第12話 スナックのママに語りかける真一と『再会』

数日後、真一は北町のスナックのママのところに来ていた。


真一「先日は失礼しました」

ママ「いえいえ…。参考になったかしら?」

真一「おかげさんで大変参考になりました。おおきに、ありがとうございました」

ママ「それならよかった(笑)」

真一「…それでなんですが…」

ママ「何かしら?」

真一「余計なお世話かもしれませんが…」

ママ「何?」

真一「実は、先日ママさんから伺った叔父の話なんですが、あの話、叔父の実の娘の姉妹に話したのです。それは姉の方が彼氏にプロポーズされたのですが、中々返事ができなかった。妹も幼なじみの男の子が好きなのに、前向きになれなかったのです。長良川の話が決め手になりました。2人とも泣いていましたが、自分達のなかで納得して前を向いて大きな一歩を踏み出せたようでした」

ママ「そう、それはよかった」

真一「あとは、ママさんだけですよ。ママさんも他人事ではないんじゃないでしょうか…?」

ママ「…………」

真一「叔父が生前、ママさんに大変お世話になったことは親族にとって感謝しています。しかし、叔父が亡くなってから10年が経ちました。叔父の実の娘姉妹は新たな一歩を踏み出せました。これを機にママさんも区切りの年にしていただければと思っています」

ママ「………そうよね…。2人の娘さんも中々踏み出せなかった1歩が踏み出せたのなら、私もいつまでもクヨクヨしてられないわよね…」

真一「ママさんも新しい出会いがあればいいですね…」

ママ「真一さん、ありがとう」

真一「余計なお世話で、すんませんでした」

ママ「ううん、こちらこそ私のことまで気にかけてくれてありがとう」

真一「ママさんも叔父の娘2人も叔父が亡くなったことによって『トラウマ』が生まれたのですから…。ママさんだけ『トラウマ』を背負うのはおかしいですよ。誰も背負ってはアカンのです…」

ママ「ホンマにありがとう、ホンマにおおきに…」

真一「じゃあ、梅酒の水割りください」

ママ「今日は私がおごるわ」

真一「すんません、気を使わせて…」

ママ「ううん、私が浩二さんが亡くなってからのこの10年、ひた隠しにしていた『トラウマ』が私だけじゃなかったんだ…って。あなたに教えてもらって嬉しかったわ」

真一「……いえいえ」


真一は静かに梅酒の水割りを飲んだ。

その後、真一はスナックのママと叔父の話からママの恋の話に花が咲いていた。




季節はあっという間に師走、仕事も年末年始に向けての追い込みとなって多忙の日々だった。



休日、真一は年賀状の作成に勤しんでいた。ところが、今年の年賀状を誤って破棄しており、代わりに破棄する予定だった高校卒業した年・8年前の年賀状が残っていた。パソコンに住所録を保存していたが、パソコンが故障気味であまり役に立っていない。仕方なく、真一は8年前にもらった年賀状の宛先と会社関係へ年賀状を作成した。友人への年賀状には、


『誤って去年の年賀状を破棄し、破棄する予定の年賀状が残っていて、とりあえず残っていた年賀状を基に送付しております。久しぶりの方には「アニョハセヨォー」』


と、当時韓流ブームだったのにちなんで、韓国語で『こんにちは』と挨拶したのだった。


年が明け、元日。初詣から戻った真一は、体調を崩し寝ていた。翌日、体調も戻り、届いている自分宛の年賀状を見る。すると、優香から年賀状が届いていた。


『あけましておめでとうございます 今年もよろしくね』

『風の便りでこれまで色々と真一くんのことを聞きました。去年入院したんやって? 大丈夫なん? 私は大学を卒業して北町に戻ってきてるよ。家近いし、一度久しぶりに会えたらいいね。連絡待ってるわ』


真一(村田さん達から話聞いたか…)


真一は優香からの年賀状を見て、びっくりしていた。年賀状が来るなんて思ってもみなかったのだ。

真一は考えていた。優香に会うべきなのか…。8年前、腹を割って話し、翌年の正月明けに南駅でマグカップをもらってから一度も会っていない。そして優香に彼氏ができて、結婚間近と思われる…と真一は、会うべきではない態度をとっていたのだが、優香の年賀状に『連絡待ってるわ』と書いてあり、動揺していた。


そこで真一は、優香へ久々に手紙を書くことにした。文通して以来、8年ぶりに書いた。


『年賀状ありがとう。いや、昔の年賀状を破棄したつもりが去年の年賀状を破棄してしまって、わからんよなったから、とりあえず破棄する予定の年賀状から辿って出したんや。元気してるみたいやな。よかった。オレ去年は災難続きやったし、入院してからは体力が落ちてて、今も京都とか大阪へも車で行けれへん(行けない)。藤岡とか白木とかに連れてってもらうか、電車で行ってるんや。体力つけて、一人で車で遠出したいんやけどなぁ…。オレは今、おとなしい良い子しとるから、仕事以外は基本ずっと南町におるから、またよかったら声かけてな』


真一は8年前の文通と同じように、自分の名前は◯の中に“し”と書いていた。


真一が優香に手紙を出して4日後、優香からハガキが届いた。真一はなぜか唖然としていた。


優香『こんにちは。手紙ありがとう。久しぶりの文通やね(笑) 手紙見てる限り、元気そうやね。でも無理したらダメよ。まだ体力が落ちてて回復してるんじゃないからね。京都とか大阪とか遠出するのなら、私に連絡してくれたら、連れてってあげるで。また声かけてな。あと風の便りで聞いたけど、真一くん、去年は良いことなかったみたいだね。入院したことだけじゃなかったんだね…。ちょっと心配しています。私もいま北町で仕事してるの。土日は休みやから、もし真一くんさえよければ、近々会わない? また連絡待ってます』


優香も8年前の文通と同じように、自分の名前は□の中に“ゆ”と書いていた。


真一は呆気にとられていた。優香が会いたがっている。


真一(オレに会いたがっているのはうれしいけど、嫁入り前の人がオレに会いたがっているなんて…)


真一は手紙で返事した。


真一『ハガキ届いたで。電話したらいいんやろうけど、電話したらそこで話し込んでしまうと思ったので、あえて手紙にした。オレも土日ならかまへんで。日時を指定してもらったらかまへんから。オレ、携帯(電話)の番号変わってないから…。念のため書いとくわ。よかったら電話して。場所とかどうしよか…。幼稚園の近くのファミレス(ファミリーレストラン)でも待ち合わせよか? また連絡ちょうだい』


4日後、優香からハガキが来た。


優香『こんにちは。手紙見たよ。じゃあ、今度の土曜日に会いますか。時間は昼イチ(昼一番)から。私が真一くんを家まで迎えに行くね。近くまで行ったら電話するから。多分長いこと会ってないからいっぱい話すんやろなぁ…。だから、早めにお昼ごはん食べて迎えに行くね(笑) しんちゃんに会えるのを楽しみにしてるわ。あと、私の携帯電話の番号も書いておくね』


真一は内心緊張していた。あれから優香はどうしていたのか、腹を割って話して背中を押した後、会って聞いてみようと思ったのだ。


そして、土曜日がやって来た。

優香が早めに迎えに来てくれるとのことだったので、真一も早めに昼食をとって優香が来るのを待っていた。

しばらくして優香から電話がかかり、お迎えの連絡が入る。


優香「もしもし、真一くん」

真一「優香さん、悪いなぁ、迎えに来てくれるなんて」

優香「病み上がりの人に無理させられないでしょ? いま南町まで来たけど、どこから行ったらいいの?」

真一「井筒屋ストアのところの信号を右に曲がって、ずーっとまっすぐ行って、線路が見えてくるから、線路の二筋手前を左に曲がって目の前の家や」

優香「わかった。じゃあ待っててね」

真一「うん」


しばらくして優香からまた電話がかかってきた。


優香「ゴメン、今葬儀所の前なんやけど…」

真一「あぁ、1つ先の信号を曲がったんやな…(笑) 歩いて行ける距離やで、そこまで出るわ」

優香「ゴメンよ」

真一「かまへんで。2分程だけ待っといて」

優香「わかった」


真一が葬儀所の前まで行くことにした。真一は少し緊張していた。実は優香も車の中で少し緊張していた。


そして、真一と優香は実に8年ぶりに再会した。


2人が通っていた幼稚園近くのファミリーレストランでケーキセットを注文し、ケーキとコーヒーを楽しみながら、8年ぶりに話した。真一の夏美との遠距離恋愛、入院した話、優香の結婚の話、そして8年前に『腹を割って話』した話…。話題は尽きなかった。


優香「私な、8年前にしんちゃんと『腹を割って話』したやんか」

真一「うん」

優香「あの時、後悔と感謝が交錯してたんや」

真一「そうか…」

優香「しんちゃんが“トラウマ”になってたのを何としてでも解かしたかったんや。しんちゃん、女っ気なかったし。でもさっきの元カノの話聞いてて、私があの時に元カノみたいに積極的にやってたら、しんちゃんの苦労が早くなくなってたかもしれん…て」

真一「気にせんでもええよ。オレが決めた道なんやから」

優香「私だけ幸せになるのはおかしいって」

真一「違うで。オレは幼稚園から優香ちゃんを知ってるんや。優香ちゃんは1人にしたらアカンって…。北町にいるときは家族、オレ、村田さんらもおる(いる)。けど新潟ではアイツ(森岡)と別れてから1人やった。だから優香ちゃんは、常に誰かそばにおって人がおらんとアカンのや。『遠距離』ではアカンんちゅう(という)ことやろ? だから優香ちゃんが幸せになるのは、オレの願いでもあるわけや。近くで旦那を見つけてくれたからな…」

優香「私な、遠距離でもしんちゃんと付き合っといたら良かった…って思った事もあった。だって『初恋の人・しんちゃん』なんやで。元カノみたいにしんちゃんに甘えといたら…って。そしたら、真一くんのお嫁さんになってたかも…(笑) 今の旦那と知り合うまではね。でもしんちゃんは私の事を考えて、私の背中を押してくれたんやから…。それで今、しんちゃんは幸せになってないやんか❗」

真一「高校の時から言うてるやん。オレはこの世に生まれた時から1人、回り回って、結局は1人なんやって。言うた通りや。それにオレには彼女がおる。『旅』やでなぁ…(笑)」

優香「一人っ子の一人息子が、そんなん良いわけないやん❗」

真一「じゃあ、いまから優香ちゃんがオレのお嫁さんになってくれるんか? 無理やろ?(笑)」

優香「しんちゃん…」

真一「気にすんなって。例え話や。でもそういうことやで。それに、こうやって腹を割って話せるのは、今の男友達より悪友(親友)。悪友よりも幼なじみの優香ちゃんやな」

優香「そうか…」

真一「オレ、幼稚園の時に優香ちゃんと出会えて良かったわ。あの時、オレの隣の席が優香ちゃんやったから、今もこうして腹を割って話せるんやで」

優香「そりゃそうやわ。私だって真一くんやで話せるんやで。私も幼稚園の時に真一くんと出会えて良かったわ」

真一「うん」

優香「しんちゃん、でももう私は北町に帰ってきてるから、昔みたいにいつでも連絡してきてな。私は出来る限り、真一くんを助けたい。私だけ幸せになって、真一くんだけ不幸続きなのは、私にとっては不本意や。だから今ならしんちゃんのこと、昔みたいに面倒見れるからね。遠慮しないで。手先が器用なことせんなん(しないといけない)のなら、また私がするからね」

真一「優香ちゃん、無理したらアカン」

優香「無理じゃないよ。しんちゃんが『旅』っていう彼女より、女の子探さないと…。あ、私が探してあげよか?(笑)」

真一「いやー…、そんな人おらんやろ?(笑)」

優香「わからんやんか。元カノみたいに積極的な彼女やないとアカンかなぁ…。ウチのお姉ちゃんは彼氏いるし…」

真一「身内で探すか?(笑) もし、優香ちゃんのお姉さんと…ってなったら、オレ、優香ちゃんの義理の兄貴になるんやで(笑)」

優香「あ、それはアカンなぁ。義理のお兄ちゃんが幼なじみで手先が不器用で、義理のお兄ちゃんのこと、お姉ちゃんより詳しい…って、それはなぁ…(笑)」

真一「何想像してんの?(笑)」


優香は大笑いした。


真一「ところで、旦那さんは大学で見つけたんやろ?」

優香「うん。8年前にしんちゃんに言われた通りに…」

真一「そうか…。地元新潟の人?」

優香「岐阜の人。でも石川の自衛隊で飛行機乗ってるよ『(両手を広げながら)ブーン』ってね(笑)」

真一「そうかぁ、ええ旦那さん見つけたなぁ。安月給の会社員よりよっぽどええで、自衛隊は」

優香「旦那さん自身が自衛隊に行きたかったみたいやったから…」

真一「ええやん。良かった良かった。はよ嫁にもらってもらわな…」

優香「うん…。しんちゃん、ホンマに女の子探さへんの?」

真一「いま病み上がりやから、そこまで頭にないなぁ」

優香「ちーちゃん(優香の高校時代の友人の滝川)から聞いたんやけど、しんちゃんが奈良のちーちゃんのところへ行った時に『病み上がりなんやから傍におってくれる人がいないと…』ってちーちゃんに言われたんでしょ?」

真一「うん」

優香「じゃあ探さないと…。昔から言うてるでしょ、一人っ子なんやから…。気になる人いないの?」

真一「いないよ」

優香「ちょっと周りの景色みてみようよ。女の子に注目せんと…。しんちゃんが私の背中を押してくれたから、私はもうすぐ結婚するけど、しんちゃんをこのままにはしておけない。今度は私が真一くんの背中を押さないとね…」

真一「まぁ、オレのことはいいから…」

優香「アカン❗ 絶対しんちゃんのこと気になる人いるから❗ 探したらいるって」

真一「…わかった」

優香「ところで、しんちゃんは旅に出るとしたら、どこ行きたいの?」

真一「うーん、そうやなぁ…。あ、優香ちゃんの顔みてたら、新潟でも行こかなぁ。結局、優香ちゃんのところへ行くことなかったから…(笑)」

優香「ベッドで一緒に寝られへんかったもんなぁ(笑)」

真一「おいおい、旦那に怒られるわ❗ 何言うてんねん(笑)」

優香「あの時はまだ旦那と付き合ってないから大丈夫や(笑)」

真一「いや、そういう問題やないねん」

優香「やっぱり、しんちゃんはあの時私のところに来ておいたらよかったんや。そしたら『腹を割って話す』のが『延長戦』に入ってたかも。そしたら付き合ってたかもね…(笑)」

真一「どうなんやろなぁ…。なんせあの当時はお互い都合がつかんかったから…」

優香「タイミングが合わんかったもんなぁ…。運が悪かったんかなぁ…。あ、でも新潟はいいよー。美味しいもんもあるし、お米もお酒も美味しいで」

真一「昔、優香ちゃんに買ってきてもらって、新米と酒を送ってもらったことあったけど、あれから気になってんねん」

優香「連れてってあげよか?」

真一「旦那に怒られるわ」

優香「大丈夫やって」

真一「アカン。一人旅」

優香「彼女と二人旅せんとアカンわ。私と新潟でデートするか?(笑)」

真一「おいおい、もうすぐ人妻になる人が何言うてんねん(笑) まぁ『彼女』と“二人旅”にはなるけどね…(笑)」

優香「違う。それは一人旅や❗」

真一「おかしいなぁ…」

優香「おかしくない❗」

真一「はぁ~…」

優香「ため息つかないの」

真一「うん…」

優香「8年前、しんちゃんは私の背中を押したから、今の旦那と付き合うことになって、結婚するんや。私だって、しんちゃんの背中を押したいんだよ」

真一「今まで十分押してくれたやんか。だからオレは今まで返すことが出来んかったから、優香ちゃんの背中を押したんや」

優香「しんちゃん…」

真一「オレらは『初恋の人』同士やけど、やっぱり『幼なじみ』なんやから…。21年前、そこの幼稚園の年中組でイスを渡したところからや。席もとなりやったし…。高校で再会して、オレは優香ちゃんにいっぱい背中を押してくれたんや。アイツ(森岡)がおっても背中を押してくれた。ただの友達とは違った。だからオレがいつも優香ちゃんに返すもん(もの)がなかった。あの時(8年前)しかなかったからや」

優香「そうかぁ…。私らはやっぱり『幼なじみ』やもんね、真一くん…(笑)」

真一「うん…。あ、もう夕方やんか。4時間もしゃべってるで(笑)」

優香「やっぱりしんちゃんとしゃべってると、時間なんてあっという間やわ(笑) そうかぁ、4時間もしゃべってたんや(笑) やっぱり女同士とかで話すのとは違うわ。やっぱりしんちゃんやな」

真一「しかも、このファミレスやし」

優香「そうやな…。じゃあ、しんちゃん『なでなで』して」

真一「おいおい、旦那にやってもらいなぁ(笑)」

優香「アカン、これはしんちゃんの特権なの」

真一「いや、そんな特権いらんで(笑)」

優香「ダーメ。卒園のときにここでしてくれたでしょ」

真一「もういつの話や? 20年前やで(笑)

もう『なでなで』は時効や 」

優香「時効やない。結婚前やし、最後にしてよ」

真一「………」

優香「しんちゃん、幼稚園卒園の時、嬉しかったんやで。小学校が違って寂しかったけど、ここで真一くんのあの『なでなで』が嬉しかったんやから」

真一「そうか…」

優香「だから『幼なじみ』なんやで、20年ぶりに…」

真一「20年ぶり? いや、高校でも高校卒業してからも、その後もしてますけど…(笑)」

優香「細かいことは気にせんの❗」

真一「もう、この幼なじみは…。幼稚園の時、こんなうるさくなかったのに…。めっちゃおとなしくて、優しくて、笑顔も印象あって、かわいい良い子やったのに(笑)」

優香「うっさいなぁ…」

真一「(笑)…」

優香「しんちゃん…」

真一「…もう、ホンマに1回だけやでな。もう金輪際無いで。結婚してんやから」

優香「うん…」

真一「幸せになるんやで…」


真一は優香の頭をいっぱい撫でた。優香は目をつぶって真一に撫でてもらっていた。


真一「20年も『なでなで』か…」

優香「しんちゃん…」

真一「ん?」


優香も真一の頭を撫でた。


優香「しんちゃんも、『旅』じゃなくて『女の子』の彼女探すんやで❗ 絶対やで❗ 私の言うこと聞くんやで。また変なことしてたら、電話するでな」

真一「オレ、人妻に監視されるんか?(笑)」

優香「人妻言うな」

真一「人妻になるやんか(笑)」

優香「そうやけど…もう(笑)」


真一も優香の顔を見て笑う。


真一「さてコーヒーを何杯もおかわりしてるし、帰りますか」

優香「あーあ、もっとしんちゃんと話したいわ」

真一「(笑)…。旦那さん待ってるんとちゃうの?」

優香「旦那は今出張で演習に行ってるから大丈夫なの」

真一「そうか」

優香「しんちゃん、また会えるかな?」

真一「ないかも…」

優香「なんで?」

真一「なんやかんやで優香ちゃんが結婚する時期になるんやないかな…」

優香「そうかなぁ…」

真一「わからんけど…。まぁまた機会があれば…やな」

優香「うん…。帰ろっか」

真一「あぁ…」


そして真一と優香はファミリーレストランを出て、優香の車に乗る。優香が運転し、真一を家まで送る。真一の家に着くと、優香が話す。


優香「真一くんの車って、ガレージに停まってる車?」

真一「そうやで」

優香「ワンボックス車なんや」

真一「うん。人も荷物も積めれるし、それに旅で遠出も家出もできる。車中泊可能やでな(笑)」

優香「また悪いこと考えてるなぁ」

真一「人聞き悪いこと言わないの」

優香「私も結婚したら、旦那にワンボックス車買ってもらおう。ええヒントもらった(笑)」

真一「これこそ、悪いこと考えてるなぁ(笑)」

優香「人聞き悪いこと言わないの❗」

真一「人のこと言われへんやんか(笑)」

優香「もう…(笑) なぁ、しんちゃん」

真一「ん?」

優香「ありがとう」

真一「おう。絶対に幸せになるんやで」

優香「うん…、ありがとう。しんちゃんも彼女見つけるんやで。絶対やで。私、今でも心残りで後悔してるんやからね…」

真一「…わかった」

優香「結婚しても、たまにチェックするでな」

真一「だから、なんで監視されなアカンねん?(笑)」

優香「なんでって…、そりゃあ大事な幼なじみのしんちゃんやからや(笑)」

真一「結婚したら、『幼なじみ』も卒業や」

優香「いいや、卒業なんてない。私から見て、結婚してもしんちゃんはしんちゃんなんやでな」

真一「そうやな。優香ちゃんが結婚しても、優香ちゃんは優香ちゃんやでな」

優香「うん。じゃあ、またね」

真一「あぁ。ありがとう、遅くまで」

優香「ううん、もっと話したかった。でも、めっちゃ楽しかった(笑)」

真一「オレもゆっくり話せて良かったわ」

優香「うん、じゃあね」

真一「あぁ」



真一が優香の車から降り、優香と真一はお互い笑顔で手を振った。優香の車が見えなくなるまで、真一は見送った。



その後も、真一と優香は文通を続けていた。

お互い心のどこかに『初恋の人』であり、『幼なじみ』であり、『大親友』という立場でいたからだった。



その後、真一は勤務先の京都本社で経理に在籍する同期の同い年の長島と社内で誰にもバレることなく交際を始めた。長島は真一の幼なじみ・優香にうりふたつで、真一が入社式の時に後退りした程、優香にそっくりだった。

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