第8話 竜騎兵になりたいのかい?

 もちろん歓迎だよ!


 いや~成り手が中々いなくてねぇ。

 君みたいに志願してくれる人がいるとホント助かるよ。

 いや、ホント嬉しいなぁ。


 だいたい男の子たちはカッコイイって言ってくれるんだけどね。

 なんてったってワイバーンに乗って空を飛ぶんだからねぇ、憧れるよねぇ。


 僕もそうだったよ。

 もちろん大変なことも色々あるけど、やっぱ空を飛んで遠くまで行けるってカッコイイよね。馬なんかよりよっぽど速いし!


 いやいや、資格なんて要らないよ!

 入隊試験なんて無い無い!

 血筋や生まれなんてワイバーンにとっちゃどうでもいいことだよ。

 成ってくれる、その意気込みだけが資格かな?

 ハッハッハ


 この仕事はワイバーンにどれだけ惚れこめるかがカギだからね。

 でもきっと好きになると思うよ。

 見た目はちょっと怖いかもだけどね。


 じゃあ、さっそくワイバーン見に行く?行く!?


 いいねぇ、やる気のある人が来てくれるとホント助かる。

 じゃあ早速着替えようね?


 え?

 ああ、ホラ、空の上は寒いからね。

 だから夏でも上下とも革のフライングスーツをキッチリ着込むんだ。

 必ず決まった奴をね。

 汚れたとか傷んだとか破れたからって着替えちゃ駄目だぜ?

 ワイバーンはあんまり物覚えが良くないから、着替えると誰だかわかんなくなっちゃうんだ。


 うん、そう。

 だから、僕もこのスーツを十年以上も着続けてるよ。

 もちろん手入れはしっかりしてね。じゃないと、ダメになっちゃうから。

 だから君は一番新しいのが良いだろうね。

 相棒ワイバーンが死ぬまでずっと同じフライングスーツを着続けなきゃいけないからね。


 そうだなぁ、これが一番新しいかな?


 暑いからって着崩しちゃだめだぜ?

 特にワイバーンの目のあるところでは絶対ダメ。

 じゃないと忘れられちゃうからね。

 あいつら見た目は怖いけど人見知りなんだ。

 知らない人が不用意に近づくと興奮して襲われることだってあるからね。

 何年も連れ添った相棒ワイバーンにマフラー巻き忘れたってだけで襲われたくはないだろ?


 さあ、鏡でしっかり今の自分の服装を憶えるんだ。

 明日また着替える時に間違えないようにね。


 いい?大丈夫?


 ヨシ、じゃあワイバーンを見に行こう!


 でもまだ朝早いからね。大人しいと思うから安心していいよ。


 そう、朝は大人しいんだ。あと夜も。


 ほら、見てごらん。羽根を広げてグテッとしてるだろ?

 ああやって太陽を浴びて身体を温めてるんだ。

 ワイバーンは変温動物だからね、ああやって身体を温めないと動けないんだ。

 夜も飛べないし、冬は一日中駄目だね。


 いや、死なないよ?

 寒くても死なないけど冬眠状態になっちゃうんだ。


 だから下手なところに降りられないんだよね。

 迷子になって変なところに降りて夜になって身体が冷えると飛ぶどころか動くこともできなくなっちゃうからね。

 無防備なところを野生動物とかに襲われないように、騎手は相棒ワイバーンを一晩中守ってやらなきゃいけないんだ。

 飛べないまでもせめて動けるようにワイバーンの周りで焚火をたくさん焚いたりしてね。

 そして、朝になって飛べるようになったら急いで安全なところへ逃げなきゃいけない。


 ああ!大丈夫だよ!?

 変なところに降りなきゃ良いだけの話だから。

 僕だってそんな目に合ったのは数えるほどしか無いし、ここ数年はもうそんな話も聞かないしね。


 今は決まったルートで郵便を運ぶだけだからなぁ、ハッハッハッハ。

 もう、昔みたいな危険な任務は無いよ。


 でも、一応レイピアくらいは持ち歩いてるけどね。

 ほら・・・。


 いや、あんまり重たい物はワイバーンの負担になっちゃうからね。

 だから防具も今着ているフライングスーツだけさ。

 これでも結構強いんだぜ?


 ハッハッハ、いやいや、このフライングスーツの防御力の話さ。

 僕自身の腕っぷしはからっきしでね、ハッハッハ。


 え?

 ワイバーン?

 まあ、見た通りだね。

 身体が十分温まっててベストコンディションなら狼の群れだろうが盗賊だろうが目じゃないさ。


 は?

 いや、火なんか吐かないよ。


 そりゃブレスは吐くけど・・・火は吐かないよ?

 息くらい誰だって吐くだろ?


 え?違うの?


 火を吐く動物なんかいるわけないじゃない。


 いや、毒も吐かないよ?


 どう強いってそりゃあ、この図体でこの牙だからね。

 噛みついたり蹴飛ばしたり、尻尾で掃ったり?


 うん、普通だよ?

 え?おかしい?


 普通ならそれが当たり前じゃないかな?


 まあ、それでも十分強いから、間違って怒らせないようにね?


 大丈夫大丈夫!

 心配いらないよ。

 確かに怒らせれば怖いけど、一度信頼関係ができればこんなに良い奴はいないよ。


 そうだ、ちょうど良い時間だからエサをあげてみるかい?


 いいね、やる気のある新人は大歓迎だよ!


 さあ、こっち来て、さあこれがエサだ。


 え?


 うん、猫だけど?


 うん、今日は猫だけど犬もあげるよ?


 そう、ワイバーンは生きたエサじゃないと食べないからね。

 こいつらは街の野良猫や野良犬なんだ。

 野良猫や野良犬を駆除出来てワイバーンも喜んでくれる、一石二鳥だろ?


 今日はちょうど生まれたての子猫が手に入ったからね。

 ホラ、ニャアニャア鳴いて活きが良いだろう!?

 きっと柔らかくておいしいぞぉ!

 

 おーい、お前ら、ゴハンの時間だぞ!

 今日は生まれたての子猫ちゃんだぞぉ!!

 可愛くて元気で食べ頃だぞぉ!


 ほら見てごらんよ!エサの活きが良いからワイバーンたちが大喜びだ。 

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