宇宙人にされた男 三



 俺はその夜、久しぶりに家の二階の自分の部屋で寝た。

 自衛隊に入隊した事と、俺の任務が夢みたいで嘘のように思えた。しかし家族の顔を見て俺はなんか安心した。


 ばあちゃんが体調を崩して入院していたのが心配だったけれど、明日、病院に家族でいく予定だった。ばあちゃんは俺の任務を理解してくれるだろうか。いや無理に決まっているけど、ばあちゃんに会いたかった。俺はばあちゃんにとっても可愛がられて育ったから。

 

 なかなか寝つかれず、いろんな考えがとりとめもなく俺の頭に浮かんできた。

 

 宇宙人が地球を征服すると言ったと、内田陸将は俺に言ったけど、いったいどんな言葉でそう言ったんだろう? 本当に解読なんてできたのだろうか?

 俺がもし宇宙人に改造されたら宇宙人語を流暢に喋るのだろうか? 想像もつかなかった。日本語を忘れていたらどうするんだろう? 


 任務に対する疑問が山のようにあったけど、内田陸将に会ったら訊いてみるしかなさそうだ。

 そんなことを思ううち、なぜか昔のことが思い出されてきた。小学生の時自転車を買ってと母にせがむと買えませんと言いつつ、翌日俺が学校から帰ると新品の自転車が俺の部屋に置いてあった事。

 俺が就職した時、生まれて初めて正式に給料というものを貰った時、いつも怒ってばかりいる親父が「おまえも一人前に稼げるようになったか」

 そう言って俺の肩を軽くたたいてくれて、自分のことのように喜んでくれた事。あの時は俺、心底嬉しかったんだ。なぜかそんな事が思い出された。


 本当の事を言うと俺は最初から任務をやる気でいた。なんでだか実は俺にもよく分からない。 どちらかというと臆病な俺が、なぜかやる気になっていた。

 たまらなく昇格したかった訳でも無いし、金が凄く欲しかった訳でもない。


 なのに……。もしかして家族の為……。日本の為……。よくわからない。



 翌日俺は亜紀に会いに行った。俺は亜紀と言う女性と二年ぐらい付き合っていた。

 俺が電機メーカーにいた時、受付をしていた何処にでもいそうなタイプの女性だ。

 

 彼女も電機メーカーを辞め、今はデパートの婦人服売り場で販売員をしていた。なぜか俺たちはカラオケ好きデートでカラオケ店に入り浸っていたことがある。

 自衛隊に入ってから毎週会えなくなったがメールの交換だけは頻繁にしていた。


 近所のファミレスで彼女と逢った。彼女は綺麗だった。おめかしをしていた。化粧の仕方も上手くなったように俺は感じた。


「暫らく見ないうちに逞しくなったねえ」


 と彼女が言った。


「そうかい」


 なんて言いながら俺は任務の話を彼女に切り出した。だいたいの話を聞くと彼女は嬉しそうな顔をした。


「凄いじゃない」


 と彼女が言った。任務の内容は海外遠征としか言わなかったから。特別ボーナスが出るとか、昇格するとかいいことばかり俺は言った。

 実はなんとなく彼女との仲が怪しくなっていたから、俺は見栄を張ったのかもしれない。俺の弱さが出たのかもしれない。

 心にはその言葉と裏腹に妙な寂しさだけが残っていた。実は……。と切り出せたらどんなに楽だったろう。しかし本当のことは言えなかったし、言うわけにはいかなかった。


「当分会えないから」


 俺は言った。


「向こうで写真をとって写メ送ってね」


 と彼女が言った。


「ああ」


 と俺は答えたが心の中じゃ、むりだと思った。宇宙人の写真を送ったら任務がばれちゃうし、辛いところだった。だいたい宇宙から写メ送れるの?

 

 夕方になり、夜になった。恐ろしく長い時間俺たちはファミレスにいた。ファミレスから出て俺は彼女をホテルに誘った。


「だめ。ごめんね。今日は生理なの」


 と彼女が言った……。


 それで俺たちは公園で十分以上のキスをして別れた。

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