無の理

もう大丈夫なんですか?



赤い自転車の男と

その隣には

可愛らしい彼女・・・。



彼女に話したらすごく心配して、

一緒に来てくれるっていうんでね。

でも良かった。

意識戻って!



心配?

嘘!!

絶対馬鹿にしにきたんだ。

一人でお酒呑んで

勝手に倒れた哀れな女

きっとそう思ってるに違いない。

ほら薄ら笑いしてる。


私は馬鹿だ。

一人でたまたま出会った優しそうな男を

もう一度会いたいと勝手にさがして、

みつからないから落ち込んで

偶然出会ったら

運命の人だなんて思って。

そりゃそうだ。

彼女がいないわけない。

馬鹿だバカだ本当にばかだ。



そのまま何も答えず病院を飛び出した。

まだ太陽は真上まできていない。

うだるような暑さも心なしか

今日はマシだ。

出てきてどうなるものでも無い。

ただ・・・、

ただちっとも涙がとまらなくて、

このまま脱水で死ぬかもしれない。


もうこの世界に生きてる意味なんてない。

どうせ私は一人だ。

もう無理だ。


【理】ことわり

物事の筋道。

もっともな事。

道理。


生きる為の筋道が、

最もな理由が

全くみつからない。


無の理


喜びとか、

楽しみとか、

自由とか、

そこには何もない。


じゃぁーいったい何があるのか

私はただこの世界から

逃げ出したいだけ。


その先にあるのは無だけ。

無理の先にあるのは…。

わからない。



深月は優美の朱い糸を感じる方へ急いだ。

糸の脈動が早く弱くなっているのをかんじたからだ。


彼女と繋がる朱い糸は

複雑にからみあっていた。

幾方向にも広がり糸にも関わらず、

とにかく乱れた様子だった。

かぼそい先端が脈打つ様に

振動している。

それを私は一つずつ解くように、

外していく。

何をするわけでもなく、

複雑な思いを一つずつ一つずつ

丁寧に受け入れていく。



絡まった糸の先の

僅かな光

彼女を救う糸は確かに繋がっているのだ。




駐輪場に向かう途中だった。

駅を出てすぐに、

ひっそりと踏切がある。

あまり存在が知られていない、

地元の人だけが使う、

車なんか通れないくらいの、

小さな踏切。

その踏切から線路にむかって

彼女は歩き出そうとしていた。


必死で腕を掴んで

踏切という境界線の外に連れ出した。

やっと現実世界の優美をとらえる事ができた!



自分のメモリーカードがいっぱいなの。

覚えても覚えても次々覚える事があるんだもの。

でも記録されるでもなく、

ただ書き換えられるだけ、

書き換えるから今言われた事もわからなくなる。これでも最初はわからないことは

ちゃんと聞き返してたのよ。

でもそのうち

また?

みたいな顔され、

周りのみんなが…、




あなたの気持ちは伝わったわ。

だけどあなたにはあなたを救う宿命の

人がある。

一緒に無の理をうちやぶりましょう。


そう優美に語りかけた。












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