第七話 呼び出しを食らったよ

 お披露目を終えて楽な格好に着替えたところを私は捕まった。


「ハイデマリー。疲れているところ悪いが、すぐに来てくれ。母上がこれからのことを相談したいようだ」


そう告げられ連れ出されてしまった。私とアルトも作戦会議をしたかったのにいい迷惑だ。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はエーバルト。君の兄にあたる。俺は十二歳から学院の寮に住んでいるから顔を合わせることはなかったがこれからよろしく頼む」


そういってさわやか笑顔を浮かべるエーバルト。その見た目は明らかに私の兄といった感じだ。私と同じブロンドの髪にサファイアの瞳。私が男として生まれていたらこんな感じに成長したかもしれない。


「学院ですか?」


そういえばさっき学院から戻ったとかなんとか言ってたなあ。なんてことを思いながら聞いてみる。


「学院というのは、教養やマナーなんかの貴族として生きていくために必要なことを本格的に教えてもらうところだよ。大体は爵位を継ぐ一番上の子供と、その次の子供が行くことが多いね」


なるほど。二番目の子は何かあった時の予備ってことかな。病気や事故なんかが起きるかもしれないし。

そこからたわいもない話をしながらダイニングに向かう。そこで分かったことといえば、エーバルトは18歳で、私が2歳の時に離宮から、学院の寮に映ったそうだ。道理で顔を合わせることなんてないわけだ。


『あなた兄に初めて会ったっていうのになんだかあっさりしてるわね』

(いやまあ、八年間一度も会ってない兄なんて他人と同じだよ。)

『そういうものかしら』

(そういうものだよ)




 ダイニングにはすでにあの女がいた。それにエーバルトと一緒に来た、オリーヴィアも席についている。


「来たわね、ハイデマリー。早速だけど――」

「その前にお母様。わたくしたちに自己紹介をさせてくださいまし。ハイデマリーと会うのは今日が初めてなのですから」


ここにきて初めて口を開いたオリーヴィア。その声はなんというかどこにでもいそうな特徴のない声だ。

「初めまして。ハイデマリー。わたくしはオリーヴィア。十六歳よ。あなたのお姉さまということになるわね。よろしくね」


オリーヴィアは私たちと違って黒髪で、母親似である私たちとは違いどちらかといえば日本人のような顔立ちだ。だがその瞳にあるサファイアが嫌でも私の血縁者であることを主張している。


「お姉さまお会いできてうれしいです。」


適当に返しておく。その返事に満足したのかオリーヴィアはほのかに微笑んでいる。


「紹介は済んだようね。今日は目まぐるしい一日だったけれど。そうね…何からは話そうかしら」


私のことを根掘り葉掘り聞いてくるに決まっている。なんとかそれっぽい答えをしなければ。


「まず、ハイデマリー。あなたの力が聖女由来だってことが分かったわけだけど。これはきっと生まれつきのものね。幼いころから聖女の力を仕えていたわけだし」

お前に殺されかけたのが原因だよ!!!

『よく、ぬけぬけとそんなこと言えるわね…』


アルトさんも怒りを通り越してあきれ顔である。


「それより精霊と契約しているというところね。ハイデマリー。あなたいつ契約なんてしたの?それにどうやって?」


何と答えたらいいものか頭を悩ませること数秒、アルトさんから助太刀が入る。


『白を切っちゃいなさい。全く覚えがないってね。どうせ精霊なんて滅多に出会える存在じゃあないんだからバレやしないわよ』


全くその通りだ。


「実は全く覚えがないのです。その、精霊?というものの姿も見たことがありません」


姿を見たこと無いのは事実だしね。


「そうか。精霊契約というのは双方の同意がないと成立しないというのを聞いたことある。とすると、契約はハイデマリーの記憶が残らないような幼い時に行われたか、契約の条件に契約したことを忘れるというようなものがあったかのどちらかになるな」


エーバルトがそれっぽいことを言って口を挿んだが大外れである。


「しかし残念だ。精霊の力があれば我が家の繁栄につながったというのに」

「わたくしも精霊魔法には興味があったのだけれど…」


口々に言う二人。


『おこがましいわね!!』


アルトさんはご立腹だ。


「まあ、わからないことをいつまでも話していても仕方ないわ。王宮で話を聞けば何かわかる可能性もあるわけだし」


そんな簡単に話を切り上げられてしまった。身構えて損した気分だ。


「そう、王宮といえばハイデマリー。王宮に行くのは一月後に決まったわ。さっきすぐに使者の方がいらっしゃってそういうことになったの」


こっちの都合はお構いなしに決められてしまった。砂糖探しに旅の準備それに魔法の習得とやることが山積みだっていうのに…。


「王宮に上がれるなんて名誉なことなのよ、ハイデマリー。わたくしも同行したいくらいですわ」


こっちにとってはいい迷惑だ。


「そうね。とても名誉なことだわ。だからこそ恥ずかしくないマナーを身につけないといけないわね」

「ならばわたくしが教えますわ。学院でも優秀だとよく褒められるのですよ、お母様」

「あら、学院の講義はいいの?」

「幸い、今期の講義はわたくし、お兄様伴にすべて合格をいただいております」

「ならちょうどいいわね。ハイデマリーも今晩から離宮で生活することになるのだし」


マナー教室まで決まってしまった。何とかしないと私の自由は奪われる一方だ。

「今話すべきことはこれくらいかしら。三人とももう下がっていいわ。ハイデマリーを離宮に案内してあげて」


偉そうにそう告げるとあの女はさっさと自室に引っ込んでいった。


「では、行こうかハイデマリー」


エーバルトがそう告げる。


「お兄様先に戻っていただけるかしら。わたくしはハイデマリーと女性同士で大切な話があるのです」

「そうか。分かった」


それだけ言い置いてこの場を後にしたエーバルト。すると素早い動作で、扉を閉めるオリーヴィア。こちらを振り返り、開いたその口から――


「ハイデマリー。あなた嘘をついているわね」


こちらを見つめるサファイアはひどく蠱惑的な色をまとっていた。



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