弥都波能売神《みつはのめかみ》、水を解く

先生この石なんですが……


えー!!あれ!

それよ、それそれ!!

うそー!!

みつけたの?


……?



先程までだんまりとしていた優美が突然大きな声でそう言った。



優美?

どうしたんだい?

急に大きな声をだして……?



優美らしくない大きな声に驚き、緑郎が優美の興奮を抑えるように背中をさすった。



で、どこでみつけたの?

その石!!

私言ったでしょう。

海の中の米粒を見つける様な物だって!!



呆気に取られて少し戸惑ってしまったが、

今の一言で察しがついた。



神鳴りの樹の根元…。



なるほど……。

そんなところにね……。

さすがねー深月ちゃん翁様の認めた子だけの事はあるわー……。




んっんー……。

ごめんなさいね何の前触れもなく。

出るタイミングを伺っていたんだけどね、

月の雫が見つかったって言うからついね……私は水を読む者

弥都波能売神 

なんて呼ばれてるわ。

わたしたちは以外の人の前には姿をあらわす事はできない。

だからここ娘の体少し借りるわ。


そう言いながら緑郎に、にっこりと笑いかけて背中をさする手をよけた。



私たちは本来姿無き者よ。

万物の霊長である人の

想像が創り出した存在だから。

自然を崇拝して風と共に生きると言う事は、

毎日同じ様に

陽は照り

水は揮発し

風は吹き

雲は流れ

雨を降らし

月が出る


時には風が強く

時には雲が多い。

時には陽は陰り

時には雨を降らす。


陽は万物の光であるが、

陽は万物を焼きつける。

雨は万物の恵となるが、

雨は万物を腐らす。


わたし達は奇跡なんて起こせない。

その万物の恵みをどう扱うかは人次第。

結局自然と共存するのも人と人との繋がり無くしては難しい。

日々この大地が回る事が既に奇跡なのだから。



私は継ぐ者たちに伝えるのは、

ただ山のふちから湧き出た水の流れをゆっくりと見守ればいい。

時には流れに乗せてあげて、

時には流れに逆らう者をなだめて、

大海へと導くすべとなれば良い。

それを伝えるのが水を読む者の使命なのだから。


わたしは人ではないけれど、

ウジウジしてたらイライラするし、

大事な物も何処に置いたか忘れるし、

感情的にもなるわ。



矛盾してると思うけど、長い時をかけて沢山の継ぐ者…つまり人たちと関わってきたんだもの。きっとその影響なのかもね。


まぁーいろいろと長々説き放ったけれど、

あなたたちは出会うべくして出会ったのよ。太陽も雲も

雨も月も

私たち読む者も

あなたたち継ぐ者も、

それから他の人や生物たち、

生きとし生ける全てのものは

のよ。


わたしが一番言いたいのはそれだけよ。



誰も何も言えなかった。

いや言う必要など無かった。

まるで誰か講義を聞いてる様だ。

ただ人と自然との調和こそが、

この世の中の多種多様な人々がより良く過ごすすべなのだと教えられた気持ちだった。



そろそろ抜けるわ。

この娘に悪いし。

深月ちゃんその石はあなたに預けるわ。

だからそのまま持って置いて。


あのミツハ様。


と先生が呼びとめる。


はい?


あなたは静子の抱えていた最後の秘密をご存知なのですか?



はぁー…。


本当にあなたって野暮な男ね。

秘密も受け入れるって言ってたじゃない!!

それを本人以外から聞き出すつもり?!



すいません。

いや本音はすごく気になってしまって……。

でももう考えるのはやめます。



ねー!?

と何故か私を見て言うので、

なんとなく笑顔で頷いた。



力が抜けるように倒れ込む優美を緑郎が抱き支えた。













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