第23話 買い物2

「うおらぁっ!!」


巻き藁へ、力任せに剣を叩きつける。

俺の腕が悪いのか、剣の切れ味が悪いのか、おそらく両方なのだろう。

巻き藁が切り飛ばされる事はなかった。

刃の中程まで巻き藁に食い込んだ剣を力任せに引き抜くが、勢い余って尻餅をつく。

くっそダサい。


「…他にも試してみよう。槍は初心者でも使いやすいぞ」


「…了解」


アリスさんが持ってきてくれた槍を地面から拾い、巻き藁にリベンジ。


「キエェェェイッ!!」


上段から振り下ろすも柄の部分が巻き藁に当たり、弾き返される。


「…落ち着いて、巻き藁を槍で突いてみろ」


ですよねー、槍は突くものだよ。

緊張からか焦ってしまった。

気を取り直して槍を構える。


「ふぅ…いきます!!せぇぇい!!」


ミス!

空を切る槍の穂先。

嘘だろ?巻き藁から1mくらいしか離れてないんだぜ?


「…次だ」


その後も短刀や弓矢、斧やハンマーなんかも試してみたが惨敗。

短刀は剣と同じ道を辿り、矢は外れ、斧やハンマーは七割当たらないし、重さで手からすっぽ抜ける。

自分のセンスの無さに絶望するわ。


「…アリス、何か他に無いのか?」


「…工房の裏に何かあるかもね、ゴミ捨て場みたいなものだけど。同僚君、一緒に探してみよっか?」


「ういっす…」


「…俺は素振りでもして待っている。ゆっくり探してきていいぞ。何かいい方法がないか考えておくから、心配するな」


筋肉カップルの哀れむような目が、おっさんの心を抉る。

アリスさんに連れられ工房の裏に行くと、そこには山のように様々な武器が積まれていた。


「ここにあるのはゴミみたいなものだから適当に扱ってもいいけど、怪我しないように気をつけてね。もし良いのがあれば、激安で売ってあげるから」


「ありがとうございます…」


渡された軍手をはめて、アリスさんとは反対側の武器の山をあさり始める。

折れた刀、クナイのような物、錆びた草刈り鎌…うん、ゴミ捨て場というのも納得のラインナップ。

まともな武器が見つからないので山を黙々と掘り進めていく。

すると、なにやら黒くて太い棒が目に入る。


「なんぞこれ?引っ張り出してみるか。…フンヌッ!…重っ!びくともしないわ」


放置してもいいんだけど、一度気になると放っておけないタイプなんだよね。

体を無重力になったように軽くできたし、これも軽くできれば引き抜けるんじゃないの?

カモン、無の力。

よし、軽くできそうだな。


「おっ!動いた!これならいけそうだ!」


後退りながら棒を引っ張っていく。

棒の先に幅50㎝はある黒くて分厚い板のような両刃がついている。


「剣かこれ?どんだけデカいのよ」


山が崩れないように気をつけながらゆっくりと剣を引く。

少し時間はかかったが、全体を引き抜く事に成功する。

見た目は全体的に黒っぽい、武骨な両刃の剣だ。

想像以上にデカい。

シンさんの槍よりは短いが3mはあるんじゃないか?

試しに持ち上げてみるが軽い。

無の力のおかげで楽々振れる、さっきの斧やハンマーの時にも使っておけばよかった。


「イイなこれ…ドラゴンとか殺せそうだ。我に断てぬもの無し、って感じが堪らんよ…」


調子に乗ってブンブン振り回す。

風切り音がとってもパワフル、これなら憎き巻き藁に一矢報いる事ができそうだわ。

こんだけデカけりゃ当たるし、威力も高いだろ。


「同僚君?さっきから音が聞こえるけど使えそうな武器はあっ…たみたいねぇ…。…ねぇ、同僚君。あなた使徒よね?契約した神って誰なのかしら?」


ん?どうしたんだ急に。

隠すような質問じゃないし、答えるか。

これからニアと一緒に行動するから隠してもバレるだろうし。


「使徒ですよ。契約した神はアヤネ・ニアってラヴい神ですね!」


「…ふーん、そう。とりあえずそれ持って、シンのとこに行きましょうか」


「了解です!」


なんだったんだ?

まぁ別にいいんだけど。

それより、アリスさんから武器としてOKが出たみたいで良かった。

ゴミ認定で却下されてたらマジへこむよ。

もう気に入っちゃってるし。

まぁ、ファンタジーといったら明らかに無理がある大きさの武器を、細腕なもやしが使いこなすのが普通だしな。

シンさんもデカい槍使ってるみたいだし、ゴミ捨て場にあったとはいえこの剣を武器にしても大丈夫だろ。


工房の表に出て、素振りをしているシンさんに声を掛けようとするが、なんか違和感。

槍、小さくなってません?

あれ?この剣で大丈夫?

…まぁいいや、勢いに任せよう。

駄目なら普通の斧やハンマーにすればいいだけだ。


「シンさーん!どうですかこの剣!ヤバくないっすか!?漢の浪漫って感じで!これなら巻き藁も一撃ですわ!見ててくださいねー!!死ねいっ!巻き藁ぁ!!!」


巻き藁に向かって、全力で袈裟懸けに剣を振り下ろした。

轟音と共に地面に剣がめり込む、ひしゃげた巻き藁ごと。

角度が悪かったかね。

切れたっていうか叩き潰した、って感じ。

でも威力はなかなかのもの。

これならシンさんも納得するんじゃなかろうか。


「俺的にはこの武器、かなりいい線いってると思うんですけど…どうです?」


槍を収納し、近づいて来るシンさん。

真剣そうな顔が怖いっす。


「…重くないのか?さっきは普通の武器も重そうにしていたが」


「あ、スキル使ってみたら重くても大丈夫でした!この剣、今軽くなってるんで!多分、今なら普通の武器もちょっとは使えると思いますよ!…ただできればこの剣を使いたいなー、なんて…」


「ちょっと貸してみろ、地面にめり込んだままでいい」


剣から手を離し、シンさんに変わる。


「ぬぅぅん!!」


シンさんが凄くプルプルしてる。

数秒、剣を持ち上げたがすぐに降ろす。

俺が持ってないと軽くならないのだろう。


「フー…やはり重いな…黒石君、一緒に持ってくれるか?」


「了解です。ほら、軽くないですか?」


シンさんと一緒に剣を握り、持ち上げる。


「…俺には重く感じるな。やはり剣自体は軽くなっていないようだ。剣自体が軽くなっているなら、黒石君の力だけであんな威力は出ない。おそらく、黒石君があの剣を軽く感じているだけで、重さはそのままなんだろう」


そうなの?

武器としてちゃんと使えるなら、俺としては問題無いけどね。

まだ俺もスキルもレベル1みたいなものだし、色々考えるのは成長してからにします。

スキルの設定ガバガバっぽいから、これからどう成長するのかわからんし。

とりあえず、そのあたりは適当に流して次に進みましょ。


「なるほど!俺のスキルわけわかんないですし、成長しながら使いこなせるように頑張りますよ!それよりもシンさん!この剣を俺の武器にしても、大丈夫だと思いますか!?」


「スキルを使いながらその剣で戦い続けて、神力が持つなら大丈夫だ。この後は異世界攻略に行って、実力を見せてもらおう。黒石君の言う通り、スキルがわけわかんないせいで情報だけで判断できん」


実力テストか。

やってやろーじゃない!

わけわかんない力を見せてやるさ!


「了解です!あ、そうだ。アリスさん、この剣っておいくらになりますか?…手持ちが少ないんで言っていた通り、激安だと助かるんですけど…」


「うーん、そうねぇ…」


よくよく考えてみたら、俺ってレイちゃんからのお小遣いしか持ってない。

給料日は十日後って話だし、生活用品や食費を考えたら、この剣に払えるのは最大で約30000円。

仮に所持金を全額支払えばなんとかなったとしても、給料日まで異世界攻略で生きていく為の日銭を稼げるかわからない。

亀とキノコの世界は報酬が50円だったし、期待できなさそうだ。

酒もタバコも買えない禁欲生活は勘弁。

そもそもお金が足りなかったら、どうしよう。

せっかく良い武器が見つかったんだ。

買わない選択肢は無い。

でも、神界生活を始めたばっかりでローンや借金はできればしたくないなぁ…。

などとゴチャゴチャ考えながら、アリスさんの答えを待つ。


「ま、何かに使えるかと思って、処分しなかっただけだしね…。邪魔で外に出してたし、ゴミみたいなものだから、激安の10000円でいいわよ」


「買いまぁす!!」


やったぜ、生活に支障がでない範囲に収まった。

しかしこんなデカい剣が、10000円ポッキリでいいのかね?


「この剣の説明しとくわね。裏アイアンゴーレムの剣よ。シンなら知ってるでしょ?」


二人の会話を聞きながら、端末からお金を取り出す為に操作する。


「ああ、何回か倒した。俺もその剣は2本は持っているはずだな。処分していないから、異世界のどこかに転がっているだろう」


なんですと。

シンさんも持ってるのかよ。

しかも扱いが雑じゃね。


「普通のアイアンゴーレムの剣は加工しやすいし、サイズも大きい程度だから少しは需要があるんだけど…同僚君、これ見た目以上に重いし硬いしで、普通は武器に使わないの。討伐記念品ってとこかしら」


「え、マジですか?硬いなら武器として需要ありそうですけど。俺はもう気に入っちゃったんで、この剣がどんなものでも買いますけどね。はい、10000円ちょうどです。…消費税とかってあります?」


「本人が良いなら気兼ねなく売るけど…。消費税は神界にはないから大丈夫よ。はい、ちょうど頂きます。毎度あり。一応、最後まで剣の説明はしておくわね。自分の武器の事はちゃんと理解しておいた方がいいわよ」


確かに、わけわかんないまま使うのはスキルだけで充分だ。


「簡単に言うと、普通のアイアンゴーレムの剣が滅茶苦茶に強化された剣ね。サイズが倍で、硬さと重さが10倍くらいかしら?システムの作ったおふざけ武器よ。加工するにしても、手間も時間もお金もかかるから誰も使わないわ。加工しても、結局重いのは変わらないしね。そんなわけで、整備や加工がしたいなら最低100000円はかかるわよ。もし壊れたらシンに譲ってもらうか、新しい武器を探す事をオススメしておくわ」


ふむ、重さがデメリットにならない俺にうってつけな武器じゃないか。

硬いなら壊れにくいだろうし。

もしも壊れたらその時考えよう。


「了解です!おふざけ武器でもバッチリ使いこなしてみせますよ!」


異世界攻略が楽しみだ!



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