第2章 最初の異変

第9話 課外活動アンケート

 その後1週間、学校生活は特に何事もなく進んだ。

 強いて言えば2件ほど新設校らしいお知らせがあったくらい。

「リアルで『いい知らせと悪い知らせがある』という奴だよな」

 有明のそんな感想通りの奴だ。


 まず悪い知らせから言うと、夏休み及び冬休みの短縮だ。

 この学校ではお知らせは、主に学内掲示板や学内SNSのメッセージという形でやってくる。

 これも朝方、SNSメッセージでやってきた。


『本来は7月終わりの週から夏休みに入る予定でした。ですが本学は6月に開校したため、このままでは授業日数が足りません。ですので本年の夏休みは8月の第2週からとします。なお冬休みも3日間ほど短縮する予定です。

 日程の詳細については別添のpdfファイルを参照して下さい』


 まあ開校スケジュールにかなり無理があったから仕方ないだろう。

 どうせ夏休みの予定なんてものも無いしな。


 そしてもう1件はこんなお知らせだ。

『本学は開講したばかりなのでまだ部活やサークル等の課外活動がありません。そこで7月後半を目安として課外活動を発足ささようと思います。発足までの手続きとしては以下の通りです。

  ① 参加したいという活動のアンケートを実施

  ② ①のアンケートを集計し、5名以上の参加が見込まれるものについて参加者募集のアンケートを実施

  ③ ②で5名以上の参加者が集まったものについて活動を承認。

  ④ 以降は

    ⅰ ③で発足した活動へ個々に参加する

    ⅱ あるいは5人以上の参加者を集めて新たに申請する

   のいずれかによって部員を集め、活動を実施する。

  ⑤ 活動場所については放課後の特別教室、会議室、運動施設等を貸し出すこととする。なお当初は参加者が多い順に希望する場所を割り振り、後は設立順に希望する場所を割り振るものとする

 なお課外活動に参加するかしないかは各生徒の自由です。参加しないという自由もありますし、部活あるいはサークルが認めれば複数所属も認めます。

 なお詳細については別添pdfファイルを参照して下さい』


 このお知らせは教室内でもかなり話題になった。

 何せ全員寮員だし通学時間は無いしで暇な時間はありあまっている。

 推薦入学が保証されているので受験勉強に集中する必要も無い。


「何か面白そうな活動は無いか」

 朝から早速有明がそんな事を言う。


「しかしここの学校は普通の運動部は出来ない。各学年1クラスずつしかいないし、男子は4分の1程度。高校相当だけで30名弱。最大のサークルで仮に男子全員の3割を集めたとしても、普通のスポーツでは対抗試合できる人数すら集まらない」

 北村らしい分析だ。


「となると少人数でも出来る活動が主になる。良くあるのは文化部で囲碁、将棋、文芸部、漫研あたりか。運動部だと卓球あたりなら人数少なくても何とかなる」

 確かに有明の言う通りだなと思う。


「川崎は何か入りたい物があるか?」

「特にない」


 俺は北村の問いに首を横に振る。

 わざわざ自由時間を潰すつもりは無い。

 確かに前の高校の時は魔法研究会に入っていたが、あれはこの学校に入るという目的があったから。

 今は特にそんな目的も無い。


「しかしこの学校に来たなら魔法を研究するべきだろうか? せっかく魔法が使える生徒が集まっている事だから」

 北村がそんな事を言う。 

 俺はあえて言わなかったのだけれども。


「でも魔法を研究するって何をやるんだ?」

「理論はどうせ大学の方でやっているだろうから、こっちは実践メインだろ。校庭隅のような危なくない場所で練習して、たまに測定装置を借りてどれくらい魔力が増えているかを見るとか」


「あ、そっちも魔法研究会を考えてるの?」

 これは斜め前の席に座っている塩津さんだ。

 有明の台詞が聞こえたようだ。


「というかここに来た理由とかを考えるとそうなるんじゃない?」

 塩津さんと一緒に話していた須崎さんもそんな事を言う。

「でなければ向こうの世界を研究する会かな。記憶を持ち寄って向こうの世界がどんな世界か明らかにする活動」

 これは同じく日野さん。

 確かにそれもあるな。


 でも俺自身としてはあえてこの辺には当初加わらないつもりだ。

 用心してというか、危険回避の為というか。

 以前茜先輩達が言っていた忠告が頭の中に残っている。

『状況が見えないうちは出来るだけ行動を控えた方がいい』


 そして先輩が危険を感じたとのは確かにもっともだと思う。

 少なくとも今の俺はそう考えている。


 前に先輩が言った開校までの異様な早さもその例だ。

 念の為先輩に聞いた後、俺はネットで裏を取った。

 たとえばこの学校のような大きい建物を建築する場合、通常は5ヶ月以上はかかるらしい。

 それも建築期間が短くて済むシステム建築やプレハブ工法を使うこと前提でだ。

 それでも基本設計や確認申請なんて作業だけで2ヶ月半はかかる。


 土地の造成もある程度必要だっただろう。

 ここは山奥の何もない谷間だった筈だから。

 そう考えると事案が発生してからこの学校が開校するまで4ヶ月というのは早すぎるのだ。


 予算の執行手順等を考えると1年くらいかかってもおかしくない。

 むしろ1年で住んだら早いほうだろう。

 これだけ急いで予算の執行から全部出来るのは大災害かそれに類する事態位だ。


 それ以外にも傍証はある。

 1日に2~3回は近くで離着陸するヘリコプター。

 その手に詳しいらしい倉橋によると陸上自衛隊のヘリだそうだ。

 オスプレイとかチヌークとかブラックホークとか言っていたけれど、その辺は俺はよくわからない。

 でも何故この学校に陸上自衛隊のヘリが行き来するのだろうか。

 少なくとも普通の学校ではあり得ないだろう。

 担任として自衛隊から教官が来ているなんてのも普通じゃ無い。


 ただ俺が何かあると感じているのは、実はそういった観察とか推理からくるものではない。

 感覚的な何か。

 今までに無かった、もしくは忘れていた何かの気配を感じるのだ。

 それが何かは今の俺にはわからない。

 知っていたような気もするのだけれど思い出せない。

 目覚めた時、ついさっきまで見た夢を思い出せないようなあの感覚だ。


 だからせめて、もう少し此処についてよく知るまでは用心しようと思っている。

 勿論他の人には言わない。

 確たる根拠とかがある話では無いから。


「川崎、黙っているけれど何か他に案があるか?」

 おっと、不自然に思われたか。


「いいや。でもとりあえず俺は帰宅部希望だな。自由時間が多い方がいい」

「帰宅部も何もそこの寮へ帰るだけだろ。どうせならここでしか出来ない事をした方が楽しいんじゃないか?」

「それも確かだけれどさ。まあ今すぐ決めろって訳じゃないし。今回は単なる案のアンケートだろ」

「それもそうだな」

 なんて話した処でチャイムが鳴る。

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