優しい月

暑い夏。

エアコンの無い部屋に

じっとしているのは応える。


そんな時は外にでる。


夜道の散歩が好きだ。


重い木戸は開放の扉

暑い空の夜風は

思い悩みを

優しく撫でる

月の光に導かれるよう

ただ目的も無く歩きだす。


私の好きな景色がある。

15分ほど歩いた大きな川にかかる橋。

小さなこの街の

大きな湖までつながる川

橋の中央に立つと

時々走る車の音以外は

草を撫でる風の音と虫の声しか聞こえない。


暑い一日だった。

いやむしろ今も暑い。

背中に汗が滴る。

持ってきたカバンから

缶チューハイをだし、

プルトップに手をかけた。

柑橘系はあまり好きじゃない。

本当はハイボールが好きだけど、

少し高いから

プレーンの安いやつ。


飲み口から少しだけ

飲み啜ると目の先に月光が流れてくる。


今日は月がきれいだ。


夏の静寂の中

次第に近づく機械音

枕木をつなぐ筋の度

ガタンゴトンと

音を立てる電車だ。

遠くに薄っすらと見える

山々の間を縫うように

列車の窓明りが走り抜ける。

その景色を見ながら

缶チューハイ片手に

物思いにふける。


35歳✖︎1つ

理由は私が約束を守らない人だから。

私は約束を守れないわけではない。

忘れてしまうのだ。

記憶の定着が苦手。

約束しても忘れる。

お願いされたのに忘れる。

戸締まりを忘れる。


だから物をよく無くす。

眼鏡の捜索を生まれてから

何回したかわからない。

その昔携帯電話をなくして、

何処を探しても見つからなかった、

最終的に冷蔵庫からでてきた。

何故そんな所に置いたかも覚えてない。

極めつけが、

火の不始末。

煮物を掛けっぱなしで出てきて、

元旦那さんが帰宅してみつける。


優美といると心配事が絶えない。


だそうだ。


そんな挙句が、

エアコンなしの

ボロアパートに一人暮らしだ。



いろいろ思い出すと涙が出てくる。

涙と一緒に缶チューハイを

半分くらい流し込む。

向こうから自転車がくる。

なんとなく気まずいので、

涙を拭って川の方に目をやる。




あれ?


と声をかけられる。


振り向くと

赤い自転車にのった男が

目を細めてこちらを見ている。


あっ!


あんなに会いたかったのに、

毎日探していたのに、

一週間たっても

一ヶ月たっても

全く巡り会えなかったのに…。


駅で助けてくれた男だった。




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