第二楽章 ストリートピアノを弾いてみたら恋心が芽生えた
駅にあるには少し偉そうなグランドピアノ。
僕は音色を確かめる様、静かに鍵盤に指をのせる。
さて……嬉しそうに座ったのはいいが、何を弾くか考えていなかったのでとりあえずは最近流行の曲でも弾いてみようか。
僕はつい先日公開された映画の主題歌を弾くことにした。
そして。
パチパチパチ!!!
…………!?
一曲弾き終え、指を離すと一斉に拍手が浴びせられた。
驚いて振り向いた僕の目に映ったのは大勢の人、人、人。
休憩スペースは元より2階からも沢山の人が拍手を贈ってくれていた。
うわっ!?マジかっ!
慌てて立ち上がってペコペコと頭を下げて退散しようとすると、聴いていてくれた方からリクエストが入った。
「えっと、他に弾く方がいらっしゃらないんでしたら……」
どうやら僕の他には誰も弾かないみたいで……僕は恥ずかしいやら照れ臭いやら、今更ながら平静を装って再び鍵盤の前に座った。
リクエストされたのは定番の卒業ソングだった。
そう言えば冬休みが終わったらあっという間に卒業式だよなぁ。
僕の脳裏にふと自分が中学を卒業した日の事が蘇ってくる。
…………
卒業式の後、最後のホームルームで担任の先生が号泣したんだっけ、ははは、あれは傑作だったなぁ。
普段は強面で通ってた先生があんなに泣くなんて、クラスの女子も貰い泣きしてた。
……放課後、僕は音楽室のピアノにひとり向かい合っていた。
県外の音楽学校に進学が決まっていたけど、本当はこの先音楽をずっと続けていく自信がなかった。
母譲りの音楽的なセンスはそれなりにあると自負していたし音楽、取分けピアノは大好きだ。
ポロンと鍵盤に指をおとす。
僕しかいない音楽室に音色が沁み渡っていく。
そのまま僕は静かにピアノを弾いた。
それからしばらく……僕はうしろに誰かの気配を感じて振り返り驚いた。
そこに立っていたのは吹奏楽部の部長と副部長、それに一年生の女子達。
どうも僕が扉を閉めていなかったのでピアノの音が外に漏れて、それを聴きつけて見に来たらしい。
「よう!いい演奏だったぜ!1箇所だけミスってたけどな」
「せんぷぁ〜い!そつぎょおめでとうでず〜」
「ほらほら、泣かない泣かない。全く……爽くん、良かったわよ」
「ははは、ありがと」
部長とは同じ学校に進学する。
副部長は確か地元の進学校に行くって言ってたかな。
「でもよ、最後くらいはバシッと決めて欲しかったな」
「仕方ないだろ?結構難しいんだぞ」
「まぁ俺ならパーフェクトに弾いてやるけどな」
「ははは、言ってろ」
卒業式の放課後、音楽室で最後にバカなことを言いあって皆んな笑いながら泣いたんだ。
…………
曲も中盤に差し掛かり、ウォーキングベースから思い切って転調。
何となく感傷に浸ってしまいそうになったけど、折角のリクエストだし少しでも楽しんでもらわないと。
卒業の曲だけあって元々しっとりとした、謂わば"聴かせる曲"なんだけどそれじゃあこの場の雰囲気に合わない様な気がするから。
スローテンポの原曲を少しだけアップテンポに即興でアレンジしてみる。
すると聴いてくれている人達が手拍子をしてくれる。
うん。いい感じだ。
僕はそのまま手拍子を背に最後まで一気に弾き切った。
さっきとは比べ物にならないくらいの拍手に感謝して僕はピアノから離れる。
流石にずっと弾き続けるわけにもいかないし、色んな人が弾いてこそのストリートピアノだから。
僕の後に座ったのは中学生くらいの女の子だった。
ポロンポロンと音を確かめているのを聴きつつ、僕は帰ろうとして……
女の子が弾き出した曲を聴いて足を止めた。
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