弟になった日

澤田慎梧

1.兄弟

 あれは僕が十六歳、翔二しょうじが十七歳の初夏のことだった。

 翔二は父の、僕は母の連れ子として「兄弟」になった。


「翔二です。初めまして、太一くん。これからよろしくな」

「あ、はい……どうも。こちらこそ、よろしくです……翔二、さん」


 それが、僕と翔二とが最初に交わした言葉だ。今思い出してみても、ぎこちないことこの上なくて、なんだか笑える。

 初対面の、しかも一歳しか違わない男同士がいきなり「兄弟」になったのだから、仕方のないことだったとは思う。

 おまけに、僕は絵に描いたような陰キャ、翔二は爽やかスポーツマンで如何にも「クラスのカースト上位」といった感じのイケメンだったから、余計に戸惑いが大きかった。


 親同士が再婚したからと言って、子供同士がいきなり仲良くなれるはずもない。

 新しい家で、今まで他人同士だった人間が一緒に暮らす――それは、とても難しいことだった。


 何せ、日常生活におけるお互いの「文化」が違うのだ。

 味噌汁に使う味噌の種類も違えば、好きなお米の品種も違う。

 好きなテレビ番組も違うし、よく聞く音楽のジャンルも違う。

 愛用するトイレットペーパーやティッシュペーパーの種類、調味料のメーカー、好きな電機メーカー……何もかもが違った。


 それでも、父と母はいい大人なので、お互いのそういった違いを認識しつつ上手い具合に調整し、相容れない部分は不干渉を貫くなど、良好な関係を維持する努力をしていた。

 けれども、思春期の僕らは違った。お互いに気を遣えば気を遣うほど逆に気まずくなることもあったし、お互いの譲れない部分が原因でケンカ寸前までいったこともあった。


 結局、僕らは半年経ってもお互いに馴染めずにいた。

 弟なのに太「一」、兄なのに翔「二」という名前のちぐはぐさそのままに、僕らは何だか噛み合わない「兄弟」のままだった。

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