22─赤き絶望─


 氷から姿を現し始めたドラゴンを睨みつける。足元からオーギュストの魔力を喰らい、鎧に赤い炎が浮び上がっていく。周りの白を溶かし蒸気の中で剣を抜いた。

 

 オーギュストの周りのみ円を描くように白が溶ける。

 

 「燃えろ」

 

 熱が広がる。白が溶けていく。まるで見えない炎が広がるように。本来の地面が白の中から現れた。

 

 赤き鱗を持つドラゴンはその熱に氷を溶かされ、ゆっくりと瞼をあげる。

 

 金の瞳が顕になり、オーギュストを睨み付けるが、赤い瞳を彼も鎧の中から向けていた。

 

 ──────そして。

 

 

 「グァァァァァァアアア!」

 

 赤き鱗のドラゴンは再び目を覚ました。憎しみも、恨みも、恐怖も恐らく全ての負の感情を向けられていたであろうドラゴン。

 

 白を塗りつぶすように赤い炎を吐いて焼き払う。一瞬で辺りに蒸気が霧のように広がった。オーギュストを囲むようにあった白すらもとかしきり、オーギュストだけが残った。

 

 「その首、貰い受ける」

 

 ルベリオンかたき。友の家族の仇、死んでいった者たちの仇────そして、愛しい女を娶るために。

 

 オーギュストは天才と呼ばれた剣をドラゴンへと向けた。

 

 ─────────────

 ───

 

 白い少女───フィオナは白い山をルベリオンと赤い鳥と共に登っていく。山頂が赤く燃え上がるのを見てもう既にドラゴンが放たれたことはわかってしまった。

 

 「フィオナ、さんはどこまで知ってるの?」

 「どこまでって?」

 「キュラスの謎…について」


 ルベリオンの問いかけにフィオナは少し驚いて、次いで悲しそうに目を細めた。

 

 「そう、キュラスと名がついてしまったのね」

 「え…?」

 「私がここに来た時、ここに名はなかったの、だから、きっと逃げ延びた人達がその名をつけたんでしょう…私が悪いんだろうけど、やっぱり悲しいわ」

 

  フィオナの言葉にルベリオンはますます分からないと言った顔で先をうながした。フィオナ自身長い年月を経てしまった事を踏まえ、話さねばならないと思っていたのか、すんなりと口を開いた。

 

 

 「私達は開拓のため男女三十人でこの地へ来たの。気候も落ち着いていたし、魔物だってでない、野菜などの育ちも良いところから土も良いことがわかったの…だから、最初はみんな喜んでいた。」


 フィオナはただ真っ直ぐ山頂をみあげる。まだ姿の見えない憎き仇の姿は頭にこびり付いて離れない。 

 

 「あのドラゴンが現れるまでは」

 

 誰もが喜び、誰もが送られたことを感謝した。この地がこれほどまでに恵まれている理由を知るその時が来るまで、彼女等は気付けなかった。

 

 「それは東の山…つまりこの山に降り立った。歌のように鳴いていたから、つがいを探しに来たんでしょうけど、番は見つからなかった。」

 

 番の見つけられなかったドラゴンは暴れだし、周りを攻撃していくようになった。そして。ドラゴンがなにか良くないものを運んできたのか、何人かは、病に倒れ他の街の病院へと連れていかれた。

 

 歌が聞こえる。番を探すドラゴンの歌。悲しく切ない歌。そして、悲劇は起こってしまった。

 

 

 

 

 

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