鱠の回廊

笹身肚些王丸

すごいうまいめし

 実のところ、鮎という魚はとても気性の荒い魚です。

友釣りというのをご存知でしょう。


 あれは鮎の縄張り意識の強いのと、攻撃性の激しいのを利用した漁法なわけです。

そして鮎は苔を食べますから、その身はスイカのような香りが致します。

 

 この特徴は天然ものに限ってみられます。養殖のものとなりますと、

飼料でもって育てるわけですから、苔を食んだ天然の鮎とは違った味になってしまうわけです。


 さて、そんなスイカのような香りのいたします天然ものの鮎。

塩焼きにしたものをこちらにご用意しております。

一番美味しい食べ方は、なにしろ炉端焼きですよ。

串に刺して塩を振り、囲炉裏の炭火で焼きました塩焼きです。

結局のところ、素材の味を生かしたいのならば、塩焼きにするのが一番ですから。



 はい。では頂いてみたいと思います。

……

ああー……なるほど……うん、ッスゥー……

美味い、っすねぇ……まあ、あ、うん、美味しいです。

素材の、味、っていうのか、やっぱりシンプルな塩焼きって、

あ、スイカみたいな香りー……する……?あ、いや、します。しますねえ!はい。

あ、おいしい、おいしいです、ね、はい。はい……

……


 さて、次に頂くのはバーガーキングのワッパーチーズです。

直径13cmのバンズ、そこからはみ出るほどのパティ、スライスチーズ、

トマト、レタス、玉ねぎ、ピクルス……

ハンバーガーの王道と言って差し支えない具材の数々、

正統派の美味しさが期待できるというものです。

では早速、



───頂きます……。



 旨い!!!

圧倒的に旨い!!!

肉の味がする!ケチャップとマヨネーズかこれ?の、ソースも旨い!

そんで、野菜が結構色々入ってるおかげで意外にさっぱりした口当たりしてるのもヨシ!!!

チーズのアクセントも効いてるし、中盤に出てくるピクルスも全体の味を引き締めてる!!!

最高!!!!!


 ……そう。

つまりそういうこと。

デケエハンバーガーがこの世で一番旨い食べ物。

苔しか食ってねえ、スイカの匂いのする魚とか食ってる場合じゃないの。

基本的に全ての食事はデケエハンバーガーで事足りるわけ。


 いや、事足りるどころではない。デケエハンバーガーさえ食ってりゃ幸福度は上がる。

だから皆、一生デケエハンバーガーだけ食ってりゃいいんだ。

それで人類皆幸せになれるんだから……間違いなく……



───西暦2199年(注1)。

こうして人類の主食はデケエハンバーガー一択に固定された。

付け合わせとして、フライドポテトとチキンナゲットを添えて。

他、副菜として辛うじてその存在を許されたのは、ほうれん草のソテー、日替わりスープバー、

そして、はじかみのみであった。


 この施策により人類全体の幸福度は果たして向上したのか?

幸福の総量とは、個々人の幸福とは、そもそも定量的に計ることのできるものだろうか?

本稿では未だ掴みどころのない「幸福」なるものについて思索し、その実態に迫りたい。





(注1):「デケエハンバーガー法」が制定された西暦「2199」年は語呂合わせ、

「肉食う(ニィーッククウ)ならデケエハンバーガー」で覚えよう。


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