第3話

 ヒロ君から告白をされた日から、一ヶ月と少し経っていた。

 あの日以来、ヒロ君との距離は遠のくばかり。あの時の、私の一言の呟きさえなければ‥‥‥。

 私はあの日以来、ヒロ君に何度か声をかけようとしたが、彼の‥‥‥あの寂しそうな目を見ていると、私は罪の意識のせいなのか、勇気がないせいなのか、声をかける事が出来ないでいた。



 『ヒロ君‥‥‥私の方を向いて‥‥‥私に話しかけて‥‥‥私はあなたの事が‥‥‥』



 心の中で呟いても彼に届くわけもない‥‥‥。

 


 ーーー心が辛い‥‥‥苦しい‥‥‥悲しいよ、ヒロ君‥‥‥ーーー



 そう思いながら、時間だけが過ぎていき、私の心の重みが少しずつ和らいでいく。

 けど、彼‥‥‥ヒロ君への想いは変わらないでいた。

 そしてある日曜の朝‥‥‥。


 朝に目が覚めて、リビングに向かう私。

 リビングには、朝食を用意している母の姿があった。



 「ママ、おはよう」

 「あっ、おはようユリちゃん」



 私の母は、私を“ちゃん”付けで呼ぶ。もう高校生なんだからやめてよ、と言っても、いつもにこやかに“良いじゃないの”とやんわりとした声で断る。



 「ユリちゃん、どうしたの?いつもは八時頃に起きてくるのに。まだ七時前よ」

 「う、うん‥‥‥目が覚めちゃて‥‥‥」

 「怖い夢でも見たの?」

 「‥‥‥そんな所‥‥‥」

 「‥‥‥あっ!そうそう、昨日ね、ヒロト君のお母さんに買い物でばったり会ったのよ」



 私は母からヒロ君の名が出ると、体を少しビクッと動かした。



 「そ、そうなんだ」

 「でね、また昔みたいに家族全員で一緒に旅行行きませんか?て言われたのよ。私もいいわね、て答え‥‥‥ユリちゃん?」

 「私行かない!」

 「どうしたの?ヒロト君と一緒よ?」

 「私‥‥‥昔と違って旅行行ける時間なんかないのよ!」

 「ユリちゃん?」



 私は母の言葉を振り切ると、急いで自分の部屋のベットにうつ伏せになった。



 『今、ヒロ君と旅行なんか出来るわけないじゃないの‥‥‥ヒロ君にどんな顔で会えばいいのよ‥‥‥なんでこんな時に‥‥‥なんで‥‥‥』



 私は声を殺しながら叫んだ。

 涙が出そうになる程に‥‥‥。

 そんな時、私のスマホが鳴った。



 「♫〜♫〜、‥‥‥ハイ‥」

 「あっ!ユリ、おはよう」

 「‥‥‥おはよう‥‥‥アユ」



 電話の相手は、中学からの友人の、川原アユだった。アユは昔から活発な女の子で、よく遊んだりしていたが、あまりに活発しすぎて、しばしば私は着いていけない事があった。



 「ユリ、何か声が変よ?何かあった?」

 「う、ううん。今起きたとこだから」

 「そっか。ユリ今日暇?」

 「う、うん暇だけど‥」

 「じゃあ買い物に行かない?」

 「買い物‥‥‥いいわよ」

 「じゃあ、いつもの所で九時に」

 「うん、わかった」

 


 アユは「また後で」と言うと、電話を切った。

 川原アユ‥‥‥私の唯一の友人で、今も同じ高校に通っている私の相談相手でもある。私は一人っ子なので、いつもアユが相談に乗っていたが、アユの出す答えがいつもとんでもない物で、その一番の犠牲者がヒロ君だった。

 事あるごとにヒロ君に手伝わせて、失敗すればヒロ君に尻拭いをさせていた。

 そんな昔の事が頭によぎり、病んでいた気持ちが少し楽になったのか私は少し笑みを浮かべていた。

 


 「あっ、朝ご飯たべて出かける支度しないと。あと、ママに怒鳴ったりして‥‥‥謝っとかないと」



 私は部屋をでると、リビングへと向かった。


 けど‥‥‥後、数時間後に私とヒロ君の運命がまた重なり動き出すとは、この時の私は知るよしもなかった。



 

 

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