第33話 糾弾


 私は床に三角座りしてそのまま眠っていたらしい。…窓がないから、今が朝か夜か判断できない。

 部屋の中には時計があるけど、アナログなので、朝の10時なのか夜の10時なのかわからなくなる。

 ……反省房というのは、反抗的な生徒を反省させると言うより、精神的に追い詰めて反抗心を削ごうという部屋なんじゃないかと思った。

 ここに何日も、と言われたら参っちゃうかもしれない。そもそも私は何日収容されるの…? 冤罪なんですけど、暴行受けたのはこっちだ。壁に打ち付けた頭にはたんこぶが出来てしまったよ。


 いや、私のたんこぶのことより、大事なのは沙羅ちゃんだ。

 医務室の先生は病院につれていくと言っていた。私みたいに点滴打って眠ったら回復するのであればいいが……中等部校長の言葉だけは信じたくなかった。私を不安にさせようとしているんだきっと。


 しかし本人の顔を見なきゃ安心はできない。今すぐに沙羅ちゃんの無事が知りたいのに、ここには連絡手段がない。……ピッピは無事に伝言できただろうか…?



 ──カチリ、

 どこからか、自分が発する音以外の物音が聞こえてきた。それは外につながる鉄の扉。鍵がかかっているのだが、そこから音が聞こえた。

 私もう精神やられて幻聴でも聞こえてるのかな…ゾッとしていると、がちゃんとドアノブが動いた。


「ピッ!」

「! ピッピ!」


 開いたドアから飛び入ってきたのはピッピだ。私の元に飛んでくると頭にちょんと乗っかった。ほのかな重みが温かく感じる。


「大武さん、遅くなってごめんね」

「日色君!」


 良かった。無事に伝言が伝わったみたいだ。なら沙羅ちゃんは……

 中に入ってきた日色君に腕を引っ張られた私はよたよたしながら立ち上がった。ずっと同じ体勢だったので身体が固くなっているみたいだ。


「とにかくここを出よう。歩きながら状況を説明するね」


 反省房から出ると廊下で監視員と先生が何やら話をしていた。あれは社会科の先生じゃ……日色君のツテって社会科の先生だったのか。

 私は先を行く日色君の後ろを小走りで追いかけた。


「ごめんね、圧力がかかっていて出すのに時間がかかった」

「うん、それはいいけど…今日は何日?」

「大武さんが反省房にいれられて丸2日だ」


 そんなもんなのか。

 私としてはものすごい長い時間あそこに閉じ込められていた気がしたのだが…


「証拠はしっかり抑えた。それに中等部の前教頭先生が昨日お戻りになられたからようやく行動に移せる」

 

 大武さんのクラスメイトも協力してくれたんだと日色君に言われて私は首を傾げた。


「今丁度体育館で集会行われているところだ。大武さんもしっかり見ておいたほうがいい」

「…集会?」


 日色君の話にところどころ疑問が浮かぶ。

 どういうことだ。前の教頭先生が登場したら事態は変わるのか? 私のクラスメイトが協力って一体…


「議題は中等部校長の罷免。…あの人は色々やらかした。あの人は生徒を食い物にして自分勝手にやりすぎた」


 日色君は足を止めることなく前を見て説明していた。顔は見えないけど、彼も中等部校長に思うところがあるのだろう。声が怖い。


「……それに、彼にはもうこの学校…この都市にいる資格がないことが判明したからね」

「え…?」

【生徒の弱い心につけ込んで重ねた罪の数々、知らぬ存ぜぬでは通せませんよ】


 それってどういう意味? と問いかけようとしたが、そのタイミングで体育館に到着してしまった。中では壇上に上がったおじさんがマイクを使って追及していた。誰だろう、あの人。

 その矛先は教職員らが並ぶ列にいる中等部校長だ。その周りには…学校関係者ではなさそうな人たちが固めている。遠目でしか確認できないが、中等部校長の顔色はあまりよろしくなさそうである。

 体育館内には中等部と高等部の生徒が集められていた。皆、困惑した様子で壇上を見上げているようであった。


【一昨日、反省房へ入れるように指示した女子生徒に関して、新しい情報が入ってきました。彼女は以前呪いを掛けられたことがあるとのことですが……】


 それは私のことか。視線を壇上にいるおじさんに向けるが、おじさんは変わらず中等部校長をにらみつけるように凝視している。


【呪いの能力者である生徒をけしかけたのはあなたですね? そして口止めをしたのち見捨てた】


 ……いまなんと。思わず目が点になる。

 あの藁人形事件のことを言っているんだよね?

 そんな前から、あの中等部校長は私に悪意を持っていたの?

 

「……なぜ。私がそんなことをする必要があるんだ?」

【奇跡の巫女姫と呼ばれる水月さんと親しくなった彼女を引き離したかったのでしょう。あなたは孤立している水月さんを利用して命の水を悪用していたのですから】


 その言葉に体育館内にいた何も知らない生徒らがどよめく。


【巫女姫親衛隊という団体はあなたの子飼いでしょう? 所属している生徒から情報を得たのでしょう。…外の世界から編入してきたその女子生徒を脅威に感じたのでは?】


 両者の思惑が一致して、私に嫌がらせ行為を働いたということか…。私は単純に沙羅ちゃんの熱いファンが暴走しているものかと思っていた。


【呪いをかけた能力者である加害者生徒には口止めの術が掛けられていましたがそれは解かれました。彼も良心の呵責を感じていたようで、正直に話してくれましたよ?】

「し、証拠は! その呪いをかけたという生徒が嘘を言っている可能性は考えなかったのか!」


 そう言うと、おじさんは【まだまだ公表することはあるので、このへんは後でじっくり証拠と証言を照らし合わせましょうね】と一旦話を終わらせていた。

 とりあえず中等部校長の罪をすべて詳らかにしたいみたいで、淡々と罪状を読み上げていく。私がこの学校に来る前の話ばかりだったのだが、とにかくこの中等部校長は裏で汚いことばかりやって来たってことがわかった。

 

【彼女に関わるすべての郵便を差し止め、外にいる保護者との接点を断った。それに加えて周りの生徒達には親衛隊が目を光らせ、近づくものには嫌がらせを行ったとの事実も証拠として上がっています。自主的に動いたのは彼らですが、扇動したのはあなたですね、わかっていますよ。…彼女の能力を悪用するためにあなたは彼女を孤立させたのです】


 おじさんの次なる告発に私は顔をしかめた。

 サイッテー…てことは、今まで沙羅ちゃんが手紙を送ってもお母さんから返事が来ないと言っていたのは…中間地点でこの校長が破り捨てていたから…? そうなれば沙羅ちゃんのお母さんからの手紙も握りつぶしている可能性もある。

 沙羅ちゃんを孤立させて追い詰めて、言うことを聞くように仕向けたんじゃないか…!


 生徒だけでなく教職員から軽蔑や侮蔑の眼差しを向けられた奴は顔を真っ赤にして屈辱に震えていた。


「お前はっ! 私に校長の座を奪われたのが悔しいんだろう! 悔しいからこんなことを!!」

【悔しいかどうかと言うよりは……資格のない無能力者にこの学校から追い出された自分が情けないとは思っていますよ】


 逆ギレした中等部校長は唾を飛ばす勢いでがなり立てている。その姿は無様だが、私はおじさんの発言に疑問を持った。…資格のない、無能力者とは?

 だけどその言葉に中等部校長はあからさまに反応して、わかりやすくギクリとしていた。


【罪とは別にして…校長先生、あなたには能力がなくなったのでしょう。この学校、この都市は超能力者が集う場所ですよ。あなたにはこの学校にいる資格がなくなっているのに、私物化して我が物にしようとしている。全く嘆かわしい】


 ……超能力って、消えることあるんだ…?

 目からウロコである。


「し、失礼な! 何をそんな馬鹿なことを!」

【ならば今使ってみてくださいよ。あなたの能力は亜空間転送能力でしたよね?】

「…っ!」


 おじさんからの要望に、真っ赤だった中等部校長…もといタコ助校長のその顔が一気に白く変わった。

 私はよくわからないけど、超能力者にとって能力の消失はプライドに関わることなのだろうか。それとも、この学校の校長という地位があのタコ助校長のステイタスだったのかな。


「お、おまえぇぇ…!」

【言い逃れはさせませんよ。…あなたの所業でどのくらいの人間が泣きを見たと思っているんです。…外の世界から要人をこの都市に引き入れて色々行っているのは調べがついているんですよ。マシンテレパス能力を持つ生徒が手助けしてくれましたので、証拠はザクザクです】


 おじさんは持っている紙をめくって、次の罪状を読み上げようとする。分厚いな。あれ全部中等部校長の悪行が書かれてるの? よくも今まで放置できたね…

 私は完全に場の空気にのまれていた。なにかするわけでもなく、ただ目の前の糾弾を眺めていただけだ。なのだが、タコ助校長が視線を彷徨わせたことで私とバッチリ目が合った。

 途端、タコ助校長の目に怒りが宿る。


「こ、小娘、お前のせいで…!」


 怒っているのはこちらの方なのに、なんだか逆恨みをされているっぽい。おい、こっちは被害者だぞ。

 私めがけて飛び出そうとしたタコ助校長は周りを固めていた人たちに捕獲されていた。


「ええぃ! 離さんか! 私を誰だと思ってる!」

【校長! あなたには良心というものはないのですか! あなたが自分の私服を肥やすために利用した生徒が命の危機に瀕しているというのに!!】


 往生際の悪いタコ助をおじさんが一喝する。

 ……ちょっと待てよ、今何と言った? 生命の危機に瀕している生徒と言ったか?


「日色君、沙羅ちゃんは」

「……」


 私は隣に立っていた日色君を見上げて、沙羅ちゃんの安否を確認した。

 …まさか、沙羅ちゃんのことじゃないよね…?

 反省房の中でモニター越しから中等部校長に渋滞だと聞かされていたけど、信じたくなかったんだ。

 沙羅ちゃんの容態は持ち直しているよって否定してほしかった。だけど日色君は沈黙して、悲しそうな表情を浮かべるだけだ。

 ……それは肯定である。


【これまでの歴史で、能力者を酷使しすぎて衰弱死する事例は多々あったでしょう! それを知った上で、自分の野望のためだけに水月さんを酷使した。彼女は今まさに死の淵を彷徨っているのですよ!? …あなたは教育者の風上にも置けない! あなたには校長の座から退いていただき、研究都市から永久追放させていただく!】


 高々と宣言されたその言葉。おじさんに賛同しているらしい先生方が拍手して盛り上がっている。

 ──中等部校長を罪に問えるんだ。

 沙羅ちゃんが苦しむことはなくなるんだと喜べるはずなのに……


 当の沙羅ちゃんがここに居ないんじゃ意味がない。私は頭が真っ白になってしまい、その後のことをあまり覚えていなかった。

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