深月

朱い光がはなつ無数の線は

瞼の上を流れていく

月の光の螺旋が

流星のように空に舞っている。

私の片目は乱視が強く

裸眼で覗く世界は、

いつも無数の光の線が走っている。

両目を開いて遠くに視点をあわせると

乱視の線と

朱い宿命の線とが

交差して一つの線を生み出した。


私が今まで解いてきた朱い糸には

必ず人という終着点があった。

朱い糸の先には

必ず乗り越えなければならない

宿命の相手がいる……。


深月……。


遠くから呼ぶ声


みつき……。


私を呼ぶこの声は誰の声なの?


懐かしいような……。

愛おしいような……。

切ないような……。

悲しいような……。


初めから気づいていた。

いつもとは違う何か…。

本当はわかっていた。

今見える朱い糸が

私の宿命の糸だと。


けれどまだわからないのは

この宿命の朱い糸の終着点。

優美と緑郎の様に

こじれていても修復ができるかはわからない。

そもそも拗れるも何もまだ出会ってすらいないかもしれない。

それに……、

今までは私が糸の絡まりを紐解くように、

流れてくる脈動を一つ一つ受け入れて、

ほどいていたけれど……、

じゃあ私自身のこじれやほつれやからまりは、

いったい誰が受け入れてくれるというのだろうか……。



瞼の裏の朱い流星が止むと

黒い闇の中に取り残された。

やがて僅かな光が夜明けの様に段々と

辺りを明るくしていく…。

しかしそこに太陽のような明るさはない。

そう…いうならば…

雨の日の夜明けのよう…。


やがて朱塗りの門が目の前にあらわれる。

門をくぐると白い小さな一輪の花が、

青い世界にポツンと咲いている……。


そうか……。

そうだよね。

私……。

今から会いに行きます。

そう白い花に語りかける…。


…きさん。

みつきさん!!

深月さん!!


え?!


優美に現実世界に引き戻される。


もうっ…。

また急に倒れこむからびっくりした…。


ごめん。



新しい朱い糸見えたんですか?


と緑郎から言われて…。


黙って頷く。


まだはっきりしない意識の中…、

白い花を思い浮かべる。

考えてみれば私が、

私自身が抱えている問題は明確だ。

問題が明確だからこそ今

優美と緑郎に話を聞いてもらったんだった。


先生に会いに行こう。


緑郎さん。

ちょっと調べてほしい事があるのだけど?


はい。

何を調べたらいいですか?


うん……。

花について調べてほしい。

甘野老あまどころって言う花について。



いいですよ。


私も何か手伝える?


と優美が言ってくれた。


うん……。

私、先生に会いに行くわ。

だから一緒にきてほしい。

私1人では……。


そこまで言うと、

堪えていた涙腺の堤防が崩れていく……。

ポタリぽたりと、音が鳴るように大粒の涙が頬を伝ってテーブルを濡らした。



先生との一件以来、

人と関わるのを避けてきた…。

必要最低限な人たちと深く関らず、

自分の弱さを見せず、

決して人前で泣かないと決めていた。

1人静かに

森の中で田畑を耕し、

自分だけの世界で生きて行こうと決めていた。


なのに……。

なのになんで……。

人間の……、

人の優しさって

なんでこんなにも温かいのだろうか……。















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