11─彼の言えなかったこと─


 

 助けを求めた。

 何度も何度も声を上げ、伏したまま、体を引き摺っても。

 

 助けを求めた。

 それでも答えるものは居ない。

 

 ああ、憎い…どうして。

 

 どうして私達を────。

 

 

 ─────────────

 

 赤い模様が浮かんだ魔法鎧は熱を持っているのか白を溶かしてく。溶かした端から崩れ再び白が戻るが、オーギュストが進むのには大いに役立った。

 

 

 「ルベリオンはどこまで進んだんだ? …雪のせいでなんの痕跡こんせきも残ってないな」

 

 オーギュストが思わず舌打つ。鎧のお陰で進みやすくはなったが、ルベリオンは見つからず、これといった何かを見つけることすら出来ない。

 

 「…村?」

 

 オーギュストがそれに気付いたのは偶然でしか無かった。ルベリオンとは異なり土地を知らない彼がなにか訳あってその家に足を進めたわけではなかった。

 

 本当に、ただの、偶然だった。

 

 

 「…扉に隙間が空いて中に雪が雪崩ているな…誰か開けたのか?」

 

 近寄ることで白は溶けてしまったが扉の内側の白は溶けきっておらずオーギュストの考えが間違いではないと裏付ける。

 

 申し訳なさを少しも感じた様子のない足取りで扉を開け中に入る。静まり返った屋内で、人の気配はしなかった。

 

 気配はしないが人は居た。身体が氷のようになってしまっている三人の村人。

 

 両親の間で眠る幼い少女の顔はルベリオンとよく似ていた。そしてその近くに誰かが座ったのだろうあとが白で残っていた。

 

 「…あいつ」

 

 ルベリオンは言わなかった。家族がいる村が近くにあるかもしれない事を。あの語り合った夜でさえ口にしなかった。

 

 オーギュストと同じ様に口に出来ないでいた。ルベリオンが悪意を持って黙っていたということでは無いのだともうオーギュストには分かる。

 

 「ルベリオン…」

 

 オーギュストに両親はもう居ない。だが父の残した鎧があったし、死に目にも会った。やさぐれていた時にアレクシラというオーギュストをありのままに愛してくれる女性が現れ、オーギュストも彼女を愛した。

 

 けれどルベリオンは?

 

 親元を七つで離され貴族の養子にされたが、養父母共に若く、まだ子は娘しかいなかったといえど次の子が望めた。貴族の跡取りになれる訳でもなく、魔術を学ばせる為だけの養子縁組。そして恋をした相手は養父母の娘であり自分の義理の姉であった。

 

 その義理の姉も生まれた後継の為に涙とルベリオンの足掻きの果て政略結婚をした。そしてルベリオンもこのキュラスへ行くことになってしまった。

 

 「…」

 

 ルベリオンにはもう、何も無いのだ。

 

 このキュラスの中に家族が行方不明になっていると口にしてどうなる。運良くこうして見つけることは出来たが、少しでも道がれていればこの家を見つけることは出来なかったろう。

 

 そしてオーギュストと今も共にしていたとしても自ら家族を探したいとは口にしなかったはずだ。ルベリオンはそういう男だ。

 

 「道は間違っていないようだが」

 

 ルベリオンはどんな気持ちでこの家に入り、物言わぬ家族と再会したのだろう。どんな気持ちでこの家を出たのだろう。

 

 オーギュストとは異なり帰りを待ってくれる人などいない彼は。

 

 

 何故進んでいけたのか。

 

 

 オーギュストは静かな三人に深く例を取りまた白へと戻る。その足は先程よりも早くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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