5.

「……上谷は」


「ん?」


「上谷はだいぶ変わったよな。いや、変わったというか、成長した、かな」


「そうか? 自分じゃそんな気がしないが」


 上谷はコートのポケットに突っ込んでいた両手を出してしげしげと眺めて「育ったかな」と首をひねっていたが、すぐに寒い寒いと呟いてポケットに戻した。


「変わったよ。なんつーか……かっこよくなった」


「ははは、なんだそりゃ」


 あっさりと笑い飛ばされる。冗談だと思われただろうか。今までならそれでよかったが、今日はそれで終わりにするのは我慢できなかった。


「勉強もできるし、生徒会の仕事もやってるし、私服も、なんか大人っぽくなってるし。そういうのひっくるめてかっこいいと思う、ぞ。うん。ほんとに」


「ん、そうか。そんな風に正面切って褒められるのは新鮮だな。悪い気はしないけど……ま、そんな風に言うのはお前くらいのもんだよ」


「他のヤツも思ってるよ、言わないだけで」


「それこそ冗談だろ。だったら会長になっただけであんな苦労をするもんかよ」


「それは……」


 苦労、と一言で片付けられるものでは、無かったはずだが。いや、別に具体的に何があったわけでもないのだ。少しばかり周囲からの風当たりが強くて、少しばかり上谷が参っていただけのこと。だがそれでも上谷にとってはそれなりに重い荷物だったはずなのに、こいつはもう、それを過ぎ去ったものとして扱っている。


 恨み言を言うでもなく、過剰に過去を飾るでもなく、そういうこともあったな、と笑っている。それが本当に、かっこいい。


 俺はきっと、そんな風に受け止められないから。

 今こうして、上谷の隣で特別を求めているように、過去の残滓を取りこぼすまいとしがみついてしまうから。

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