第5話 新天地は謎の中

 結果的に全国テストはいい感じで出来たようだ。

 また中には魔力がある人間にしか読めない問題もあったらしい。

 俺はどれが読めなかったのか気づかなかったけれども。


 結果的に俺は無事合格。

 ついでに言うと茜先輩も緑先輩も合格。

 だが日程がかなり急だった。

 6月26日発表でその日のうちに入校するかネットで確認。

 そして28日午後にはもう集合だ。

 

 厳密に言うと昨日26日の一限目に俺と先輩2人が呼び出され、合格した事を学校長から通知される。

 更にその後自宅へ帰り、翌朝9時までに家族と相談してネットか電話で入校の意志があるかどうかを向こうへ通知。

 今日27日でこの学校は最後で授業終了後荷物を全部持ち帰る。

 明日には集合の為に家を出発というスケジュールだ。


「何かあまりに急なスケジュールだよな」

「マスコミ対策じゃないか?」

 確かに小川の言う通りかもしれない。

 学校を作ったという話そのものは既にニュースで報道されているから。


「何処にあるか、何人規模かについても不明なのじゃろ」

「ああ。俺も知っているのは名前だけだ」


 ちなみに名前はニュース等でも明らかになっている。

 東京大学教育学部附属秩父中等教育学校という長い長い名前だ。

 だがこの名前以外は具体的に発表されていない。

 強いて言えば俺が説明された、

  〇 学費と生活費が全部国から出る事

    規定進路通りなら大学院博士課程修了時までこれらの費用は保証される事

  〇 全寮制である事

  〇 東大に推薦入学制度がある事

といったあたりが未確認情報として流れている程度である。


「何か面白そうだよな。魔法使い専用学校って。ホグワーツみたいなものか」

 学校の名称には魔法とは一言も入っていない。

 ただ一応魔法に関する研究の為の学校という事は公表されている。

 しかし記憶の無い一般には多分そんなイメージになるのだろう。


 入る側として一応意見は言っておく。

「あんなファンタジーな物じゃないだろうどうせ。だいたい箒で空を飛ぶなんてただの作り話だ。俺の記憶にもそんな方法は無い」

「なんだ、魔法使いといっても飛べないのでごじゃるか?」

 内海が明らかにがっかりした表情をした。


「前も言った筈だ。俺は炎や水が出せるくらい。あとは量が少なければ温度をあげさげしたり出来る程度だ。記憶の中でも箒のような簡便な飛行装置は無かったな。それなりに大げさな装置を使えば飛べない事も無いが、それじゃヘリとか飛行機と変わらない」


「ううむ、飛べない豚はただの豚なのでおじゃるな」

 何だそれ。

「その台詞、何の意味があるんだ」

「ただ言ってみたかっただけで候」

 そう言えば内海はそういう奴だった。


「森川さん、こんな奴ですが内海をよろしくお願いします」

「川崎は草葉の陰から見守って欲しいでおじゃる」

「勝手に殺すな」

 でもこいつらと別れるかと思うと少し寂しい。

 たった3ヶ月ちょいだがそれなりにこのクラスは悪くなかった。

 妥協して入ったにしてはだ。


 だが今度はいよいよ地元を離れられる。

 そういう意味での期待は大きい。

 だが不安も結構ある。

 何せ秘密事項が多すぎるのだ。


「それにしても学校、何処なんだろうな」

「まあ行けばわかるのでおじゃるよ。我らには行先は言わずともよいが、行先はもう知らされているのじゃろ」

 内海の台詞に俺は首を横に振る。


「残念ながら集合した後、バスで行くらしい。荷物は下着を含め着替え数日分があればいいそうだ。他に荷物がある場合は東京大学の事務所に送ってくれだそうだ」

「何故に秘密なんだろうな」

「やはりマスコミ対策でおじゃるかな」

 その辺は俺にもわからない。


「まあ実際は心配する事は無いだろう。何せ国がやる事だ。しかも新規にさ。施設が貧しいとか言われた事と実態が違うとか、そういう事は無い筈だ」

 小川が少し安心させるような事を言ってくれる。


「それに場所はどうせバスで行く途中わかるよね。まさかカーテンを下ろして開けるなという事はないだろうしね」

「スマホも持ち込み可なんだよね。ならどうせGPSで場所はわかる筈よ」

 確かに森川さんと西場さんの言う通りだな。


「実はGPSも携帯電波も通じない魔界のようなこの世ではない場所で、自衛隊体育学校も真っ青になるような恐怖の魔法特訓が待っているとかだと面白いでおじゃる」

「なに無茶苦茶言っているの内海は」

 バシン!

 森川さんがノートを丸めた奴で内海の頭を叩く。

 この光景も今日が見納めか。


「森川さん、内海このバカをよろしく頼みます」

「ああ、川崎も草葉の陰から見守っていて欲しいで候」

 だから内海それは故人用の台詞だ。

 わかって使っているのだろうけれど。


「勝手に生きている友人を殺すな」

 バシン!

 俺の代わりに森川さんが再度、内海の頭をひっぱたく。

 こっちが本当の見納めかな。


「まあ向こうが落ち着いたらメールでも出すから」

「検閲されて出せなかったり、通信が一切不可能になっていたりするかもしれないでおじゃる。そして脱出しようとするとオレンジ警報が発令されて不気味な音とともに白い球体が……」

「プリズナーNo.6かい!」

 森川さんのノートがまたいい音を出す。

 しかし今のやりとり、意味がわからない。


「西場さん、今のネタは何なんだ?」

 俺の代わりに小川が西場さんに聞いてくれた。

「昔のイギリスのドラマよ。2人ともああいうのが好きだから」


 そんなの部外者がわかるわけは無い。

 どうやら先程、俺が森川さんに言った台詞は間違いだったようだ。

 そんな訳で俺は正しい相手に正しく言い直す。


「西場さんすみません。大変だとは思いますがそこの2人の監視と管理をよろしくお願いします」

「仕方ないわね。腐れ縁だから」

 はいはい。

 その腐れ縁という言葉にまた何か心の奥が反応した。

 でもそれが何故か、今の俺にはわからなかった。

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