第33話 宅飲み2

「ほら、キモい物は俺の汚パンツぐらいだから安心して上がりなよ。浴室は解放厳禁な?まだ洗ってないからヤバいよ?謎のキノコ汁に匹敵するかも」


帰ってすぐ浴室に放り投げた汚パンツ。

謎じゃないキノコから出た香りが充満している可能性がある。


「言わなくても浴室なんか開けないし。パンツの詳細もいらんから。とりま、お邪魔します」


「はい、いらっしゃい。ゆっくりしていってね!」


ニアを連れてシン兄さんの待つ部屋に入る。

そこにはさっきまでは無かった料理がテーブルに乗りきらなかったのか、床に並べられていた。

ピザ、寿司、何故か七面鳥まであるよ。


「ただいまッス!ニアを連れてきました!シン兄さん、大盤振る舞いですね!」


「遅くなってすみません。今日はご馳走になります。…凄いですね、この品数」


「おう、待ってたぞ!飲んでたら無性に色々食べたくなってなぁ!まぁ、やり過ぎた感はあっけどよ!アヤネさん空間魔法使えるんだし、余ったら収納して持って帰んなって!二人共!酒も追加で買っといたからジャンジャン飲めや!オラ、酒持って座れ!ダハハハハ!!」


どうしたことか。

迎えに行って10分くらいしか経ってないのに、シン兄さんが出来上がってんぞ。


シン兄さんの近くに転がる、ストロングな空き缶達。

ニアを迎えに行く前からペース速いなとは思っていたが、空き缶の数から見てこの10分の間に500缶を3本はやっつけてる。

これ3本ほぼイッキだろ。

何してんのこの人。

ニアの顔が引きつってるよ。


「あっ、了解ッス。ちょっとニアと冷蔵庫から酒選んできますねー!ほら、ニア。こっちこっち」


「う、うん。こっちかー、何にしよーかなー!」


「おう!料理冷めねーうちに早く来いよ!」


ニアを連れて冷蔵庫の前で酒を選んでる振りをしながら、しゃがみこんでひそひそ話スタート。


「ねぇ、シンさんさっきの電話から聞こえた感じだと、あんな酔ってなくなかった?」


「それよ、迎えに行ってる間に壊れてた。どうも酒イッキしてたみたい。どうする?少し付き合ったら理由つけてすぐ帰るか?」


酔っ払ったデカイ筋肉の男とか女性は怖いだろ。

俺も怖いし。


「せっかくあんなに準備してくれたのに、すぐ帰ったら悪いって。とりま、シンさんが満足するまではいるよ。あの感じならすぐ潰れるかもだし。ちょっと怖いけど、あんたの事も心配だからね」


あら優しい。


「そっか、無理そうなら帰れよ。ま、多分大丈夫だろうけど、何かあったらちゃんと守ってやるから安心しろ」


ここでイケメンにだけ許されし頭ポンポンを、変態が発動。

もし上手くいけばさっきミスったお姫様抱っこ案を帳消しにできるはずだ。

これもミスならお手上げです。


変態の思い付く女性が喜びそうなカッコいいムーブとか、こんなのしかない。

女性が喜びそうな変態ムーブならいっぱい思い付くんだが。

果たして結果は?


「…うん、ありがと」


とてもいい笑顔だ。

成功とみていいだろう。


これでいけるとか、もしやニアってチョロインじゃね?

変態ポイントをカッコいいポイントが上回る日は、近いかもしれないな。

調子に乗ってポンポンからなでなでにレベルアップ。

変態とか言われて嫌がられないし、とても気分が良いぞ!


「おう!まだか!?俺にもビールを持…」


元気に冷えた酒を取りに来たシン兄さんに、カッコいいムーブが成功した甘い雰囲気を目撃される。

フリーズする三人。


「…いいなぁ…お前ら…。ストロング何本か持って来てくれ…ハァ…なんで俺には…」


哀愁を漂わせながら去っていくシン兄さん。

なんかせつないわ。

要求がビールからストロングに変化していたし。


「…ニア、何飲む?俺ビール」


「…あたしもビールかな。…今日は最後まで付き合うよ。なんか心が痛い」



シン兄さんにストロングを渡し、二人でビールを持って着席。

若干ショボくれているシン兄さん。

ここは元気を出してもらわなければ。


「それじゃあ、面子も揃いましたし!ここは攻略課の先輩であり!今日のご馳走を準備してくれた、優しいシン兄さんから乾杯の音頭を!」


「…ん、ああそうだな…」


ニアにアイコンタクト。

ヨイショだ、この悲しき男を元気にするには可愛い女の子からかけられる言葉が一番効くと思われる。

届け、この想い。

アゲアゲでいこう。

頷くニア、信じてるからね?


「こんなご馳走いっぱいとか、オニヤバー!さっすがシンさんってカンジ?みたいな?ちょーやさすぃーしー、包容力があるってゆーかー、同僚の女の子がシンさんのコト狙ってるのもー、わかるカンジかなー。今日はー、ウチもシンさんに甘えてー、アゲアゲでイッパイ飲んじゃいますねー!バイブス、アゲてこー!」


また珍妙なキャラを開花させてるよ、この娘。


「そ、そうなのか?いや、このくらい俺には何て事ないし?そうか、狙ってるか…ダハハハハ、うほ。か、乾杯の前にちょっと小便してくるわ!ダハハ」


ニヤニヤが止まらないのか、シン兄さんが一時離脱。

どうやら上手くいった様子。

ニアに予想以上に俺の想いが伝わっていて助かった。


でも何その完成度低いキャラ?

アゲアゲギャルみたいな?


「ニア、良くやってくれた。でもそのキャラはもう止めときな?ちょっとばかり、イタイから」


「あ、やっぱ変か。あたしも自分でやっててイタイと思ったし」


まぁ、イタイのは今回だけじゃないんだけどね。

それより今はシン兄さんを狙っているという、ニアの同僚が気になる。


「なぁ、シン兄さんを狙ってる娘がいるってマジなの?どんな娘なのさ?」


「あー…一応マジなんだけどねぇ…。ま、あたしあいつ嫌いだし、同僚はみんな知ってるからあんたには教えてもいっか。どんな娘かって言うと…一言で言えば鏡餅って感じ?シンさんを狙ってる理由は支部長の息子+エリートで金持ってそう、だって。シンさんには内緒な?」


鏡餅…絶対に支部長と歩いてる時にこっち見てひそひそ話してた奴だ。

狙ってる理由も酷いもんだ…。


「内緒にするに、決まってらぁっ…!」


「うんうん。もしかしたら鏡餅がシンさんの好みの可能性だってあるわけだしね。鏡餅だって最初はお金目当てだったとしても、本気で好きになるかもしれないしさ。ほら、痩せたら可愛い可能性も、なきにしもあらずって感じで。あっ、紹介してあげた方がいいかな?」


「やめとけ。ほぼ確実にシン兄さんのハートがブレイクする」


アリスさんは関係がわからないので除外するが、支部長にバラされたゲームのタイトル、食堂でのロリータへの反応からすると、シン兄さんはロリコンの可能性がかなり高いと思われる。

鏡餅、縦にも横にもデカいもの。

ちっちゃくて可愛いロリっ娘とは正反対だ。


「悪い!待たせた!じゃあ始めるとしようか!ほらほら、酒を持って!よーし、それじゃ乾杯!」


とってもいい笑顔なシン兄さん。

楽しそうに飲まれればストロングも本望だろう。

守りたい、この笑顔。



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