第9話 イベント二日目

イベント二日目が開始された。


昨日よりも強いチームが残っており、またも集中狙いされるかと思いきやオニオンとフージンを狙ってくる敵は少なかった。


「…まずは決勝に残ろうって考えなのかしらね」

「そうかもしれないですね。様子を見てましょうか」

「そうね、ある程度残りそうなチームの事は把握してないとね」


しかし二人は暇だった。


「ねぇオニオン、暇なんだけど」

「明日は忙しくなるから我慢してましょうよ」

「むー、何で誰もオニオンを狙いに来ないの?」

「何で僕だけが標的にされると?」

「その方が面白いじゃん」

ははっ、とフージンは笑った。


「そうなったら助けてくれます?」

「自分が倒されたら次は綾が狙われるから意地でも倒されない!みたいな事は言えないの?」

「僕が倒されたら次は綾が狙われるから意地でも倒されない!」

オウム返しをした。



「……遅ぇよ」

「すみません……」


「ねぇ」

「はい」

「もう一回、綾って呼んで?」


「……綾」

「もう一回」

「綾」

「綾、愛してるよって言って?」


「……綾、敵が来てるよ?」

その時、確かにフージンに対して攻撃を仕掛けようとしている者が三人いた。


「邪魔するんじゃねぇよ!!!」

オニオンがフォローに入ろうと思ったがそんなものは必要無いぐらいに叫んだフージンはすぐに向かってきた敵を倒した。


「…さすがです」

「はい、言って」

「…待っててくれるのでは?」

「待つよ?でも言って」


「…ちょっと頭が混乱してきました」

「何で!?大丈夫?」


「大丈夫ですない」

「どっちよ!?…ねぇ、私ってめんどくさい?」

「いえ、僕が悪いですから」

「そう…」

フージンの話し方は少し曇り始めた。


「…どうしました?」

「ん?ちょっとね…」


それが何なのかすぐにわかったオニオンは

「………明日、イベントが終わったら時間もらえませんか?」

と貴俊として綾を誘った。


「優勝したらいいよ…」

不満に感じつつも嬉しくもあり、複雑な感情で綾は答えた。


「わかりました。じゃあイベント終わったら僕と会ってください」

「…優勝したらって言ったけど?」

「優勝前提で話してますから」

「本当にゲームだと強気ね…。仕事でもそのぐらいでいてほしいわね!」


急に仕事モードに入ったのでオニオンは咄嗟にごまかしたかった。

「…綾、愛してるよ」


ふいに言われたフージンは嬉しかったがオニオンの意図に気付く。

「それって都合良く使える呪文じゃねぇからな?」


「すみませんでした」

「でももう一回言って」

「日曜日に言います」


「…あんたって男は、ほんと!」

「怒りました?」


「んーん、惚れ直した」

「…ありがとうございます」


「でも腹立つから日曜日にまずは頭を叩くね」

「それはいいですけど」

「…それはいいんだ。何となくわかってきたわ、あんたのこと」


「…一回スルーしたんですけどあえて聞いていいですか?」

「ん?何?」

「惚れ直したって?」

「……そんな事言ったっけ?」

「言いましたよ」

フージンはとぼけようとしたがそれは通じなかった。


なので話を変えることにした。

「……明日はどこで会うの?」


「優勝したらって話になってなかったでしたっけ?」

「え?自信無いの?」

「自信しかないですけど」

「なら決めましょう」


「綾の好きな人って…」

しかしオニオンは話を戻すどころかさらに踏み込んできた。


「上司を呼び捨てとはふざけてるわね!」

そう怒るしかごまかす方法が思いつかなかった。


「…さっきから理不尽の連続なんですけど」


「とにかく!!どこで会うの!?」

「どこに住んでるんですか?」


「え?やだ、気持ち悪い…」

フージンは青ざめてから体が震えるモーションを繰り返した。


「…ログアウトします」


明らかに声の元気が無くなった貴俊に綾はすぐにフォローをする。


「嘘!冗談!わかってるから!近くにしようとしてくれてるんでしょ?」

「…はい」


「両国よ、あんたは?」

「北千住です」


「……んー、じゃあ、あの塔で会いましょうか?」

「…あぁ、あの塔ですね」

「あの塔の上には天界があって…」

「そのゲームはわかりますけどそれはやめておきましょう」

「築地の」

「やめましょう…」


「とにかく日本一高い塔でプロポーズだなんて…、ふふっ」

「…話が飛びましたね。塔だけに」

「上手くねぇよ!いや掛かってねぇよ!え?違うの?」


「急にハードル上がったんですけど…」

「私とは遊びのつもり?」

「本気ですよ」

「なら良いじゃない!」

「…いや、逆に良いんですか?」

貴俊は綾の結婚相手が自分でいいのか。

その自信の無さを伝えた。


「明日までには迷う演技を完成させるから」

「それを僕に言っちゃダメですよね」

「成功するかどうかより成功確定の方がいいでしょ?でも調子に乗ったらどうなるかわかってるわよね?」

「…精進します」

告白が成功するかしないかよりも大変かも知れないと貴俊は少し思った。


そんな話をしている間にイベントは終わる。


初日の貯金でフージンは個人ランキング一位のままだが二位以下とのポイントは接戦になっていた。


「明日はとことんまでやるよ、わかってるわよね?」

「はい!もちろん!…じゃないとリアルで殺されるかもしれないから」

後半、声が小さくなった。


「何か言った?言ったよね?聞こえてたよ?」

画面左下のチャットには怒りマークが連続投稿される。

声を小さくしても綾には聞こえていた。



「明日に備えて寝ますね」

「…どっちの話をしてる?」

「どっちもです。あと残念なお知らせが」

「何?」

「調べたらあの塔は最終入場が夜九時でした」

「無理じゃん……。イベント開始時刻じゃん」


「塔の下なら行けますよ?」

「…やだ、上がいい。じゃあ月曜日ね」

「じゃあ明日じゃなくて月曜日ですね」

「ううん、明日も会う」

「明日もですか?」

「祝勝会でいいじゃん」

「どこで会いますか?」

「探しといて」


「ま、丸投げですか?」

「私の事を考えて考えて考えまくってお店を決めてね」

「………わかりました」

「ん?文句あんの?」

「無いです!」


「じゃあ明日ね。ちゃんとインしなさいよ?」

「もちろんしますよ、それでは明日」

「はーい、じゃあね」


ログアウトした貴俊はすぐにそのパソコンでグルメサイトに入り、店を探しまくった。

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