか……不安に感じる人が結構多いとは聞くしな。レビュー以外で俺らも「」が続くと不安になるし」


「主人公が先輩にたまたま話しかけられて勉強を教えて貰う事になった。10000字の中で説明出来てるのがここら辺なんだけど。さっき言った出会いの第一印象の薄さもあってか話の軸もあやふやに見えて、どんどん退屈に感じて来る。さらに言っちゃうと、俺的にシナリオの中でマイナスに感じたポイントがある」

「マイナス?」

「その中で主人公の昔のトラウマみたいなものも主人公自身が先輩と打ち解けて話すんじゃなくて、友達が勝手に喋ってるから俺的にはこの行為が結構マイナスに見えた。そこって盛り上がり所の1つなんじゃないの、って俺は思うんだよ。普通一悶着ある所を簡略化しちゃってると、2人の間に芽生える感情に入るには一層難しくなるんじゃないか?」

「えー、でも勝手に他人が主人公の過去を喋り出すとか、恋愛ドラマとかでも結構ありがちだと思うんだけど?」

「ありがちだからこそ崩した方が良いと思うし、それって親しい仲になってからだろ? 俺個人の感想だけど幼馴染に近い関係とは言えど、付き合いのかなり短い人にトラウマを話すっていうのは感情移入し難い部分だったかな。主人公が中々友達作らない性格ってだけに、そういう話ってもうちょっと慎重にならないか? と考えてしまうんだよな」


「ここまでめちゃくちゃ辛口評価だけど……良い所はないのか?」

「キャラの設定そのものに魅力的な要素がゼロかって言われると、きちんと背景の描写と心理描写を書けば魅力的に魅せられる要素は十分あると思う。ただその場合は主人公と相手の姿が想像し易いような姿の描写は欲しいし、『多視点』になるならきちんと区切った方が良いんじゃないかな。主人公→違う子になる話も転換も、全員女の子だからこそ見難いからな」



「おでんの中に七味唐辛子全部ぶち撒けたみたいに辛口レビューだったな」

 レビューをアップロードし終わった啓馬は何やら難しい顔をして唸っていた。

「これが持ち味だから仕方がない」

「そんな辛口な拓也に甘いアイス買って来たぞ、食おうぜ」

「炬燵にアイスって分かってるじゃん」

「そうだろう、もっと感謝してもいいぞ」

 啓馬が意気揚々と取り出して来たのは、片や100円で買えるアイス。片や、あのリッチで美味いアイスだった。啓馬は当たり前のように「お前はこっちね」と俺に100円の方のアイスを渡した。

「おい」

「俺の金だもーん」

 スプーンで掬って食べている啓馬はそれはそれは憎たらしい顔でそう言った。それを言われたら元も子もないが、ならおでんの具材分で結構な金使った気がするんだが?

「んー、美味いわ。さすが群馬の誇り!」

 そんな事を言いながらアイスを頬張る啓馬を恨めしい目で見ながら、俺は100円のソーダアイスをかじり始めた。

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