第4話 意外と有名

 美咲は二人の話を聞いて気になったことを二人に質問した。


「蓮夜がやる気を出したところ見たことあるの?」


 美咲は午前中までの蓮夜から真面目に何かに取り組んでいるところを想像が出来なかった。


「ああ、印象に残ってるのは中二の球技大会の時かな」

「あの時はすごかったわね」

「そんなにすごかったの?」

「ああ、バスケで一試合だけ蓮夜がやる気になってすごかったんだよ」

「一人で相手チーム圧倒して、その上シュートの打ち方も全部変えてたし」

「ん?」


 中学の蓮夜を思い出しながら盛り上がる二人に美咲は首を傾げて二人に問いかけた。


「中二の時私もバスケ選んで体育館に居たけど、蓮夜を見た覚えないんだけど。それにそんなすごい試合があったなんて話も聞いたこと無いし」

「ああ、その時体育館の半分で美咲も試合中だったから」

「試合に出て人と私達以外は全員美咲の試合見てたからほとんど誰も知らないのよ」

「納得したわ」


 悠斗の言葉に納得した美咲は呆れてため息をついて二人に問いかけた。


「それで、蓮夜はどんなシュート打ってたの?」

「相手の股抜きシュートや自陣のゴール下からのロングシュートとか本当にいろんなシュート打ってたわよ」

「真似できないようなシュートが大半だったがな」

「へえ、見たかったな。けど、蓮夜はどうしてそんなことしたの?」

「本人は何となくって言ってたぞ」


 悠斗の答えに対して美咲は呆れて苦笑しながら返した。


「何となくでやることじゃないでしょ」

「蓮夜ならやってもおかしくないわよ」

「少なくとも蓮夜のプレイを見た奴は全員それで納得した」

「普通、それじゃあ納得しないでしょ」

「あいつは意外と有名なんだよ」

「?」


 美咲は悠斗の言葉が良くわからず首を傾げると愛奈が分かりやすいように説明を始めた。


「美咲がいるから目立たないけど、蓮夜はそれなりに有名なのよ」

「どういう風に有名なの?」

「自由人や気まぐれでも有名だけど、顔が中性的で結構整ってるし身長も女子の平均より少し高いくらいだから女装させたら可愛いんじゃないかって話で有名なのよ」

「ちなみに、美術部に性別を変えて人物画を書くのが趣味の奴がいてな。そいつが蓮夜を女子にして書いて、髪型変えただけで過去一の美少女になったって言ってたんだ」

「本当にすごい美少女にだったわよね」

「ああ、あの後いろんな奴に女装してくれって言われるって蓮夜が不思議がってたんだよ」

「その絵私も見たい」


 美咲の言葉に二人は苦笑して美咲に返した。


「その絵もうないんだよ」

「どうして?」

「書いた奴が蓮夜が怖いからってことでバレる前に捨てたんだ」

「確かに、蓮夜が怒らせると何するか予想できないから怖いわよね」

「だから、絵を見たことがある人本当に少ないのよ」

「実は愛奈も知らない情報が一つあるぞ」

「え!?」


 悠斗の言葉に驚いた二人は悠斗の顔を見て続きを促すと悠斗は周りを確認して教室の他の生徒に聞こえないように話した。


「実はな、先月クラスの蓮夜以外の男子が集まって校内の可愛い女子ランキングを作ったんだが、一位は当然美咲だった」

「まあ、当然よね」

「けど、それがどうしたの?」

「そのランキングの二位が女装した蓮夜なんだよ」

「「え!?」」


 悠斗は驚く二人に笑いをこらえながら続けた。


「可愛いと思う人の名前を十位まで書いて投票してるから、ネタ枠とかじゃなくて本当にみんなが可愛いと思って投票してるんだよ」

「嘘でしょ。美咲の次ってことは私、女装蓮夜に負けたの?」

「校内ってことは、私以外の女子全員が負けたってことでしょ」


 悠斗は必死に笑いをこらえながら頷いて返した。

 愛奈は蓮夜に負けたことが悔しいやら蓮夜にランキングに乗っていることが面白いやらで複雑な気持ちだった。

 美咲は愛奈と悠斗の反応を見て苦笑して様子を見ていた。


「二人とも想像してみろよ、女子の制服を髪を伸ばした蓮夜が着て、眠そうな顔で目元をこすってるところを」


 愛奈と美咲は悠斗に言われた通りに女装した蓮夜が目元をこすっている姿を想像し、何の違和感もなく可愛いランキングで二位が納得できる姿を想像できてしまった。

 想像してすぐに愛奈は手を強く握り、俯いて少し震え始めた。

 美咲は愛奈の姿に負けたことが悔しかったのかと思い愛奈を覗き込むと、必死に笑うのをこらえていた。


「た、確かに、蓮夜なら二位になれるわね」

「だろ」

「あ、愛奈、悠斗……」


 女装した蓮夜について必死に笑いをこらえている二人に美咲は苦笑をして、話題を変えるために二人に先ほど気になったことを問いかけた。


「そ、そういえば、蓮夜は昼はどこで食べてるの?」

「ん、ああ、あいつは人がほとんどいない場所で飯食べてるはずだ」

「人がいない場所ってどこ?」

「さあ、あいつはその場所のことを俺達にも言わないからな」

「お昼食べ終わっても同じ場所にいるの?」

「いや、食べ終わったら図書室で本を読んでる」


 悠斗は食べ終わった弁当箱を片付けて蓮夜についてを美咲に話した。

 愛奈と美咲も弁当箱を片付けて机を元に戻した。


「美咲が蓮夜と話したいなら図書室に行くか?」

「ん~、まだいいかな。あんまり仲良くなってないのに積極的に話しかけてたら本当に避けられそうだし」

「確かにあまりにもしつこいと避けられるかもね」

「なら、自販機に飲み物でも買いに行こうぜ」

「そうね」


 悠斗の提案に愛奈と美咲は頷き、財布を持って校内に設置されている自販機に雑談をしながら向かった。

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