第51回(改) 蘇るトラウマ

 それは、投稿サイト「エブリスタ」に『水滸ストレンジア』を連載している中での出来事だった。


 いつも感想コメントをくれる人がいた。

 その人も書き手として活動しており、私自身、その人の作品を返礼で読みに行ったりしていた。


 ある日、突然、その人からこんなコメントが寄せられてきた。


『読者を馬鹿にしているとしか思えない』

『素人の私にここまで言われる、所詮はその程度のレベルの作品』


 水滸伝に登場する女神・九天玄女を登場させた回に対するコメントだった。その人的には、神様を安易に登場させるやり方が気に入らない、低次元、ということであり、これまでの友好的な態度が嘘のような手の平返しだった。


 タイミングは最悪だった。ちょうど、出版エージェントへの持ち込みが失敗した直後のことであり、遠回しに筆力がないと批評されたばかりであったので、この心ないコメントに、かなり傷つけられた。


 私の中で、デビュー当初のトラウマが蘇ってきた。


 『ファイティング☆ウィッチ』を読んだ人達から浴びせられる罵詈雑言の数々。自分には才能が無いと叩きつけられたような気がした、あの時の悲しみ。その苦しい思いが、フラッシュバックしてきたのだ。


 感情的になった私は、全投稿サイトに、『水滸ストレンジア』『バニーガールと斬鉄剣』、その他連載作品の打ち切りの案内を出した。

 PV数が伸びていなかった苛立ちもあった。

 どうせ面白くないんだろ。みんな馬鹿にしているんだろ。だったら投稿サイトで書き続けるのはやめてやるよ。これからは公募狙いで頑張るから、自分のことなんか忘れてくれ――そういう気持ちでいっぱいだった。


 すぐに、打ち切りの案内に対して反応があった。


 読者の皆さんからの温かい言葉の数々。応援。慰め。

 Twitterでも案内を出していたから、絵師さんや漫画家さんといった知り合いの人達からも励ましのメールが届いた。


 私は、すぐに反省した。


 もう、私の活動は、私一人だけのものではないのだ。

 数は少なくとも、見守ってくれている人達がいる。その人達を、悲しませるようなことをしてはいけない。

 たとえ投稿サイトに限定した動きとはいえ、筆を折るような真似はしてはならないのである。


 結局、私は期間を限定してお休みすることにし、時が来たらまた投稿サイトでの活動を再開した。

 嫌な思いをしたエブリスタには二度と投稿する気はなかったが、他にも発表の場はあるので、特にそこは問題ないと思っていた。


 ちなみに、私に辛辣なコメントを送ってきた人――仮にSさんとしよう――は、後でわかったことだが、エブリスタの中でも相当問題児らしく、色んな作者に心ない言葉を浴びせては、引退に追い込んだりしている常習犯とのことだった。それは、同じエブリスタでつながっている別の書き手の人から教えてもらった。


 Sさんをよくよく観察してみると、確かに、おかしな言動を繰り返しているところがあった。言葉荒くエブリスタの運営方針に対する不満や愚痴を述べていたり、アカウントを削除してはまた復活させたりと、どう見てもメンタルが不安定な人であった。

 それこそ、その程度の人のコメントに、心を乱されてしまうなんて、実に情けなかった。

 でも、それだけ、出版エージェントに断られたことのショックは大きかったのである。


 そうして、書くことについてのモチベーションが、また若干下がっていたところで――私は、あるコミュニティと出会うこととなった。

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