第四話 七年間?であったこと

あれから七年と少しの月日がたった。この数年間、私は動き回った。一歳になる少し前に歩けるようになってからはまず、家中を見てまわった。物置のような部屋から、両親(認めたくはないが)の寝室まで。その中で一番の収穫は、執務室だった。そこはある意味、宝の山だった。私の求めていた情報という宝だ。見つけたのはこの家の帳簿。それによると、やっぱり貴族で、なんと伯爵家だった。要するに私は「ハイデマリー・キースリング伯爵令嬢」ということになる。私は「身分」という武器も手に入れたわけだ。だがどうしても貴族という立場は、さらに上の立場に弱い。そこを考えるとむしろマイナスのようにも思えてくる。私は、自由に生きたいんだ。ほかに帳簿から得た情報は、経営が火の車ってことくらい。何かの商売で失敗したみたいだね。その補填をするために、私の「浄化」の力に目を付けたというわけだ。


 私の浄化の力は、毒だけじゃなく、病気なんかにも効くようで、あの女がどこからか連れてきた人の治療をさせられた。といっても、一切抵抗できない赤ん坊のころの話だけど。ただ触れるだけであら不思議、病気やけがが治ってしまうものだから、依頼が殺到したらしい。ある程度表情をだすことができるようになったら、浄化を使うたびに、衰弱しているようなふりをした。すると、あの女は一切依頼を取らなくなった。大事な金蔓を失いたくはなかったのだろう。それでも得た報酬は、莫大なものだったらしく帳簿にはそれなりの桁の数字が書きこまれていた。この世界に来てから私はお金を使ったことがないから、貨幣価値はよくわからないけれど。それでも、私が頑張って(といっても疲労感なんかは一切ない)稼いだお金はあの女の懐というわけだ。これに腹を立てたアルトさん。


『ちょっと金庫に魔法をかけてくるわ!!!』


と言って、とある魔法をかけていた。この世界に銀行なんかはないらしく、報酬はすべて金庫にまとめられているようだった。その金庫に魔法をかけ、なんと私以外の人物が金をとりだすと、泡魔法で作られた偽物の金貨が出てくるようにしてしまった。といっても、見た目、重さなんかは本物と一切差がなく、私には違いが判らなかった。この偽物の金貨は私たちが家を出るときすべて泡に戻す計画だ。使った分も含めて。この偽物の金貨の出所が知れ渡った時、さぞあの女は困るだろうと思うと笑いがこみあげてくる。


 三歳になるころには、自分の見た目もはっきりしてきた。鏡を見るとそこには自分で言うのもなんだが、私はものすごく整った顔をしていた。ブロンドヘアーに、目はサファイアのように青く澄んでいる。すらっとした顔立ちは、明らかに日本人離れしていた。ていうか日本人要素は一切ない。初めのころは、自分の顔に違和感も覚えていたが今はもう慣れてしまった。今の私が私なのである。

 それに驚愕の事実発覚だが、私には兄と姉が一人ずついるらしい。まだ顔も見たこと無いけれど。この世界の貴族の仕来りとして、八歳になると、ほか貴族家へのお披露目(といっても私の場合は病気の治療の件で、結構知られてしまっているみたいだけど)を終えた後、貴族の子供は、親とは別の建物、つまり、離宮で生活を送るらしい。そこで マナーや教養なんかの勉強をしながら、成人の十六歳まで日々を暮らすのだ。私はこれを大チャンスだとみている。人の目を気にせず、堂々と旅の準備ができるというものだ。唯一の懸念としてはその、兄と姉だ。なにせあの女の子供だ。碌な人間であるはずがない。そこをどうにかする策を目下模索中だ。アルトが『私に任せなさい!!!』なんて言ってたけれど…

 

 そして現在、何をしているかって?今は有り余る時間を使って、生活水準を上げることに勤しんでいる。なにせ、何もかもが快適な、日本の生活を知ってしまっているからだ。

 まず初めに手を付けたのはトイレだった。おむつが取れてから、この問題にぶつかった。この世界のトイレは、仮設トイレ程度の小さな小屋の中に穴が掘ってあるだけのもので、そこに用を足すというものだった。ここまではまだいい。匂いにさえ目を瞑ればなんとかなる。問題はそのあと。なんと手で用を足した後の処理をするというのだ。この世界、紙はそこそこ普及しているらしいが、さすがにお尻をふくためには使わないとのこと。困っていたところ万能精霊アルトさんの登場だ。洗浄魔法で一発解決だった。この洗浄魔法は、石鹸がないこの世界ではかなり有用で、水でゴシゴシとこするだけだったお風呂事情も解決。ただお風呂の時も世話係がいるので、不審がられないようにちゃんとお風呂にも入っているけどね。

 次の問題は食事。味はまあ食べられるかな。くらい。美味しいというわけではないがそこは大きな問題じゃない。問題は一つ。甘味がない。これは大問題だと、現在何とかしようと模索しているところだ。


『甘いものが食べたいって言ったって、あなたの言う甘い粉、「砂糖」なんて知らないわよ』

(まあ自然にその辺に生えてるわけじゃないから知らないのは当然だけど・・・。この世界の人甘いもの食べたくならないの?)

『さあ?あたし食べる必要ないから食べ物のことだけは疎いのよ』


衝撃の事実発覚。なんでも知ってると思われたアルトにも知らないことがあるとは…。


『といっても味覚がないわけじゃないから、娯楽としてものを食べるって考えがなかっただけだしその甘味っていうのは少し興味があるわ』

(なら砂糖のもとになるサトウキビって植物を探してきてほしいんだけど…)

『私が行くの!?別にそこまでして食べたいわけじゃ…』

(仕方ないでしょう?私、お披露目終わるまで家から出れないし)

『といっても、あと数日の我慢じゃない』

(え?)

『だから、四日後はあなたの八歳の誕生日。つまりお披露目の日でしょ!!』


四日後!?そんなに迫ってたなんて・・・。どうも転生してから時間の感覚がおかしいんだよなあ。ついこの間七歳になったばっかりだと思ってたのに。


『その顔…まさか忘れてたの!?さすがの私もびっくりよ。毎日あんなに準備してるのに…』


だから最近マナーの勉強時間が多かったのか・・・。そういえばドレスの採寸なんかもしたな。


『あなた貴族の行事に興味なさすぎじゃない?』

(どうせ、捨てる可能性が高い立場だし、気にしても意味なくない?)

『そうかもしれないけど…直近のことくらいは把握しておいたら?』

(まあ、努力はしてみるけど)

『まあいいわ。ならそのサトウキビを探すのはお披露目が終わった後ってことでいいわね。ここら辺は森が多いしきっと見つかるわ』

(そうだね!いまから楽しみだ!!)

『まったく気が早いんだから。』


面倒な儀式が楽しみに変わった瞬間だった。                                            

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