第18話 男子寮

支部長に連れられ、やって来ました男子寮。

道中に神界の外を見れるかと思っていたら速攻で到着してたよ。

支部長が全体的に青くて白い装飾の付いた扉を出した後、鍵を差し込み扉を開いて中に入る。

白い光の中を抜けると、エレベーターホールみたいな場所に出ました。

支部長いわくここが男子寮ですとの事。

疲れてるから助かるけどさ、情緒もへったくれもないな。


「では、エレベーターに乗って部屋まで行きましょう」


エレベーターがある時点でマンションっぽいなんかだろうなとは思っていたさ。

ニアがエリート部屋云々言ってたし。

エレベーターに入り階層のボタンを見て15階建てのマンションだと推測。

高所恐怖症だから高い部屋は嫌だな。


「ここの15階ですね。最上階なので、上からの足音を気にしないで生活できますよ」


「え、最上階って,,俺みたいなのが泊まって大丈夫なんですか?それに、高い場所は苦手なんですけど…」


「ハハハ!大丈夫だって言ったじゃないですか!余った部屋を腐らせておく方がもったいない。それに、黒石さんはスキルを使って無重力の様に体を操れるのでしょう?仮に高い所から落ちてもなんの心配もありませんよ」


部屋が余っているのならもったいないのもわからんでもないが、気持ちの問題だよね。

こちとら地球で高級な暮らしと無縁な生活送ってきたんだよ。

支部長には寿司を食べながら異世界であった事を報告していたので、無の力の性能も知られている。

高い所から落ちてもスキル使えば?って言われてもさ、まだ一回しか使った事ないんですよ。

今高い所から落とされたら、パニくって地面の染みになると思うんですが。

エレベーターの壁がガラスのせいで、外を見る度に尻の穴がキュンキュンしてますわ。

外は背の高い建物が少ないくらいで、日本で見た夜景とあまり変わらない。

明るくなれば違いが分かるだろうか。

ビビりながらも15階に到着、支部長に連れられて部屋に到着した。


「ここですね、鍵はこれです。失くさないようにしてください。部屋の説明はこれといっては特にないですね。地球の設備とそう変わらないはずなので、好きに使っていただいて結構ですよ。家具や小物も揃ってますので不便はないかと。あ、着替えは寝間着と下着がベッドの上にあります。明日外出用に着て欲しい服は部屋に吊るしてあるので、それを着て準備していてくださいね。何か質問はありますか?」


部屋に入り、お風呂の使い方等を質問してみるが、本当に地球と同じ方法で特に問題無さそうだった。


「支部長、今日は色々とありがとうございました。では、明日の10時前までに準備しておきますので、よろしくお願い致します」


「こちらこそありがとうございます。最初はどうなるものかと思いましたが、結果的にこちらも色々と得るものもありましたので。それでは黒石さん、お疲れ様でした。また明日に会いましょう」


「お疲れ様でした。ではまた明日」


支部長が帰り、扉が閉まった。

一人になり、張っていた気持ちが抜ける。

さっき、設備の説明を受けた時にお風呂にお湯を溜め始めたので、待つ間に着替えの準備をする。

部屋をぶらぶらと探検していると、お湯が溜まった通知が聞こえてきたので風呂場に向かう。

服を脱いで風呂場に入り、体を洗った後で湯船に浸かり、一息ついた。


「あ~、生き返るぅ…」


3日ぶりの風呂に癒されながらこの部屋について考える。


「8畳位の部屋が3つにリビングが10畳くらいか…確かに独身で住むには広すぎんな。色々と生活必需品も揃ってるし、ちょっと広いホテルって感じか。内装と家具も割りと普通だし」


そのまま湯船に浸かっていると眠ってしまいそうだったので、お風呂タイムは早めに切り上げた。

脱衣場にドライヤーが設置されていたので髪を乾かし、寝間着に着替えてベッドに転がる。


「せっかくお小遣い貰ったんだし、ビールでも買ってみるか、あとタバコも。灰皿があったから吸っても大丈夫だろ」


寝っ転がりながら端末を出し、ショップを開く。

タバコとライターの検索に手間取ったが、日本で好んで買っていた銘柄を買う事ができた。

ビール500円、タバコ1000円、ライター200円。

日本と比べてるとショップの値段は2倍くらいだろうか。

テーブルに設置されていた灰皿を持って、キッチンの換気扇の下でタバコに火を着ける。

銀色のビールの蓋を開け、シュワシュワを喉に流し込んだ。


「これだ…これなのだ!…堪らん!!」


テンション上がるわー、男だし濡れないけどね。

ヤニで頭がクラクラするが、今はこれも心地いい。

1日の締めくくりとして最高だね。

地球に居た時は毎日酒とタバコを欠かさない、不摂生の見本のような生活をしていた。

これからは多少は控えるつもりだが、染み着いた習慣を急に直すのはちょっとつらい。

無いなら我慢できるけど、有るなら我慢できない依存性だからさ。


キッチンを見渡す、冷蔵庫やコンロ等の備品はあるが食品等の消耗品は無い。

夜も遅く、時間があまり無かったので最低限泊まれる用意と、明日着る着替えしか準備できなかったらしい。

朝食代として支部長が2000円くれた。

ありがたや。

ちなみに千円札は野口さん、ここが日本だと錯覚しそうになるね。

冷蔵庫のロゴにHITACHIって書いてるしさぁ。


いい具合に酔いが回ったので歯磨きをしてベッドイン。

備え付けの目覚まし時計を確認すると深夜2時。

アラームを朝8時にセットし、肌触りのいい布団を掛けて目を閉じる。

溜まった疲労のせいか、すぐに睡魔に襲われ眠りについた。





[ピピピピピピピピピピピ……]


朝8時、アラームの音で目が覚める。

ぼーっとしながら歯磨きをし、シャワーを浴びる。

髪を乾かしたら端末から適当にパンとコーヒーを購入。

食事を終え、一服終えたら準備されていた服に着替え、鏡で確認をする。


「パッと見は黒いスーツなんだけどなぁ…なんか装飾ついてるし、コスプレ感が半端ないな。協会の余ってた制服かな?支部長みたいな白いスーツじゃなくて良かったけど」


ニアも白い制服の様な服だった。

顔が良い人ならああいった服でも普通に着こなせるんだろうけどね。

俺程度じゃコスプレの域を出ないわ。

今日の話し合いが終わったら外に服を買いに行ってみよう。

ショップの服は高かった。

レイちゃんから貰った大事なお小遣いなのに、シャツ一枚に5000円とか払えないよ。


[ピンポーン]


鏡の前で服の観察をしていたらチャイムが鳴ったので玄関の扉を開ける。


「おはようございます、黒石さん。ゆっくり休めましたか?」


白いスーツが良く似合う、青髪ダンディーさんが迎えに来た。


「おはようございます、支部長!バッチリ休めましたよ!やっぱり布団は良いですね!」


「それは良かったです。服のサイズも大丈夫なようですね。良く似合ってますよ」


「そうですかねぇ…ならいいんですけど。あ、この服っていつまで借りれます?今日代わりの服を買ったら、洗ってお返ししますんで」


おっさん臭が移ってるだろうし、ちゃんとクリーニングに出しますよ。


「ああ、大丈夫ですよ。その制服は差し上げますので。お気になさらずに。逆に返されると困ってしまいます」


支部長がニコニコしながらこちらを見ている。

うーん、制服なのにいいの?

返されると困るって、古い型で在庫が余ってるとか?

まぁいいか、これと今まで着てた汚い服しか手持ちないし。

あ、やべ。

ゴミとかそのままだし、布団もぐちゃぐちゃだ。

これから協会に行くのに部屋片付けてなかった。


「はぁ、そうですか。では遠慮無く使わせていただきます。…あの支部長、この部屋っていつまで使えます?昨日着てた服とか部屋のゴミもそのままですし、できればでいいんですが、もう少し滞在できたら助かるんですが…どこか宿を見つけたらちゃんと片付けて返却しますので…」


無理なら今日中に激安のホテルとか探さないと。


「そうですね…まぁ、そのあたりも今日の話し合いで解決するかと。話の流れ次第ではしばらくこの部屋で暮らせますよ。黒石さんにとってそう悪い話にはならないと思うので安心してください。とりあえず部屋はそのままで大丈夫ですよ。そろそろ予定の時間になりますし、行きましょうか。エレベーターホールまで降りたら私の扉で、協会の入口まで移動しましょう」


悪い話にはならない、か。

神界デビューしたての新米使徒が、そこそこ立派なこの部屋でしばらく暮らせるのならば、確かにそう悪い話ではないのだろう。


「了解です!ニアを待たせちゃ悪いですもんね!俺も話が上手いこと進むように頑張りますよ!しっかり休めたので今日は変なテンションじゃないですし、昨日よりはまともに話せると思いますんで!」


「ハハハ、期待してますよ!」


部屋を出てエレベーターに乗り、下へ向かう。

エレベーターの窓から見えた昼の神界は、夜に見た時の印象と変わらず、日本の街並みと大差なかった。


「神界って。地球、っていいますか、日本とあんまり見た目は変わらないんですね」


「そうですね。基本的に建物の建設やインフラは、全てシステムに頼っていますので。ここは神界でも日本と関わりが深い場所なので、システムも日本用といいますか…簡単に言いますと、ここは神界の日本、もしくは日本用の神界といった感じですね。使う言語も日本語ですし、紙幣も円ですから。システムが創る異世界も主に日本の物語です」


なるほどね、どうりで日本の食品や日本のメーカーの家電があるわけだ。


「へー、それじゃ神界のアメリカとかもあるんですか?」


「当然ありますよ。英語を覚えて留学する神もいます。地球の日本とアメリカほど距離は離れていませんがね」


短い時間だけど支部長と神界トークをしながら協会へと向かう、色々知っておかなきゃね。

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