12.菊とミココロ 森緒 源さん作

 時刻は深夜帯。自分の作品の更新は済ませて、じゃあ次はレビューだと次の作品を読んでいく事にした。最近だと電話代が無料になったり、通話がパソコンでも出来るツールがあるから良いものの、一昔前だったら電話代が気になってしょうがなかっただろうな。

 そんな話はさておき、俺はビデオカメラに繋ぐ。約束の時間ぴったりに啓馬がログインして来て「ばんわ! 拓也!」といつの時代の挨拶だと思うような挨拶を明るく言ってきた。

「更新終わったのか?」

「一応は……手直ししてたらもうこんな時間になったけどな」

「よくあるよくある。そんじゃ早速読もうぜー」


 今日見る作品は、森緒 源さん作の『菊とミココロ』だ。


「で、感想は?」

「三点リーダーの置き場所が気になり過ぎて内容が頭に入らない」


「いきなり過ぎない?」

「いやもうとにかく気になる。一般的な使い方から外れて、急に変化球な文章が来ると人は内容を見て、まずは困惑の方が先に来ると思う」

「辛辣だなぁ。文体の癖は人それぞれあると思うんだけど……内容に関してはどうだ?」

「クスッと笑える日常物語で悪いとは思わない。共感できる部分もある。たださっきも言ったけど文体が気になって内容どころじゃなかった。だから俺からもう言える事がない。もうまとめも書いておこうか。今回はパソコンだから直接メモしなくていいしな」

「お前の汚い文字を見ずに済むな」

「うるせぇ」



【まとめ】


・三点リーダーを文頭に置く書き方は私が知っている限り一般的な文章ではないと思います。台詞でしたら沈黙を表現したり、沈黙からの発言をする場合に使うケースもありますが、「…………」等も漫画的な表現で、記憶している限りライトノベル以外の小説ではあまり使う人は居なかったです。


・有川浩先生など、商業も三点リーダーは文頭置きの書き方をしますがごく稀で、使う場合も「……僕は~」等の書き方だったので、もし変えられるのでしたら三点リーダーというより「…」の文頭置きは止めた方がぐっと読み易くなると思います。


・他にも「!…」や「…僕は~」等、他の人達や購入している小説等では見ない書き方が目立ってしまい、どうしてもそこに目が行き内容が中々頭に入りませんでした。


・そして登場人物の名前が最初に詳しく上げられていますが、できるなら簡略化しても良かったのかなと。「僕の妻、マキが~」も「妻が~」くらいに省略できるのではないかと思いました。そんなに登場人物は一辺に覚えられないと思いますし、短さ的に詳しく紹介する必要もないように感じました。


・内容としては「クスッと笑える日常」な物語で決して悪いとは思いません。日常的な「あるある」というより「ちょっと思った事のまとめ」としては共感できる部分もあります。ただそれだけに、文体の部分が邪魔をしてしまうような、ノンフィクションの作品として昇華しきれてないような印象を受けました。


 静井 拓也



「こんなもんかな……」

「全体的に辛口なレビューになっちゃったなぁ」

「俺が色んな小説見た上で思った事だし、ここら辺は譲れないから正直に書くしかない」

「そこはお前頑固だしな」

「うるせぇ」


 深夜のレビューが終わり、俺は時間を見る。すっかり日付が変わってしまっていた。ふと画面の啓馬が「そういえばさ」と何かを思い出したように話を切り出した。

「お前、あの話は聞いたか?」

「何が?」

「俺らと同学年で美術部の子が居たろ、写真で賞取った奴」

「あぁ……あの女の子な」

「今度、写真集を出すらしいぜ。海外を飛び回って撮った写真が評判良いんだって」

 啓馬はまるで自分の事のように喜んでいたが、俺としては「どうでもいいな」という感想くらいしか浮かばなかった。髪が短くて、背も高くて、一見すると運動部に居そうなほどスタイルも良かった彼女は、何かと学内を走り回っている印象が強く残っている。

 しかし、その程度の相手だ。話した事もない。

「へぇ、凄いじゃん」

 明らかに興味がなさそうなのが伝わったのか、啓馬は面白くなさそうな顔をした。

「なんだよ反応薄いなぁ。周りの人間が評価されたら普通気にならないか?」

「写真に興味ないからピンとこないんだよ」

「あ、ならさ。これはどうだ? 大学の時の先生に貰ったんだけど、CM作った人たちの授賞式あるんだってさ。チケット2人分」

「クリスマス間近に?」

「こんな年末にな」

 俺としては「こんな時期にやる事か?」という疑問が浮かぶのだが、何が面白いのか啓馬の方はけらけらと明るく笑って見せた。

「前に行った事あるんだけど、カメラマン以外は俺の他に4人くらいしか居なくてがらんがらんだったし……人混み嫌いな拓也にもピッタリじゃないか?」

「はぁ……まぁ、時間が空いたら行くよ」

「よっしゃ! じゃあ後で日付と時間はメッセ送るな! それじゃ!」

 行くとハッキリ言っていないにも関わらず、啓馬は一方的に言った挙句に通話を切ってしまった。めんどくさいな、と思いながらもまぁ特に予定もないからいいかと、俺は椅子の背もたれにもたれつつも背伸びした。


 1人の部屋には暖房が稼働する音だけがずっと続いていた。

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