#2 バーチャル美少女創肉

 次の日、ポチッた例のブツが届いた。


 先程ドローンで運ばれて来たカセットの包装を丁寧ていねいに丁寧に開ける。ソークリ改めソークソは確かにクソだ。だが包装君に罪は無い。彼は哀れにもトイレットペーパーとして選ばれてしまった悲しい包装なのだ。

 AWLOのカセットを専用ハードに挿し込み、ダイヴァーチャルを頭に装着する。

 可哀想なダイヴァーチャル。うんこが挿入そうにゅうされているが、少しの間我慢してくれよな。


 サービス開始は四日前からだ。出遅れた感はあるが遅くは無いだろう。

 だが既に初日組やベータ組とは大きな差が開いているはず。こころしてかからねばなるまい。

 設定を終えてゲームを開始すると、軽快でキャッチーなオープニングが流れ始める。無駄に綺麗で繊細なグラフィックだな。だが俺のDLOも負けてはいない。

 あのツブツブザラザラしたグラフィックがまたクセになるのだ。素人しろうとには分からないだろうな。

 ソクソのゲームを持ち上げる為だけに曲を作らされた作曲者に作詞者、編曲者やボーカルの人に合掌しながらスキップする。これ以上聴くと洗脳されてしまいそうだ。

 意識は暗転し、次の瞬間。俺は知らない空間へと飛ばされる。

 水色の半透明な正方形で床が埋め尽くされた、いかにもサイバーって感じの空間だ。

 正方形の板は淡く輝いており、吸い込まれそうな程に真っ暗な空間を幻想的に照らしている。


「こんにちは、竹島たけしま琉真りゅうま様。ワタクシは管理AI-019号の『ゴッディー』で御座います。」


 話しかけて来たのは鹿の角が生えたタコの頭部に人間の胴体、五対十枚の真っ白な翼が背中から生え、腕は六本ある。ゼウス的なのが着てそうな服を着た怪人だった。

 後ろからは光が刺しており、ジャラジャラと身につけた金と青のアクセサリーとひたいについた真珠が乱反射している。

 きもちわるっ。

 しかし何だろう、この世界中の神様を集めたキメラは。暗黒神話クトゥルフ要素が神々しさを全てかっさらって居る気がしてならないのは俺だけだろうか? どう見たって邪神じゃないか。

 こういうのは普通美少女が定番であり一番求められている物だろう。やはりソクソは頭がおかしいな。


「まず、竹島様にはアバターを作ってもらいます。体格や顔、それから種族をお選び下さい。」


 神キメラがそういうと、目の前には人型の模型のようなものが現れる。多くのVRゲームの場合、この模型をコネコネして自分が世界へ降り立つ身体を作るのだ。

 俺は迷う事無く肉体性別を女に変えた。


「やっぱネカマに限るよな」


 決して変な趣味があるという訳では無い。これにはれっきとした理由が存在するのだ。

 一つ、女キャラは警戒されにくい。むさ苦しい野郎だと詐欺かなにかを疑っちまうモンだ。

 二つ、女キャラは囲みを利用し様々な局面で優位に立つことが出来る。信者ってのは便利だ。情報も頭数も一人でやるより何倍も多くなる。ネカマ歴4年の俺は自慢じゃないが演技が上手い。暗殺対象に近づく技術を磨く為だけに動画サイトで演技の練習をしたあの頃を思い出す。泣けてくるな。

 三つ、バ美肉をいっぺんやってみたかった。趣味だ。


 という訳で、俺が求める程々に可愛く、程々に背が高くて程々に胸なんかがあるキャラクターが完成した。

 その間なんと脅威の2時間36分。


「うん、完璧」


 程々にしたのにも理由がある。決して自分の性癖では無い。

 世の中の陰の者って言うのは、程々に可愛い守って上げたくなるような女子がタイプなのだ。これは統計学的な結果がある。つまり経験則だ。

 それにあんまり絶世の美女過ぎると逆にネカマ臭い。ネトゲでは割と美少女がゴロゴロいるわけで、逆に陳腐ちんぷになってしまうのだ。

 そして何より俺の好みだ。

 以上の事からこの完璧な形態を完成させたのだ。異論は認めよう。俺は性癖戦争を起こしたく無いからな。この手の話題で血みどろの紛争が繰り広げられたのを俺は何度も見て来た。


「あ、あ……ホワァァァァッ!!!」


 oh!フ〇ック! 種族を決める前にアバターを作っちまったぜ! ジーザス!オゥメィグァ!

 俺は種族欄をスワイプし、品を見定める。

 そして恐る恐る〈半精霊人ハーフ・エルフ〉を選択する。するとどうだろう。益々ますますいい具合になってしまったよ最高か。

 通常、アバターは種族を変えるとその印象はガラリとかわる。まあ、それは普通だろう。問題はこの2時間半をかけた芸術品が台無しになってしまわないか、そこだった。

 しかし、ハーフエルフという未成熟さを感じさせる種が見事にアバターのデザインコンセプトにマッチし、圧倒的な美を創り出したのだった。

 いやぁ我ながら素晴らしい。

 ちなみにハーフエルフにした理由は


 一つ、エルフ特有の肉体的ハンデが軽減されるから。

 二つ、人間ヒューマンよりも魔力と器用さに秀でているから。

 三つ、かわいいから。


 である。我ながら天才的な発明をしてしまった。トーマス・エジソンかニコラ・テスラかにでもなった気分だ。


「では、次にアバターネームを決めて下さい。」


 キメラがセリフを言い終わると同時に入力欄が現れる。バンブー……っと。

 由来は苗字が竹島だからだ。竹は英語でバンブーらしいが、英語圏に竹があるのだろうか。地理に詳しくない俺には一生答えの出ない疑問だ。

 それに偏見だが、何となく響きが女子っぽい。


「バンブーで。」


「バンブー様、次にスキルをお選び下さい。異邦人プレイヤーの皆様には初歩的なスキルを最大八つまで選んでいただく事が可能です。

 この場で選択しなくとも、プレイ中に空き枠を使って自由に選ぶ事が可能です。ただし、選んだスキルは選び直す事は不可能ですので、お気をつけ下さい。」


 異邦人いほうじん、というのはこのゲーム世界でのプレイヤーの名称みたいな物だ。他のゲームで言う「彷徨い人」や「異世界人」に近いだろう。

 早速スキル一覧に目を通す。

 流石は超大手と言われる会社が作ったゲームだけあって、スキルの数も膨大だ。

 ソクソはクソだが厄介なクソくらいの価値はあるという訳だろう。


【隠密】【挑発】【契約】

【短剣術】【疾走】【闇魔法】

【[空欄]】【[空欄]】


 これでよし。

 俺のプレイスタイルは暗殺者。AWLOに職業システムは無いが職業っぽく出来る事を統一した方が良いのは明白だろう。

 それにいきなりやった事の無い事をすれば当然動きは素人なので、これまでつちかって来た技術を無駄にする事となる。だから俺はこのやり慣れたスタイルで挑むとしよう。

【契約】については、色々考えた破壊シナリオの一つに重要な役割をになっている。それを除いても便利だと思う。もっとも、このゲームのテイムについての仕様が明確にならない事には作戦はフワッとした物になるのだが。

 二つの空欄、これは保険だ。

 こうしておくことで絶望的な状況におちいった時、打開策になるようなスキルを習得することでそれを回避できる。我ながら完璧な作戦だ。


「それでは最後に装備をお選び下さい。」


 目の前にはペラペラの服やちょっと分厚い程度の革服、それらの色違いなどがズラっとならぶ。

 黒の長上下、革靴、武器はナイフで良いだろう。せっかく【短剣術】のスキルを取ったのだから。


「では、バンブー様。改めましてようこそAnother World Life Onlineへ。本ゲームプレイのお祝いとお礼として、スキルポイントを5ポイント、通貨を2500Gお渡し致します。我々は貴方の来訪らいほうを心から歓迎します。それではまたお会いしましょう……」


「チッ、」


 俺はキメラに向かって軽く舌打ちをした。

 意識が徐々に暗転する。うっすらと目の前の異形の姿が霧散むさんして行く。

 こうして俺はされたくも無い歓迎をされ、これから終わらせる世界へと降り立ったのだった。











>to be continued… ⌬

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