恋 A面

 よく分からない形の遊具の近くで猫が毛繕いをしているのを横目に、公園の中を奥まで歩いた。

 今日は部長の突然の提案で部活がなくなった。うちの部活は全員がモテるから今日ばかりはまともに活動も出来ない、という例年の経験からの部長の言だ。

 しかし、家に早く帰ったところで何もすることがなく、まだ小さい弟の相手をするのは面倒くさい。かといって、学校にとどまっていては女子共に追いかけられて疲れるだけだ。

 だから、学校からも自宅からも離れた公園で時間を潰すことにした。

 以前の寄り道でたまたま見つけたこの公園は、寂れていて大人どころか子供も滅多に来ない。こういう日にはうってつけの場所だ。隅の方に置かれているベンチに腰掛け、イヤホンで音楽を聴きながら借りてきた本を読みはじめた。

 どのくらい時間が経っただろうか。

 気がつけば、公園の入口あたりからオレンジ色の光がゆっくりと濃くなってきていた。そろそろ冷え込んでくるだろうから帰ろうと本をカバンに閉まっていると、ふと影が差した。

 驚きつつも表に出さないようにして見上げると、同じ学校の制服を着た女子が1人で立っていた。走ってきたのか、あるいは相当歩き回ったのかは知らないが、少し息が乱れていて、頬も鼻も赤くなっていた。

 両手を後ろに回して何かを持っている様子で、なぜこの女子がこんなにも息を切らしているのか合点がいった。きっと学校で渡せず、それでも諦められずに放課後が終わってからもずっと探していたのだろう。よくめげずにここを探し当てられたものだ。

 片耳のイヤホンを外して立ち上がると、女子は何か言いたげに口をもにょもにょと動かした。

 しかし、結局上手い言葉が見つからなかったのか無言で箱を前に差し出した。綺麗にラッピングされた箱はどう見ても本命で、とても義理とは思えなかった。

 いつもなら面倒を避けるために受け取ったりはしないが、こんな時間まで探していたのと、ここに人がいないことも相まって、つい魔が差した。

 少し震えている手から受け取り、勢いよく顔を上げた女子に会釈をした。これを受け取るのは、あくまでもその労力に対する敬意であって、そういった気持ちは無いから期待はしないでくれという意味を込めて、だ。

 相手に伝わったかどうかは分からないが、こんなに探し回ってまで渡しに来るということは少なからず俺の性格は知っているということだろう。

 丁寧にカバンの中にしまって、もう一度軽く会釈をする。

 もうこれ以上いても面倒事を引き起こすことになりかねない。外していたイヤホンをつけ、公園の出口へ歩き出した。

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