暗闇の雲

静子の心の闇?


あなたは彼女の全てを知っているつもり?

あなたは彼女の優しさだけを受け止めてきたでしょう?



優しさだけ……

ですか?



そう。

あなたを思い、

あなたに尽くして

愛を求めて……。

そのまま天に召された……。

一見幸せな生き方に見えるけれど、

当然彼女にも優しさとは

相反する、負のことわり……

つまり黒い闇の心があったのよ。



負の理……。



けれどもあなたにはそれを見せなかった。


人には誰でも負の感情というものがあるものでしょう?

あなただって持っているはずよ、

隠し事 、後ろめたさ 、劣等感 、錯体

とかそういった感情を……。


彼女にも当然、負の感情があった。

ねたみ…。

嫉妬…。

憎愛…。

自分だけを見てほしい。

とかそういう気持ち…負の理がね。



だけど私は静子が……

怒ってるのを見た事もないし、

感情をあらわにしてるところなんか、

全く想像つかない。

だから彼女から今まで負の理なんていうものは感じた事などない。



だから?!……

はぁー…。


首を横に振りながら大きくため息をつく。


男ってやつは本当に鈍感ね……。

それは彼女が闇の部分をあなたには見せたくないから心に留めていたんじゃない。

そんな事もわからないの?

いったい何年夫婦していたわけ?



……え?!



聞いてる?



はい。

なんか……すいません。



いや私に謝るじゃなくて……。


んっんー。(咳払い)


あなたは彼女の抱えている

負の理を受け入れて、

払拭ふっしょくしなければならない。



でもっ…

けれど静子はもう……。


静子はもうこの世にはいないではないか。



大丈夫……。

大丈夫よ。


そういうとぬきを振りかざし、

私を朱き門の先へといざなう。


※(ぬきはお祓いに使う紙のついた棒で、俗にいうお祓い棒というものです。)


あなたにはそれを乗り切る力がある。

だからあなたが思うように、

どうか心の声を包み隠さず吐き出して、

そして声を……

心の声をどうか聞き入れて上げて……。



心の声……。





朱き門の先にある小さな小舟

川に浮かぶその小舟に乗り込み

水の流れに我が身を任せる。

ふと水面みなもに目をやると、

ピンク色の花びら……桜だろうか?

その花びらが流れていく……。

よく見ると両岸の桜の木?から花びらが舞い落ちてくる。

そういえば毎年静子と桜を見に行ったっけ。

彼女は本当に花を愛でるのが好きだった。

いろいろな所に行ったけれど、

歴史情緒溢れてたあの桜が散る景色の川は

どこの川だっだろうか……?

なんて昔を思い出す。

ん?

何かがおかしい……?

そんな違和感に気が付く。

よく見ると花びらが流れて行く方とは

逆に小舟が進んでいる……。

おかしい…。

おかしいけれど、すでに不思議な事が沢山おきてる……。

だからもう何が起きても驚かない。

この非現実的な青い世界は

とっくに受け入れた……。




あなたは私の事知っている?



いつの間にか隣にいた黒い塊が、

しゃがれた低い声でそういった。


少し恐怖を感じながら、


いや知らない。

それにあなたが何か私にはわからない。


と答えた。


それは大雨の前の黒く重たい雲のよう。

空気が歪み、稲光の前触れのような湿度の臭いがして風が強くなってきた。

儚くも淡いピンク色の花びらが吹雪のように吹き付けた。

それは沢山の負の理を抱えた、

まさに暗闇の雲だった。
















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