第9話 今日の色

「今日は心理テストをしまーす!」


 マヤちゃんが高らかに宣言する。

 心理テストかー。久しぶりかも。


「いつもいきなりだな」

「色を一つ思い浮かべて、直感で!」


 ナギトくんの声は届かない。


「それで、これで何がわかるの?」


 アカリちゃんが文庫本から顔を上げる。アカリちゃんも気になるみたい。


「それでは結果発表ー! その色に関係するものを持ち歩いてると、今日いいことがあるんだって!」

「それってテストっていうより今日の運勢とかじゃないか?」

「あ、ほんとだ。これ今日の私の運勢だった。まあ、いいや」

「心理テストどこいったんだよ」

「いいから! みんな何色だったー? 私はピンクだったから、うさぎのキーホルダーつけてるの。ピッタリでしょー?」

「確かにピッタリだね。うさぎもマヤちゃんに似合ってるよ」

「ありがとー、ヒカリちゃん。ところでみんなは?」

「わたしは、赤でしたー。でも、赤いもの今、持ってないです」

「えーと、赤でしょ……あっ! 赤のヘアピンあるから貸したげる!」

「ありがとうございます。これでわたしもいいことがありますねー」


 リサちゃんがヘアピンをつける。前髪がちょっと変わるだけなのに、別の女の子みたい。


「アカリはー?」

「私は緑」

「緑かー。あっ、それ緑じゃん! クローバーのストラップ。しかも四つ葉じゃん! ラッキー効果上乗せだよ!」

「なら良かったわ」


 アカリちゃんは文庫本に目を落とした。


「ヒカリちゃんはー?」

「ぼくは黄色だったなー。黄色のものなんてあったかなー?」


 ちょっとカバンの中を漁ってみる。


「なかった……。どうしよう」

「黄色でしょー? なにかあったかなー? あ、これいいかも。フッフッフ……。ヒカリちゃん、幸せになりたいー?」


 マヤちゃんが怪しい魔女みたいに笑う。


「マヤちゃん、ちょっと顔がこわいよ」

「マヤさん、それってもしかして……!」


 なんでリサちゃんはエキサイトしてんの?


「じゃーん! カチューシャでーす!」


 マヤちゃんの手に握られていたのは、黄色のカチューシャだった。なんかそんな気はしてたけど。


「これだったら黄色だし、身につけられるから、一石二鳥だよ」

「占いでは、持ち歩けばいいって言ってるから、カバンの中とかじゃだめ?」


 付けるのは恥ずかしいけど、カバンの中だったら、他の人に見られることもないし。


「何言ってんの? ヒカリちゃん。カチューシャは頭に付けるものだから、そうしないとご利益ないよ?」


 だめだった。


「で、でもさ、部室だったらまだしも、下校中は他の人たちに見られて、ぼくが女装趣味だと思われちゃうよ」

「大丈夫だよー。ヒカリちゃん女装似合うし。一年生の大抵が知ってると思うよ。ヒカリちゃんが女装してるの」


 マヤちゃんがさらりと言う。


「なんで知ってるの!?」


 わけがわからない。


「なんでもなにも、ファンクラブがあるんだよ。ヒカリちゃんの。ちなみに会員No.1兼会長のマヤでーす」


 マヤちゃんがウインクする。


「何それ聞いてない!」


 頭が痛くなってきた……。


「たぶん知らないの、ヒカリちゃんだけだと思うよ? ねー?」


 マヤちゃんが周りを見渡す。


「はーい。会員No.2兼副会長のリサです」


 リサちゃんがにっこりと微笑む。


「会員No.3」


 アカリちゃんが文庫本から顔を上げる。


「律儀だね、アカリちゃん!」

「ヒカリちゃん、ハイテンションだね」


 マヤちゃんがニマニマしてる。


「まさかとは思うけど……」

「会員No.4、深海凪人」

「やっぱりー! ていうか、なんでナギトくんキメ顔なの!? ナギトくん、あれかな? 写真撮ってるのバレてから開き直ったのかな!?」

「ヒカリさん、落ち着いてください。深呼吸しましょう。ひっひっふー。ひっひっふー」

「リサちゃん、それ違う」


 とりあえず深呼吸。スゥー、ハァー。


「落ち着いた?」


 アカリちゃんが心配そうな顔をする。


「落ち着いたよ。みんなごめんね。取り乱して」

「いいよー。怒ってるヒカリちゃんもおもしろかったし、かわいかったよー」

「確かに」


 ナギトくん、やっぱり開き直ってるよね。


「ところで、ナギトくんの色って何色だったの?」

「ああ、青だな」

「青のボールペンとかでいいんじゃない? もう冷めたし」

「適当だな!」

「ナギトのことは放っておいて、みんな帰ろー。 はい、ヒカリちゃん。カチューシャ。ほら、やっぱり似合うよ」

「ありがとう」


 褒められるのは嬉しいけど複雑だなあ。


「じゃあ部室の鍵は俺が返しておくよ」


 そう言って、鍵を持つナギトくん。胸ポケットに青のボールペンが入れてある辺り、ナギトくんも律儀だな。


「じゃあ、校門で待ってるからー」


 マヤちゃんが言う。

 ナギトくんが職員室へ歩いていく。


「ねー、みんな気づいた? ナギトのやつ青いボールペンを胸ポケットに入れてたよ」

「見ました見ました。萌えましたー」

「見たわ」


 みんな気づいてたみたい。

 そんな話をしながら、校門で待っているとナギトくんがやってきた。


「なんだ? みんなしてニヤニヤして?」

「別にー」

「なんでもありませんよ」

「なんでもないわ」

「なんでもないよ。それより帰ろ」


 ナギトくんは不思議そうな顔をする。

 それはそうと、帰り道は視線が痛かった。

 変な子だと思われてるのかな……。



「(見て、あの男の子。カチューシャ付けてるわよ)」

「(あら本当。よく似合ってるわねー)」

「(男の子の制服を着た女の子ってことはないかしら)」

「(そうかもしれないわねー)」



 ちなみに夕飯はカレーだった。

 良いことあった。ちょっと悔しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る