絶望と模索と希望と

失意と喜劇

第十五話 喜劇

 暗い一室に、窓灯りがちらちら差していた。

 青年は目を覚まし、辺りを見回す。周りを囲んでいる白いカーテンを開けると、窓の上部にほのかに黄色を帯びた三日月が顔を出した。

 青年がそれを目指して身体を起こすと、左腕に微かな痛みが走る。見ると、点滴の管が繋がっていた。


 青年は全てを察する。自殺は失敗したのだ。それはつまり、あの「安楽死」薬は偽物であることを指していた。

 彼は脱力した。今まで自分を動かしていた幾十もの糸が途切れてしまった。自殺をする一心で、伊達との友情の一心で動いていたが、その要はとんだガラクタだった。

 

 青年は笑った。惨めに笑った。悔しさ、哀しみ、後悔、怒り、その全てが複雑に絡み合って彼の口角を上げさせる。


———喜劇だ……とんだ喜劇だ。私と伊達はあのちっぽけな薬を馬鹿みたいに信じて、その人生を捧げた。可笑しい。馬鹿馬鹿しい。私と伊達は、偽りのために生き、偽りのために死のうとしたのだ……———


 その笑みは次第に涙に変わる。悔しく、やりきれない哀しみが込み上げる。

 だが、その一方で、青年の内には次に成さねばならぬ事があった。


———伊達を、探そう。哀しみに暮れる奴をもう一度奮い立たせ、また二人をあの友情の炎に当てさせる。そして、今度こそ、死ぬ———

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