夫が不倫して

鷹月のり子

第1話

 

 医師の妻になって心配していたことが起こってる。

 不倫。

 高校時代から付き合って私は看護師、夫は医師。

 お互い42歳。

 子供は4人。

 傍目には幸せそうに見える家庭。

 でも、夫は若い看護師と不倫を始めている。

 私に4人の子育てを押しつけて自分は23歳の若い看護師と不倫。

 証拠はある。

 夫のパソコンに不倫相手との、いやらしい写真がいっぱいあったから。

 吐き気がするほどバカバカしい写真ばかり。

 その女は23歳にもなって昔の女子高生が着るようなブルマ姿になったり、スクール水着でラブホの風呂に入ったり、制服姿で犬みたいなポーズでパンツのままオシッコしたり。

 犬以下、ケダモノ以下、だって調べて、その女も結婚していることを知った。

 看護師同士の結婚で、私たち夫婦と同じく年齢もそろってる。

 ようするにダブル不倫。

「死ねばいいのに」

「波田さん、どうか落ち着いてください」

 依頼した探偵社の女性担当がなだめてくれる。ここは探偵社の事務所で女性担当と男性所長がコーヒーテーブルを挟んで座っている。

「この女の旦那は自分の嫁が不倫してることに気づいてるの?」

「そこまでは調査していません」

「そう。この写真、送ってやるのも手ね」

「気持ちはわかりますが、弊社としては合法的な解決をオススメします。そういった送付をされると、この男性が激情にかられて波田さんの旦那さんを殺傷する可能性だってありますから」

「じゃあ死ねばいいのよ。たっぷり生命保険にも入ってるし」

「どうか、お気持ちを鎮めてください。短気は損気と言います、しっかり責任を取らせるためにも冷静に対応しましょう」

「…。ありがと…」

 ムカムカするし頭も痛いけれど、私はコーヒーテーブルに出してもらっている紅茶を飲んだ。女性担当が選択肢を語ってくれる。それはようするに離婚するか、離婚しないか、離婚するしないは置いて、どう話し合うか、お金の話、子供の話、いろいろ聴いているうちに私は涙が出てきた。

 なんで、こんなことするのよ。

 なんで、私一人で満足してくれないのよ。

 子供たちを、どうするのよ。

 今年は高校受験なのよ。

 悔しい。

 悲しい。

 思い切り叩いてやりたい。

 殺意さえ覚える。

 下手な言い訳されたら刺すかもしれない。

「…あ…」

 ずっと黙っていた男性所長がスマートフォンをいじりながら声を漏らした。

「「…」」

 私と女性担当が所長へ視線を送る。所長は何かの記事を急いで読んでいる顔だった。こんなときに…私はお客なのに…

「大友所長、今は波田さんに…」

 女性担当が注意しようとしても所長は仕草で遮った。そして言ってくる。

「波田さん、まずいことになった」

「「…」」

「今、ネットのニュースに、あなたの旦那さんの病院が出てる」

「っ?! どういう風に?!」

「不倫相手の旦那がキレて、あなたの旦那さんを殴り、気絶したところをメスで局所を切り取り、切り取った部位をオートクレーブで焼いたそうだ」

「っ…」

 オートクレーブ…高圧蒸気で滅菌する機械…そんなものに人体組織を入れたら…二度と…接合手術しても、もう無理…

 私はショックを受けたけれど、所長のスマートフォンを見せてもらい、命には別状がないことを知ると、むしろ笑えてきた。

「…ふ…フフ…天罰よ…」

「「…」」

「もう4人も子供いるし、おチンチンなんて、いらないでしょ。悪い癌みたいな物だから切り取られて正解なのよ。……あはは…はは、は…」

「「…」」

「はは…フフ…んフフ…しかも私は手を汚さなかった…あはは…超ラッキー…」

 長く虚しく私は空笑いを続けた。

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