薄暗いホール内のスポットに照らされた壇上で、よく知らない偉い立場の男性が淡々と学校名と賞を読み上げている。

 小鞠はそれを、効きすぎなくらいのエアコンに腕をさすりながら、ホールの一番後ろで立って見ていた。座席が足りないためである。

 強豪校の大勢の部員達が大きなホールの座席を埋め、自身の学校名と賞が読み上げられる度に甲高い悲鳴をあげているのを、どこかガラス越しのように見ていた。

 伊勢小鞠はとある中学校の吹奏楽部所属である。

 しかし人数も少なく、先輩のやる気もない。新入部員は二人残れば良い方、なんて話が出るくらいには弱小の部活。そんな部活の、クラリネット奏者だった。

 足元や背後には合皮の楽器ケースが並べられている。人の通るスペースを確保するために、小さなケースのクラリネットは自分で持っておくように指示されていた。

 ケースを固く抱きしめた小鞠はどこか客観的な気持ちで、広いホールの中で小さくなることはできるのに、まとまることが出来ない部活のことを思いかえしていた。

 半年間、先輩達との仲を取り持って必死に練習してきた小鞠を支えてくれるのは、幼馴染で親友の志摩心春ただ一人であった。

 彼女はチューバ奏者で、おおらかな性格をしていた。直情型で突っ走りやすい小鞠のストッパーで、皆をまとめる部長だった。二人は部活のために出来ることは無いかと相談しあった。外部の先生を呼ぶ部費も無かったが、色々なことを調べて実践もした。ついていけないと、何人もの部員が辞めていった。

 小鞠たちの中学の名が呼ばれた。銅賞だった。

 吹奏楽コンクールにおける銅賞というのは奨励賞と等しい。先輩からはやっぱりという空気が漂い始める。最後の年なのに泣きもしない先輩達に、小鞠は悔しさで抱き抱えていたケースを叩きつけたい衝動に駆られたが、ぐっと堪えた。楽器より優先されるものは例えそれが人であっても存在しないのだ。

 顧問の呼びかけで素早く帰る用意を済ませ、ホールを出る。外の廊下にはいくつか机が並べられ、乱雑に奨励賞の賞状が置かれていた。

 通う中学の名を誰よりも一番に見つけたのは小鞠だったが、どうしてもそれを取る気にはなれないようで手をさ迷わせていた。

 そのうち、先輩の一人がパッと手に取り冊子に挟み込んで鞄へしまった。先輩達がクリアファイルすら持ってきていないことに何か言いたげだったが、それも諦めたようだった。

 二列になって駅へ向かう途中、一番後ろを歩いていた小鞠の目に涙がにじんだ。

 楽しそうに雑談している先輩達にバレないようにと小さく鼻をすする小鞠の様子に気がついたのは、隣を歩いていた心春ただ一人だった。

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