9.

 好きにも種類があって、私のそれと飛鳥のそれは違っていた。

 好きにも深さがあって、私のそれは多分、飛鳥のそれよりちょっとだけ深かった。


 きっと普通なら、恋をしてから好きだって気づくんだろうけど、私は逆。でもそれは順番が入れ替わっただけで、きっと同じことなんだと思う。


 私は飛鳥が好きだから、飛鳥に恋をしたいと思う。

 私の初恋の相手が、飛鳥だったらいいと思う。


 一緒にいたい。通じ合いたい。だから私の抱えるこの好きの気持が、飛鳥の抱えるそれと同じになる努力をしたい。


 嫉妬と劣等感は、憧れと尊敬に変わればいい。今はまだ、ちょっと私に自信が足りないけど、そこは飛鳥が褒めてくれればよしとしようじゃないか。

 足りないものを埋めてくれる存在なんて、まさにパートナーに相応しいんだし。


 だから私は恋をする。

 大好きな人に恋をするために、頑張ろうと思う。


 そのためにまずは――。




「せんぱーい、お待たせしましたー!」


「……遅い。十分の遅刻」


「お固いことは言いっこなしですよー。これでも走ってきたんですから」


「あんたの足で走って十分遅れとは、さぞゆっくり家を出たんでしょうねぇ」


「いだいだいだい! ごめんなさい先輩、ごめんなさあああ!」


「っとにもう。だいたい、もう冬だってのにそんな足出して走って。風邪引いても知らないからね」


「やー、ちょっと寒いですけど、私足のラインには自信があるので!」


「はぁ?」


「せっかくの初デートですから、先輩には私のいいところをいっぱい見てもらいたいなー、なんて、へへ」


「……あ、そ」


「うぇー、感想それだけですかー」


「はいはいキレイキレイ」


「あ、もしかして先輩照れていだだだだ! ごめんなさい!」




 ――まずは図書室の外で、たまの休日を過ごすことから始めてみようと思う。


 私はまだ、恋のなんたるかを知らないけれど。


「行きましょう、明日香先輩」


「そうね、飛鳥」


 楽しそうに私の腕を取る彼女に胸を高鳴らせる日は、そう遠くない気がした。

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