第10話 長良川の秘密…梨子と真美へ

翌日金曜日、真一は仕事を休み、電車で一路岐阜へ向かった。


真一(梨子、真美、お前らだけは何としてでも『トラウマ』は解かさなアカン。長良川で待ってるで…。俊介くん、うまいこと連れて来られるやろか…)


真一は先日、俊介と電話で話した際、俊介に頼み事をしていた。



(回想)

真一「実はなぁ、その今度梨子とデートするときに、梨子と真美を長良川まで連れてきて欲しいんや」

俊介「長良川ですか?」

真一「うん」

俊介「でも梨子が嫌がるのではないでしょうか?」

真一「多分なぁ…。けど何も言わずに長良川に連れてきて、オレの顔見たら納得せえへんやろか(しないだろうか)?」

俊介「……………」

真一「大丈夫や。なんとかなる。長良川着くまでに何とかごまかしながら2人を乗せてきて欲しいんや」

俊介「…なんとかやってみます」





真一は、俊介を信じていた。


一方その頃、梨子は俊介が迎えに来て梨子は俊介の車に乗る。その後ろに真美もついてきて俊介の車に乗ろうとした。


梨子「あんたも乗ってどうすんの?」

真美「私も俊介くんから呼ばれてるの」

梨子「俊介、どういうこと?」

俊介「あぁ、ちょっとね…」

梨子「何よ❗」

俊介「まぁ、そう怒らないで…。ちょっと2人を連れていきたい所があるんだ」

梨子「どこ?」

真美「俊介くん、どこなの?」

俊介「行けばわかる」


梨子と真美は俊介の言われるがまま、車に乗って出かける。


車を走らせて1時間が経った。


梨子「ねぇ、どこ行くの?」

真美「教えてくれないの?」

梨子「なぜ黙ってるの❗」

俊介「行けばわかるって言っただろ」

梨子「でも、どこかくらいは教えてよ」

真美「そうだよ。どこに向かってるのかわからないよ」

俊介「行けばわかる」


梨子と真美は少し不機嫌になりながらも、車窓を眺めていた。

そして、車は目的地に着いた。


俊介「着いたよ」

梨子「ここは…」

真美「長良川?」

梨子「帰ろ❗」

俊介「ダメ。前を見てみろよ」


梨子と真美が前を見る。


真美「えっ…」

梨子「しんちゃん…」


梨子と真美が見たものは、長良川の河川敷に真一が長良川を眺めていた。梨子と真美は車から降りて真一の元へ向かう。


梨子「しんちゃん」

真美「しんちゃん」

真一「おう、来たか」

梨子「なんで長良川なの?」

真美「なんで私も呼んだの?」

真一「俊介くんに頼んだんや」

俊介「ゴメンな、黙ってて」

梨子「ううん、しんちゃんが私らを呼んだんだったらしょうがないよ…」

真美「ねぇ、しんちゃん、私らをどうして長良川に呼んだの?」


真一が少し間を空けて話し始める。


真一「梨子」

梨子「なぁに?」

真一「この前、俊介くんに名古屋から送ってくれたとき、俊介くんがオレに『話がある』って、俊介くんに岐阜まで送ってくれたんやけどな…」

梨子「うん…」

真一「その時なぁ、俊介くんは梨子の事を心配しとった」

梨子「…………」

真一「色々話を聞いたよ。この長良川の事も…」

梨子「…そうなんだ…」

真一「…この前、北町のスナックのママの所へ行ってきたんや」

梨子「えっ…」

真美「………」

真一「お前らのお父さん、おっちゃんの事を聞いてきた」

梨子「………」

真美「………」

真一「スナックのママさんから色々話を聞いたんや。そしたらなぁ、梨子、昔この長良川の鵜飼におっちゃんが連れてってくれたみたいやなぁ…」

梨子「うん…」

真一「スナックのママさんから聞いた話では、お父さんが皐月さんと別れた後、スナックで飲んでたときに、昔、梨子と一緒に行ったこの長良川の鵜飼を見に行ったことが印象に残ってて、嬉しそうな顔して話してたらしい。梨子が鵜飼の鵜が鮎を飲み込んで戻ってくる光景を見て、目をキラキラ輝かしてた…って、嬉しそうに話してたそうや」



(回想)

スナックのママ「浩二さん、昔、娘さんと長良川の鵜飼を見に行ったことがあって、鵜飼の鵜が鮎を飲み込んで戻ってきた時の様子を見ていた娘さんの顔が喜んでて、それを見て浩二さん、嬉しかったみたいなの。それが印象に残ってて、また娘さんと長良川へ行きたかったらしいの。『また行きたかった』って、ボソッと話してたのが印象に残ってるわ。娘さんのこと、余程好きやったみたいだったわ。でも浩二さんが奥さんと離婚して、娘さんは奥さんに引き取られたから、会えなくなって、余計に寂しい思いになったみたい…」






梨子がその話を聞いて泣き出す。

真美は黙ってその話に聞き入っている。


真一「スナックのママさん曰く、叔父さんは、梨子と真美を連れてまた長良川に行きたかったそうや。梨子のことが印象に残ってたんやろなぁ…」

梨子「お父さん…」


真美も涙をこぼす。


真一「梨子、お前今までこの長良川に近づけなかったのは、お父さんと鵜飼を見に来たことがあって、お前もその時の思い出に強い印象があるから、余計に来づらかったんやな…」

梨子「うん…」

俊介「だから、一昨年誘ってもあまり乗り気ではなかったのか…」

梨子「ゴメンね、俊介。私、俊介にお父さんのこと詳しく話さなくて…」

俊介「大丈夫だよ。また今度梨子が話せるときに話を聞くから…」

梨子「うん…」

真一「この長良川のことは、生前お父さんも梨子と一緒に来れて楽しかったようや」

梨子「そうだったんだ…」

真一「これでも俊介くんに(プロポーズの)返事は出来んか?」

梨子「…正直、どうしようか困ってる…」

真一「まだ何か引っかかるんか?」

梨子「しんちゃん、私、お父さんが大好きなの。でもいないから…」

真美「しんちゃん、私も。お父さんがいないから…」


真一は梨子と真美の返事を聞いて少し考えていた。


その時、長良川の河川敷の少し離れた場所で一人の女が真一達の様子を途中から見ていた。その女が心の中でつぶやく。


優香(え、しんちゃん…?)


それは、なんと真一の幼なじみの優香だった。

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