ごちゃまぜ!

文丸くじら

馬に蹴られる前に(スチーム×マギカ)

「そういえばお姉さまってはつこいを体験しましたか?」

 

 ナギサのとうとつな問いに、ユーナは飲みかけていた紅茶を派手にした。

 向かいにすわっていたコージは、ヤシロからわたされたタオルで顔をく。

 

「…………どうしてですか?」

 

 かなり間を置いてからたずねたユーナに対し、ナギサはがおで答える。

 

「昨日見た小説に、こいのライバルはつぶすべきだと!」

 

 大声で自信満々に。ドジっメイドはこぶしを強くにぎりしめる。

 ユーナがろんな視線をハトリへと向ければ、かのじょは舌を小さく出しておどけていた。

 美少女のちゃあふれる表情を前に、負けをさとるしかない。

 

「そういうプライベートな質問をするならば、ナギサさん自身も答えを用意してますわよね?」

「え!? えーと……あわわわ、ぼくの初恋は」

 

 ちらっちらっとユーナへと何度も視線を向ける。顔には熱が集まり、舌がく回らない。

 明らかにわかりやすいどうようをしているナギサへ、ヤシロは無言で見守る。

 犬耳しつ少年のりょうかたに、それぞれ別の手が置かれる。

 

「恋路のライバルは潰すか?」

「自分は別に……」

 

 チドリの言葉に、しどろもどろな返事。

 

「まあチビすけの方をおうえんしてやらなくもないぜ?」

「お前の手助けが世界で一番不要なものだ」

 

 アルトのからかうような口調には、はっきりとしたきょぜつを。

 

「でも、確か小説の中でその台詞せりふを使ったのって、悪役のれいじょうよねん? それでナギサちゃんはいいのん?」

「あわわ! です! 僕はれいじょうなんて立場とはほどとおいですから!」


 きょうしゅくしたナギサが勢いよく首をるが、その場にいた全員が「悪役の方を先に否定するべきではないのか?」と考えていた。

 改めて落ち着いて紅茶を飲もうとしたユーナだったが、

 

「で、ユーナくん。どうなのだ?」

 

 まさかのコージからのついげきに、再度口にふくんだものを吹き出す羽目になった。

 

「げほっ、ごほっ! こ、コージさんの初恋を聞いてからです!!」

「私か? 私は五さいくらいに近所の親切なお姉さんだったな。ありきたりな話だ」

 

 ほがらかに笑うコージだったが、ユーナとしてはもくみが外れたことにがゆい思いを味わう。

 あっさりと答えが返ってきてしまい、こうなってはユーナ自身も白状するしかない。

 だが百歳の初恋など、どう考えても常識外れ。下手な盛り上がりへと移行したしゅんかんごくを体験するのはひっ

 

「ほーれ、姫さん。なおになろうぜ?」

 

 にやにやと笑うアルトが、ユーナのかたうでを乗せた。

 瞬間、つえがたなかれあごげきあたえた。痛みと、吸われるりょく。気絶しかけたアルトは、力なくゆかたおれる。

 

「次はばんざるの番ですわ! その次にヤシロさん! わたくしは最後にささやかに打ち明けさせてもらいますとも!」

「ず、ずりぃぞ……姫さ……ん」

 

 なんとか話題をおくらせようとするユーナの言葉に、ヤシロが目を光らせた。

 

「自分は断る。どうしてもと言うならば」

「あらん? なんだか大暴れの予感かしらん?」

 

 武器を構えた執事に対し、少女は杖刀で応戦しようとする。

 おんな空気が流れ始めた最中、借家の窓がらが派手に割れた。

 

「往生せいや、あの時のうらみー!!」

み中ですわよ、ナイスタイミング!! では――ゆらゆらとゆらり」

 

 とつじょとして現れた不法しんにゅうしゃに対し、いかりとしょうさんの声を出すユーナ。

 そしてスタッズストリート108番の借家では、毎度のそうどうがつつがなくひろげられるのである。

 クイーンズエイジ1881のぼうがつぼうじつきりけぶるロンダニアの街中で、りゅうほうこうが高らかにとどろいた。

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