レビュー作品のリスト
第1回目 (全10作品)
1.週末深夜のここで踊ろう 杜松の実さん作
俺は小説家を目指すアマチュア作家一か月目なんだが、ここ最近は中々自分らしさや書きたい物に関してのもやもやが溜まっていき、正直に言えば行き詰っていた。まだ一か月、始まったばかりで何を言ってるんだと思われそうなんだが……更新しても伸びる気がしない。
もっと良い文を……なんて書いてノイローゼ気味になってると、遊びにやって来た同じ執筆仲間であり友人の
「――最近のお前には余裕がない!」
と叱られ、俺こと
「作品読むなんて時間は……」
「勉強だと思って読めよー、色々とあるんだぜ、ほらほら」
まず最初に目の前の友人、啓馬は企画を立ち上げた。読む小説を募集するというものだ。ただし無尽蔵の募集を掛ける訳にもいかないから、条件を付ける。結果、早速参加があったというので、まず最初に投稿してくれた人の小説を読む事になった。
3000字程度の、いわゆる短編物。
作品名は、杜松の実さん作『週末深夜のここで踊ろう』だ。
タップしていきページを滑らせていく。久しぶりに、俺は読者となっていた。
「で、読んだ感想は?」
息を吐いて顔を上げた俺に、啓馬が明るく訊ねて来た。俺はなるだけ丁寧に、簡潔に、しかし柔らかい言葉を選びながら感想を連ねていく。口の中で咀嚼するように、何度か言葉を噛むように細かく砕こうとする。
そして口を開いた。
「んー……いきなりで申し訳ないんだが、最初にパッと見て思うのは『男の……』の文字の多さかな」
「ほほう」
「メインになる登場人物は2人、男とダンスフロアの女だけだ。だからこの場合『男は〇〇した』を出した後は表現する時には『〇〇した』でも十分通用すると思う。三人称視点だけど一人称視点だと情景が伝わり易く、入り込みやすかった……かもしれない。これは好みの問題だと思う」
思わず早口になってしまった俺に啓馬は苦く笑って、若干呆れも入ってる顔をしていた。
「相変わらず文章になると厳しめになるなぁ、お前……」
「色々と読んでて自分も読み直してたら『あー、書き直してぇ!』ってなるからなぁ……だから厳しくなるのかも」
啓馬は「うーん」と唸りながらも手を組んで考え込む。
「でも俺はちょっと分かるぞ、こう書いちゃう気持ち。後で読み返すと『あーこれ余計だったかなー』って思っててもさ、書いてると『これ補足しないと分からないんじゃないか?』って気持ちになるんだよな」
「でも小説家って、読み直すより先に投稿したくなるし、その時は『最高傑作が出来た!』って気持ちになるんだよな……」
「校正やら文字を見せるって難しいよなぁ。小説家が編集とマンツーマンでやらなきゃ上手くならないっていうの、本当だと思うけど……俺らはそれぞれ素人だし」
「見せ合う時間も中々取れないしな……」
誤字脱字を投稿後に発見して死にたくなったりするから、あいつらってきっと投稿するまではステルス能力でもあるんじゃないかって思うもんな……と、これじゃあマイナス点だけだし、良いって感じた部分も言わないとな。
「あ、でもこういう場所には行った事ないけど、そこに通う男の哀愁っていうのか? そういうのは嫌いじゃないぞ。推理小説やミステリー、日常系にはこの文章の雰囲気はぴったりだと思う。情景に拘ったって本人も書いてるから、静かな場所でコーヒーを飲んでるってのはちゃんと伝わるし」
「なるほど……」
「俺はファンタジー系が中心だから中々こういう日常系は手を出さないけど、好きな人は好きな文章だろうな」
啓馬は俺の話を聞き終わった後、何やらスマホを取り出すと指がせわしなく動き始めた。
「何してんのお前」
「いや感想をさ、本人に見える形で掲載する事にしたのよ」
「はぁ? 聞いてないんだけど」
「まぁまぁ……厳しめだろうがなんだろうが、作家ってのは反応貰えると飛びつくもんさ」
「……うーん、俺の今言った事で傷つかないか? 評価は確かに気になるけどさぁ、同じ作家のモチベーションダウンさせる真似なんかしたくないんだけど」
「そん時は謝ろうぜ!」
「謝らないようにするのが一番なんだけどな……」
「でも『感想書きます(厳しめになるかもよ)』って載せてるんだから、ある程度皆は覚悟した上で参加してくれてるだろ」
「いや、勢いだけかもしれないぞ?」
「そん時はそん時よー」
笑いながらスマホ打ってる啓馬のこのお気楽さ、たまに羨ましく感じる。あーあー、作家間でのトラブルとか泥沼になりかねないぞ。そうならないと良いんだが。
「ほい、アップロード完了! じゃ、次の読もうぜー」
「まだ続けるのか……?」
「だって10作品だし、今も参加人数増えてるぞー」
「うぅん……」
「ほらほら、飯をおごってやるからがんばれって! もう企画立ち上げちゃったし、気分転換は大事だぞー」
こうして俺は気分転換といわゆるレビューのため、啓馬に引きずられながら外へと出て行ったのだった……
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