二期

夏休み

 人通りの少ない道をぎぃぎぃとも、きぃきぃともつかない耳に障る音をたてて、右へ左へとふらふらペダルを漕いでいく。

 前かごに適当に放り込まれた買い物袋がわずかな振動に合わせて大きく跳ねているのを横目に、鳴らす気もないのかへたくそな口笛を上機嫌で吹いていた。

 暑さのせいでカップアイスの表面がビニール袋とひっついているが、これ以上スピードを上げる気はないようで、変わらずあっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返している。

 フリープログラマーである中山は万年金欠で、自転車もそろそろ買い換え時だとは考えているが、生活には困らない程度の稼ぎなので、一度に大金が入ることはそう多くはなかった。

 普段であれば友人の妹である天才少女めぐむに探偵としての依頼を取りついで小遣い稼ぎをしているが、最近はやりすぎで着信拒否までされている。おそらくあと一週間は会ってもくれないだろう。

 この時期は本業の依頼もほとんどなく、一日中暇を持て余している。暇つぶしは何がいいかと考えを巡らせながら、中山は自宅の方向へ舵を切った。

 考え事をしながら運転していたせいか、電柱にぶつかりそうになり慌ててハンドルを右に切った。

 間一髪で避けてから気がついたが、電柱の陰に隠れるように前に一人、女の子が歩いていた。制服で、リュックの他にも重たそうな紙袋を持っている。

 見たことがある後ろ姿だが、こんなに大きな荷物を持っている姿とはどうにも結びつかず、中山は首をかしげた。

 しかし、本人の可能性もある。もし人違いだったら恥ずかしい思いをするが、あっていれば自転車を買い換えられる。そう考えた中山は追いつこうとペダルを踏むペースを速めた。

 前を歩く女の子は音が聞こえたのか、振り向きもせずに更に端の方に寄る。

 あと少しで追いつきそうで、ちらりと見えた斜め後ろからの顔には大きな伊達メガネがかかっていた。やはり、見知った顔だ。それどころか、あと一週間は会えないと思っていた顔。

 大きな荷物を持っている理由も、漕いでいる間に思い当たった。夏休みだ。高校生には夏休みというものが存在していた。毎日暇で狂ってしまった時間感覚が戻っていくと同時に、刺激的な夏休みを想像して中山の心が弾む。

 少し疲れたように紙袋を頻繁に持ち変える彼女の後ろを、かける言葉を探しながらついていった。

 中山とめぐむは長い付き合いで、お互いの性格もよく知っている。中山はちゃらんぽらんで無神経にも見えるが、意外に真面目な一面も存在していた。しかし、めぐむは神経質そうな顔をしていながら自分のことに関してはかなり雑な所がある。

 教科書をこまめに持って帰るのが面倒くさくて放置していたのだろうと推測した中山は、親切心とほんの少しの下心を滲ませながら声をかけた。

「やぁ、むぅちゃん。その荷物ここにのせなよ。運んであげる。……そんなに嫌そうな顔しないでよ」

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