へんな1分間をお届けします。(ショートショート集)

佐波尾

雪ぎ屋

 罪を犯した者にしか見ることができない店

 ――すすぎ屋。

 人々はここに来て、罪を取り消してもらいます。

 

 ある日、気弱そうなメガネの男が来ました。


「あなたの罪はなんですか?」

「強盗です……。もう10件もやってしまいました」

「なるほど、10万円です」

「うう……10万ですか……。でも、これで罪がなくなると思えば安いものですよね……」

贖罪しょくざいプランはいかがですか? こちらならばタダで済みますけど」


 贖罪プランとは、その名の通り一定の期間「罪をあがなう」ことで料金を無料にする仕組みです。軽い罪なら数日から数ヶ月、重い罪なら年単位かかります。


「いえ、早く解放されたいので払います」

「まいどあり」


 ある日、屈強な男が来ました。


「あなたの罪はなんですか?」

「殺人、2人殺った。ここに来ればなかったことにできるんだろ?」

「それなら3万です」

「やっす! まじかよ!?」

「贖罪プランはいかがですか? こちらならばタダで済みますけど」

「そんなのやってられるか! あくしろよ!」

「まいどあり」


 ある日、男性警官が来ました。


「あなたの罪はなんですか?」

「冤罪だ。無実の女性を犯人に仕立て上げた」

「そうですか……100万です」

「100万……」

「贖罪プランを使えば無料になりますが、いかかでしょう?」

「……贖罪プランで。期間はどれくらいだ?」

「私にもはっきり分かりませんが、その時が来ればあなたの罪はなかったことになります」

「そうか……」

「どうしても我慢できなくなったら、またここに来て料金を支払うこともできますよ。そうすれば、あなたの罪は瞬く間に消え去ります」

「とりあえずは贖罪プランでやってみる」

「まいどあり」



 警官は店を出た。

 だが、3ヶ月後に戻ってきて100万を支払った。


 ある日、少年が来た。


「あなたの罪はなんですか?」

「ある子をいじめて不登校にさせちゃった……。友人だったのに、ほんのささいなことから……本当にオレってクズですね……」

「なるほど……1000万です」

「えっ……そんなお金払えない……」

「贖罪プランを使えば料金はいりませんよ。どうしますか?」

「……」

「あなたはすでにやるべきことを知っているはずです。心配ありません。できますよ、あなたなら」

「はい……贖罪プランで」

「まいどあり、二度とここには来ないように」


 それから少年は一時も罪の意識を忘れずに、許しも請わず謝り続け、いじめられた子のためなら何でもしてあげました。徐々にではありましたが、いじめられた子は元気を取り戻し、学校にも来るようになって、二人は仲直りします。

 数年後、彼らは親友になりました。




 ある日、あの気弱そうなメガネの男が来ました。


「また強盗やっちゃいました……」

「なるほど、あなたのをいただきます」

「あれ?」

「腕がなくなればもう盗みはできなくなるでしょう」


 またある日には、あの警官が来ました。


「また冤罪だ」

「ふむ、あなたのをいただきます」

「なに……」

「ろくに捜査しないのなら目はあってないようなものでしょう。残念です、あなたには少し期待してましたから高い料金にしたのに」


 そしてある日、あの屈強な男が来ました。


「10人殺っちまったぜ。なかったことにしてくれ」

「そうですね……あなたのをいただきます」

「は?」

「ここは便利屋ではありませんよ?」


 3人の男は驚いた顔をして、店主に初回と違うじゃないかと不平を言いましたが、彼は3人に同じ答えを返します。


「あなたは罪の意識が低かったから、それに応じた料金を支払わせたんですよ。だけど、わずかに罪悪感があった、だから贖罪プランを勧めたんです」

 

 それを聞いて男たちは、わらにもすがる思いで贖罪プランを選ぼうとしました。

 しかし――


「罪の意識がない方には贖罪などできません」


 彼らは怒って店を出ようとしましたが、扉は全く開きません。

 

「あなたにもう選択肢はないんですよ」

 

 男たちは恐怖で体が震え、そして狂ってしまいました。

 

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