第19回 二作目の出版へ向けて~その三~

 プロットにOKが出てからは、また忙しい日々が始まった。


 2015年という年を振り返ると、あまりにも多くのことが起こりすぎて、その全てを語るだけでも全十回くらいは費やしてしまうのではないか、と思われるほどである。


 何せ、この年は、これまでの人生で一番精力的に活動していた。


 3月には、原稿の執筆に加えて、初めての同人誌作成にも取りかかっていた。4月に金沢で開催される文学フリマに参加したくて、チャレンジしたのである。原稿との同時進行は大変だったが、この時同人誌を作成した経験は自分にとって大きなプラスになったと思う。

 何よりも、この同人誌作成でアドバイスを求めたことがきっかけで、富士見ファンタジア文庫で活躍されている羽根川牧人さんとの親交が始まったことは、戦友(と勝手に呼ぶ者)が一人増えたという点でも嬉しい出来事であった。

(ちなみにこの時作った同人誌が『山田の田んぼに米はねえ』である。投稿サイト上でもアップしているので、ご興味ある方はぜひ読んでみてほしい)


 また、この年の4月から、地元でスポーツ少年団を立ち上げた。自分が修行している某拳法の少年団だ。一つの団体を率いる長となったことで、気が引き締まる思いだった。大変ではあるが、周囲から求められてのことでもあったので、いっちょやってやるかの精神で引き受けたのである。


 会社の仕事は、部長が交代したりと環境の変化もあり、徐々に負荷が増えつつあった。それでも、窓際族的に干されていた状態よりはだいぶマシになりつつあった。


 原稿の執筆に話を戻すと、ver5として通ったプロットであるが、いざ書き始めたら、細かなところで修正を求められた。


 記録を見てみると、ver5.0が5月15日に出来上がっているが、そのすぐ後5月28日にはver5.1の原稿に取りかかっている。そして、一度6月9日にver5.1は完成しているが、6月22日にはver5.2を書き始めている。

 このver5.2が最終形態となるのであるが、それでも細かな修正は加えていた。


 そんな多忙な中で、あろうことか、8月の会社の夏期休暇を利用して、中国へ取材旅行に出かけたりもした。

 行きたかった場所は、竜虎山という、水滸伝のオープニングに登場する道教の聖地である。『天破夢幻のヴァルキュリア』ではついに出番はなかったものの、いつか必ず竜虎山の描写は必要になるだろうと考えたことと、当時は日本と中国の関係が極端に悪化し始めていた時期だったので、今を逃せばもう中国旅行をする機会は無いのではないか、という考えから、無理を押しての旅行となった。


 旅の詳細については、またいつか語る機会もあろうから、省かせてもらう。


 この取材旅行中でも担当編集との打ち合わせを行ったりした。細かな粗を一つ一つ潰していき、作品としての完成度を高めていった。


 そして、2015年8月18日。ついに原稿は完成した。


 が、ここに来て、さらに難題が待ち構えていた。

 タイトルをどうするか、という問題である。


 当初出したタイトル案は、どれもパッとしないものだった。


 例を挙げると、

 「エデン・ゴッデス(EDEN GODDESS)」

 「蒼燕白雲伝」

 「水滸夢華録」

 「水滸幻游伝」

 「蒼き燕と水滸の女神」

 「われら水滸の戦姫なり」

 「水のほとりの戦女神(ウォーゴッデス)」

 「天娘夢弓のエデン・ゴッデス」

 「水滸乙女レボリューション」

 等々。


 どれも担当編集は微妙な反応を返してきていたし、自分としても納得のいくタイトルではなかった。


 そうして頭を悩ませた末に、ふと気が付いたことがあった。

 自分のタイトルの付け方には、一定の法則があった。

 それは、「生真面目すぎる」というものだった。真面目に、この作品の内容を表すタイトルは何がいいか、ということを考えすぎて、自由な思考が奪われてしまっていた。

 大事なのは、内容を表していることもそうであるが、一番には「語呂の良さ」ではないか、と思い至った。


 そこで一旦真面目に考えることをやめて、語呂のいい造語をいくつも作り上げた。ひたすらオリジナルの四字熟語を作ってはメモしていき、これじゃない、そうではない、と取捨選択していった末に、これだ! と思ったのが、「天破夢幻(てんぱむげん)」だった。

 さらに、主人公を取り巻くヒロイン達が戦乙女であることをベースに、そりゃ北欧神話だろというツッコミをあえて覚悟しながら、「ヴァルキュリア」の言葉を選んだ。当時、「戦場のヴァルキュリア」というゲームがあったことも、選定の要因の一つだったと思う。


 こうして、タイトルは確定した。


『一〇八星伝 天破夢幻のヴァルキュリア』


 このタイトルが出来た瞬間、勝利を確信していた。

 いける! と思っていた。

 内容も、何度も改稿を繰り返し、練りに練って作り上げたものであるし、タイトルも言葉の響きが格好良くてキャッチーなものだと感じていたので、これで売れないはずがない、と思っていた。


 あとは、イラストがどのような仕上がりになるか、が唯一の心配であったが、最初に送られてきたラフ画を見た瞬間、「完璧だ!」と喜びの声を上げた。

 それぐらい、今回イラストを担当した未来電機さんの絵は、素晴らしいものだった。


 いける! 勝てる! デビュー作の時の雪辱を果たせる!


 そう信じてやまなかった。

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