第29話 イベント二日目

夕方 池袋


「はい!じゃあ夕飯の店探すよ!」

綾は貴俊をイベントギリギリまで帰すつもりは無かった。


「ごめん、マジで帰ること出来ないの?」

「なんで帰るの?」

「いや、だから…」

「わかったよ、帰ってゲームやりたいんだよね。わかったわよ………」

綾はわかりやすく下を向き口を尖らせ落ち込む仕草をした。


しかし貴俊は怯まない。


「綾、昨日クールタイムが短いスキルを身につけてから練習した?」

「したよ」

「じゃあ、いいや。予想通りだから。何食べたい?」


綾はその言葉に苛立った。


「…はぁ?何それ!?」

「僕の準備は完璧って事。また勝っちゃうなぁ」

「………今、何時?」

「そうね大体ね」

「真面目に聞いてるんだけど?」

貴俊は胸ぐらを掴まれた。


「…そろそろ夕方四時」

「まだ夕飯には早いじゃない!」

手を離されたが理不尽に怒鳴られている。


「…ごめん、どういうこと?」

「帰る、あんたもうちに来なさい」

「何で?」

「付き合ってるからでしょうが!」

「僕は僕で…、あっ、そうか、ノーパソか」

貴俊は額に右手をあてた。


「はい、夕飯の買い物してから帰るよ」



錦糸町


二人で初めて買い物に来たスーパー。

そこに再び二人で来ていた。



「…ねぇ、今日二人で並んで闘うの?」

「そうなるんじゃない?まだ私とあんたは当たらないでしょ」

「それはわからないけど」

「ランキングでマッチング決まるならまずあんたはグラスちゃんと闘うと思うよ、私はその下の人かな」

「…そうなんだよなぁ、綾に勝つ準備は完璧なんだけどグラスさんはなぁ…、痛ぁ!!」

綾は思いっきり貴俊の足を踏みつけた。


「あっ、ごめーん。見えなかった」

「…な、なら仕方ないね」

貴俊はひょこひょこと歩きながら受け入れた。



「あんた、玉ねぎ丸かじりでいい?」

「…何で僕が?それをするのは綾じゃないの?」

「…え?今夜、丸かじりしていいの?」

「まだ死にたくないからダメ」

「本当に丸かじりしないわよ、…ふふ」

「何となくわかってるからダメって言っとくよ」

「つまんねぇ男、いつも硬くしてるくせに」

「……ガードは硬いかなぁ」

「ふん!!」



綾は目に入る野菜や肉をどんどんカゴに入れていった。

「綾?」

「ん?」

「何人前の何日分買うの?」

「今日の二人の分」

「うん、じゃあ多いね」

「…は?私に指図するの?」

「二人の将来に関わるからするよ。食べきれる量を買わないと」

「……食べきれるし」

「無理でしょ、太…ぉぉぁ」

言い終わる前に胸ぐらを掴まれ首がしまった。


「文句あるのかな?」

「…なぃ、かはっ!」

「よろしい」

手が離れた。


「けほっ!…食べられるならいいんだけど」

「余ったら明日の朝、あんたが食べなさい」

「ほら、そうな…、ありがとう!明日のことまで考えてくれてたんだね!」

綾の握り拳を貴俊は見逃さなかった。



レジで会計を済まし、荷物を貴俊が持った。

「はい、それじゃ帰るよ」

「うん、それじゃここで」

「………」

綾は全力で貴俊の腕を掴んだ。


「…じ、じょ、冗談だよ?」

その力と目つきに怯える。


「笑えない冗談は嫌いよ?」

「覚えておくよ………」




綾の自宅


「はい、あんた作っといて」

「綾は?」

「着替えてくる。一時間ぐらいかかるかな」

「抜け駆けするね?」

「スキルを組み直して練習するだけよ!」

「逆に清々しいからやってきていいよ、美味しいの作っておくから」

「…なんか気に入らない」

「何で!?」

「私には作れそうもないような美味しい料理を作るだと?」

「歪みすぎ!!そこまで言ってないよ!」

「そう?ならいいけど」

「僕を何だと思ってる?」

「どれ、…彼氏」

「奴隷って言おうとしたね?怒るよ?」

「どれにしようかなで選んだ彼氏って言おうとしただけよ!」

「それもそれで怒るけど?」

「冗談よ」

「笑えない冗談は嫌…い」

言い切る前に綾が睨んでいることに気がついた。


「笑えないなら無理矢理にでも笑わせてみせよう、そして服従させようオニオンを」

「字余りが過ぎるよ!」

「まぁ、冗談はさておき」

「………う、うん」

「あ?」

「いや?なに?」

「着替えてくる格好はどんな格好がいい?」


「…何を企んでるの?」

「…ひどい、あんたのために色々な洋服買ったのに。企んでるだなんて」

「ご!ごめん!ありがとう。モコモコ系のカワイイのがいいな」

「…ふっふっふ、期待して待ってなさい!」

綾は着替えに寝室に入った。


「………よし、作るか」




一時間後


「あんた、夕飯出来た?」

寝室から綾が声をかける。


「もうちょっとで出来るよ、待ってたから」

「あら?そんなに期待してるの?」

「はい、出来たよ」

「期待してるって言えよ!!」

「期待してる」

「よし!じゃあ見せてあげよう!」

綾が寝室から出てきた。


上下、グレーのスウェットだった。


「どうだ!」

「うん、その勇気に感動してる」

「そもそもモコモコ系って何なのよ!!」

ただの逆ギレだった。


「カワイイ系。…ねぇ、色々と買ったって言ってなかった?」

「あんた、可愛いより私みたいな綺麗系が好きなんじゃないの?」

「あっ、自分で言ったね」

「あんたから散々綺麗だ美人だミスユニバースだ言われてるからね!」

「ロールキャベツ作ったから食べよ?」

「無視するなら食べる前に殴る」

「胃薬みたいに言わないで」



二人は夕飯を食べ始めた。


「ところでさぁ」

「うん?」

「あんた、指輪買ったの?」

頬杖をつきながら綾は聞く。


「……買ったよ」

「へぇー、早いじゃん」

「そ、そうでしょ?」

「……嘘ついてたら握りつぶすけど?」


「買ってないよ」

「開き直ったらビンタ」

「今のはズルいよ」

「指輪買ってないあんたが悪いんじゃないの!?」

「それはそうだけどイベント終わってからって考えてたから」

「イベント最終日に渡すんでしょうが!!」


「…確かに僕が勝つんだからその通りだね」

「んだと、こら。私が勝つって言ってんでしょうが」

「綾が勝った時でも僕から指輪渡すの?変じゃない?」

「…そう言われれば」

「やっぱりイベント終わった後だね」

「…なんか腹立つ」



夜九時前


「あんた、お風呂洗ってお湯入れてきて」

「イベント終わったらね」

「今すぐ」

「無理、ってわざとそれ言ってるでしょ」

「わざと?何言ってんの?」

「いや、だから…」

「あー、悲しいなぁ」

綾は後ろに重心を置き、後頭部で手を組んだ。


「変なモードに入ったね」

「イベント終了直後に一緒に入ろうと思ってたのに。あー、悲しい」

「いつ僕が一緒に入りたいと?」

「さっき」

「言ってないね」

「言ってなさいよ」

「過去に干渉できるスキルは持ってないよ」

「つまんねぇ男」

「はい、そろそろ始まるよ」



イベント二日目開始


「グラスさんいるよ…」

「魔法は通用するんじゃない?」

「何も対策してないとは思わないんだよなぁ」

オニオンはとりあえず周りの敵から倒すことに決めた。

「温存温存……。いや、待てよ?別に闘わなくてもいいのか」

そう言いながらグラスの行動を確認していた。



「オニオンいるし!もう、何なの!?」

グラスは試合直後からカウンターの体制で待っていた。

「よし来い!…っしゃ!一人倒した!」

グラスはとりあえずオニオンを無視する事にした。


上位に入れば明日の決勝トーナメントに上がれる。

オニオン、グラス共にここで決着つける必要は無かった。



「おら!おらおらおら!!」

フージンは荒ぶりながら敵を倒していた。

「なんかつまんないな。……っ!危なっ!」

動きを止めたところで狙われた。


しかし、簡単に返り討ちにした。

「十年早いんだよ、バカ野郎が」


「……こわっ」

「なんか言った!?」

「何も」

全てが聞こえている貴俊は聞こえないフリをしていたが、それは出来なかった。



イベント終了


オニオン、フージン、グラス含めた八人が決勝トーナメントに進んだ。


「綾、怖い」

「ん?」

「十年早いんだよとか」

「は?そんなこと言ってないけど?」

「自覚無いなら更に怖い」

「…そんなこと言ってた?」

「言ってた」

「じゃあお風呂洗ってお湯入れてきて」

「じゃあの使い方おかしいよ」

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