第45話 最下層到達者の特典

 ダンジョン最下層に辿り着けた者は、祝福というものを受けることができる。その祝福を受けることが出来る場所、神殿と呼ばれる建物がダンジョン最下層にあった。


 自然の現象では出来得ないだろう、明らかに誰かが作ったかのように見える建物。真っ白な石で作られた円柱が、天井を支えるために並び立っている。その向こう側には、真っ白な石で出来ている壁があり、何かの目的で建てられている。


 王国の建築技術を遥かに超えた、神聖さを感じる建造物。


「入りましょう」

「わ、わかった」

「大丈夫なの?」

「大丈夫です。この階層は、危険じゃないですよ」


 不安そうな表情を浮かべながら、2人は僕の後ろをついてくる。この場所について知識が無ければ、恐れるのも無理はないと思う。ダンジョン内の雰囲気が、いきなりガラリと変わるから。


 この階層には、モンスターが一匹も居ない。その神聖な建物の中に入って行くと、見通しの良いシンプルな広場がある。ただ1つだけ、フロアの中央には立派な作りの台座が鎮座していた。


 その台座の横には石碑が立っていて、そこに何かが彫られている。文字のようにも見えるし、絵のようなものも書き記されている。解読不能な何かが書き記されている石碑の中に、1つだけ僕らにも分かるモノがあった。


 一番上に書かれている”ケラヴノス”という文字だけ。


 誰がいつ、何のために作ったのか分からないモノ。しかし、他のダンジョンも同じように最下層には必ず、真っ白な石でできた円柱、真っ白な石の壁、その建物の中に台座と石碑という、同じような造りで出来ている同様の建造物があった。


 いつからか、この場所は神殿と呼ばれるようになっていた。


 


 ここに辿り着くと、台座の前に立って祈りを捧げる。すると、祝福と呼ばれている能力アップの特典を受けることが出来た。ダンジョンをクリアした、ご褒美のようなもの。まるでゲームの世界だけど、それは現実だった。


 どのダンジョンも何故か、石碑の一番上の文字だけ解読できるようになっている。それは僕だけのことではなく、他の人たちも読める。


 その読める文字が、ダンジョンの名前として任命されていることが多い。つまり、今僕らが居るダンジョンの名は、ケラヴノスという。


 だが、そのような名前のダンジョンは聞いたことがなかった。少なくとも、王国の周辺にあるダンジョンの名前には、どれとも一致しない。


「ケラヴノスダンジョン、か。聞いたことあります?」

「無い」

「私も、記憶にないわね」

「僕も、聞き覚えがないんですよね」


 姉妹2人にも聞いてみたが、やはり覚えがないという。


 僕たちが今居る場所はリーヴァダンジョンではなく、全く別のダンジョンだった、という予想が現実味を帯びてきた。


  それに関しては、後で考えるとして。先に祝福を受けよう。


 クロッコ姉妹は、ダンジョン最下層に辿り着くのが初めてのことらしい。2人が、祝福を受けるのは初めてだという事を意外だなと思った。僕は、ダンジョン最下層の神殿について知っていることを2人に解説しながら、台座の前に歩を進めた。


「こっちです。ここで、両手を合わせて祈ると祝福を受けることが出来ます」


 祝福を受けるのは、一瞬で終わる。それだけで、能力が一気にアップする。筋力や体力、魔力なんかも瞬時にアップした。そのため、世界中のダンジョンを巡り攻略をして、何回も祝福を受ける人たちも居る。


 実は、僕も過去に世界を旅していた頃に色々なダンジョンを巡って攻略し、祝福を何度か受けたことがあった。




 祝福を受けるためには、ルールがある。


 一度攻略したダンジョンで、祝福は二度と受けられなくなる。何度も繰り返して、同じダンジョンで祝福を受けることは出来ないらしい。


 それから、ダンジョンの攻略内容も加味されるらしい。より苦労をして最下層まで辿り着けたら、強力な祝福を受けられる。簡単に攻略を完了してしまったら、効果の薄い祝福しか受けられない。誰かに補助されたり、ずっと援護されて楽して最下層に降りてくると、僅かなステータスアップしか望めない。


 祝福を受ける本人が努力しないと、効果は薄いらしい。楽はできないような仕組みになっているらしい。一体誰が、どういう基準で判断しているのか分からないが。

 

 逆に、ダンジョンを1人だけで挑戦するという難しい条件をクリアした時などは、ステータスが何倍にも上昇したり、特殊な魔法や特技が使えるようになったりする。非常に強力な特典を受けることが出来る。


 もちろん、ダンジョンの難易度の優しい、難しいという難度によっても受けられる祝福の内容が変わってくる。


 実は、数日前の戦闘で僕がドラゴンから逃げるために使った、時間に干渉して時を止めるという魔法も、かつて祝福を受けて身につけた魔法知識をベースにして、僕が新たに編み出したオリジナルの魔法だった。

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