今日また君に、恋をする。

アキサクラ

その笑顔は、私のものです。 Misa

若尾わかお未紗みさは、笑ってる方が、絶対可愛い」


落ち込む私に向かって、そう言いながら君は笑った。

私の頰を、優しい、甘い薫りの風が吹き抜けていった。

君の笑顔を、私は目の裏に焼き付ける。



その笑顔に、釘付けになった。



彼の名は、青井あおい夏樹なつき。クラスメイトだったらしい(知らなかったのだ)。そういえば、運動神経がよく、体育祭や体育の授業では、活躍しているところをよく目にする。しかし、勉強は苦手らしく、授業中には居眠りをしていたりする。



一生懸命走る横顔。シュートを決めたあとの喜ぶ顔。授業中の気持ちよさそうに眠る顔。かと思えば、顔を歪ませて必死に問題ぬ食らいつく顔。テスト中の魂の抜けたような顔。

全部全部カッコよくて、全部全部愛おしかった。



知ってた。

青井くんがモテること。

私が付き合えるはずなんてないこと。

全部全部、分かってた。分かってるつもりだった。だけど、ダメ。好きだから、好きだから。目で追いかけてしまう、すぐに探してしまう。一つ一つの言動に機敏に反応する。



「若尾ってさ、絶対夏樹のこと好きだよね」


放課後、忘れ物を思い出して教室に入ろうと、ドアを開けようとするが、グッと押し止める。

この声は、青井くんと仲のいい、黒石くろいしくん?


「やっぱ?俺もかな〜って思った」


そしてこの声、同じく仲のいい、山崎やまさきくん?

青井くんの仲良しグループが、私について話してるの?

もしかして、青井くんもこのなかに‥‥‥。

『若尾なんて嫌いだよ』そう言われてしまったらっ‥‥‥私明日から生きてけないよ‥‥‥。


「気の毒だよなー、夏樹も。笹木ささきみたいな可愛いやつから好意寄せられるならともかく、若尾だぜ?」

「だよなー、勉強しか取り柄ありませんって感じ?俺だったら耐えれねえなあ」

「忠告してやったほうがいい気がするな。あーゆー子、すぐに勘違いして調子乗るから」


やだ、やだ。聞きたくない。逃げてしまいたい。黒石くんの言葉から。山崎くんの言葉から。みんなの言葉から。そう思うのに、氷のように冷たくなっていく体は言うことを聞かない。その場から一歩も動けない。


「そんなこと、ないと思うけどな」


凛とした声。そして今、一番聞きたくなかった声。私の後ろから聞こえた‥‥‥?


「あ、青井、くん」


歩み寄ってきた青井くんは、ためらうことなく私の手の上に自身の手を重ね、ガラリと教室のドアを開ける。そこには思ったとおり、青井くんと仲のいい、黒石くん、山崎くん、その他にも二、三人が、私達を見て固まっていた。


「気の毒がらなくて結構。笹木に好意寄せられても興味ない。若尾から好意寄せられるなら嬉しい。勉強しか取り柄ない?そんなわけ無いだろ。ちゃんと若尾のこと知ってから物を言え。忠告なんてする必要はない。若尾は勘違いなんてしてない」


わかったか。そういうように黒石くんたちを見渡す。するとすかさず山崎くんが茶々を入れる。


「青井って、若尾のこと好きなの?」

「好きだよ」


コンマ一秒も開けない強い声。それがなにか。そういうようにあっけらかんと言い放つ。


「‥‥‥ふん。お幸せに」


耐えきれなくなった黒石くんは、そう呟いて教室から出ていく。

「待ってよ都築つづき!」

後を追うように山崎くんたちも教室を出ていく。



二人きりに、なってしまった。



「あ、あの‥‥‥」

「俺、ちゃんと言わなきゃだよな」


私の言葉にかぶせるように言う。

照れたように頬を赤く上気させ、少し笑う。



「俺は、若尾未紗が好きだ。誰よりも可愛いと思っている。できることなら、俺の隣で笑っていてほしい」



駄目かな。そう小さく呟く青井くんは、見たことがない。可愛い。唐突にそう思った。



私も、ちゃんと言わなきゃ。口下手だし、コミュ力ゼロだけど。きっと今言わなきゃ、後悔する。



「私は、青井くんが好き‥‥‥。誰よりもかっこいいと思ってる。青井くんの笑顔が好き。無邪気に笑う、笑顔が好き。だから、私のために、笑ってほしい‥‥‥」



ゆっくりと、間違わないように必死に言葉を紡ぐ。顔が熱を持つ。きっと私の顔は、真っ赤だ。


「よかった」


へへっと笑う青井くんの顔。また一つ、好きな笑顔を見つけた。



その笑顔は、私のものです。

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