第6話 今日からここが私のお城……アニマルパラダイスやんけ!


 転校初日は色々あったけど、時間はそんなことお構いなしに流れた。

 一日の授業をすべて終え、帰りのHRを終えたら帰宅……今まで私が送ってきた学校生活と何ら変わらない気がするんだけど、超能力特有の授業は別に行われるのだろうか……


「大武さん、女子寮に案内するね」

「ありがとう」


 終業の挨拶をしたあと、机の前でぼーっとしていると小鳥遊さんが声を掛けてくれた。女子寮の場所は聞いてなかったので助かる。現在も私はクラスの人達に無視されている現状なので、ここで私を見捨てなかった小鳥遊さんありがとう。

 他のクラスメイトはやっぱり警戒心と恐れを滲ませた目で見てくる。切ないけど、今は辛抱のときだ。

 …小鳥遊さんは大丈夫だろうか。私のお世話役を任されたとはいえ、私と関わることで彼女に危害が加わったりとか……


 心配になって彼女を見下ろしたが、小鳥遊さんにはそんな憂いはなさそうだ。

 彼女の肩には相変わらずモモンガが乗っている。モモンガのももちゃんはくしくしと顔を洗っていて、一つ一つの仕草が可愛い。

 私はももちゃんを観察しながら、小鳥遊さんについていく形で教室を後にしたのである。




「ここの都市のことは聞いた?」


 学校の敷地を出ると、小鳥遊さんに問われた。


「あーうん、軽くね」

「女子寮はね、学校からちょっと離れた場所に位置しているの。だから学校帰りに寄り道して帰る人もいるのよ」

 

 そう言って彼女はいくつかお店を教えてくれた。外部のチェーン店とは違って、研究都市内特有のお店ばかり。特色ごとに教えてくれた。


「あ、本屋さんあるんだ。そしたらCDやDVDも買えるのかな?」

「うん、ないものは取り寄せしてもらえるわ」


 良かった。

 普段スマホに音楽を落としていたので、いざスマホ持ち込み禁止になった今、大好きなガールズバンドの曲をどうやって聴こうかと思っていたが、CDやDVDが購入できるならなんとか我慢できそうだ。

 今度音楽を聴く機器と一緒にCDを買いに行こう。電気屋さんの場所を聞くと、それも敷地内にあった。…ただやっぱり外部と通信できるものは一つも取り扱っていないそうだ。

 本当に連絡が出来ないんだな。

 ……脱走とか、する人出てこないのかな。情報漏えいがどうのって言っていたけど、電話くらいいいじゃんって思っちゃうよね…

 もちろん、この学校を運営している国のお偉いさんもそこまで鬼じゃない。生徒の親兄弟にもしものことがあったら特例で会えるように手配してもらえるらしいけどね。

 

 電話やFAX、パソコンがないここでは、外部から商品を取り寄せるときもアナログな紙の発注用紙をまとめて国の機関に提出して許可をもらった上で入荷って形らしいが……

 私としては電話とかパソコンのような連絡手段ないと不便じゃないか? って思うのだ。二度手間三度手間にもなるし。

 この中の人はそれが普通になっているからそんな事思わないのかな?



 小鳥遊さんと肩を並べて街を歩いていると、ヘンゼルとグレーテルの可愛らしいお菓子の家のようなお店を発見した。そこには小中高生女子が行列になっている。何のお店かな。

 ……どこからか甘い香りが漂ってくるぞ…

 私が鼻をスンスン鳴らしていると、小鳥遊さんが小さく笑った。


「あの洋菓子店は最近できたのだけど、店長さんがミクロ味覚という能力持ちでね、すごく味に敏感なの。ユニークで美味しいお菓子を提供してくれるのよ」

「へぇ…どこでお菓子作り習ったのかな」

「成人してから、外の世界の製菓学校に入学して、数年間有名パティシエのもとで修行していたのですって」


 そういう人もいるのか。

 外でお店を構えることも出来るのに、この閉鎖都市に戻ってお店を開く。

 ……でもここで育った人にはここが家のようなものだから、安心するのかもね。

 ユニークで美味しいお菓子に興味がわいたけど、あの行列、そして看板に焼き上がり時間50分待ちと書かれていたので今日はやめておいた。

 今度休みの日にこの街をじっくり探検する必要がありそうだ。なんか面白そうなお店がたくさんありそうだ。




「ここが高等部女子専用の寮よ」


 案内された女子寮は5階建てになっていた。桜色の建物で、ちょっとキレイめな女性専用アパートにも見える。

 ここは高等部女子学生の住まう塔で、その隣にずらっと並ぶ塔には中等部、初等部、幼稚舎へ通う児童・生徒の寮に組み分けられているそうだ。

 因みに大学生になったら、都市内のアパートに自由に住んでいいそうだ。大学生専用の寮もあるけど、大体の人は自分の好みの部屋を借りて一人暮らし、もしくはシェアハウスしているんだってさ。


「大武さんは私と同じ部屋よ。2階の2号室」

「2人部屋なんだね」

「普通クラスの生徒は基本2人部屋なの。特別クラスだけは1人部屋だけど」


 なるほど、エリートにはエリート待遇があるってわけなのね。じゃあ階数も違うのかな。

 学生証の役割を果たすICカードをカードリーダーに差し込むと識別して開く仕組みらしい。部屋に割り振られていない生徒の入室は出来ないようになっているそうなので、ICカードをなくさないようにと念押しされた。



 部屋の中に足を踏み入れると、そこには二段ベッドと勉強机、小さなリビングスペースがあった。玄関脇にはトイレとお風呂がある部屋に繋がる扉もあった。


「おじゃましま~す…」

「ふふ、大武さんの部屋でもあるのよ?」

「あは、そうだった」


 知らない部屋に入ったのでつい。

 ベッド脇には見慣れた私のスーツケースとダンボールが置かれていた。ここまで荷物を運んでくれたのか。


「私は下のベッドを使わせてもらってるんだけど、大丈夫かな?」

「うん、平気」


 スーツケースに手をかけていた私がその言葉に振り返って返事をすると、小鳥遊さんがベッドの目隠しカーテンをサッと開けている姿が目に映った。

 ベッドの奥、薄暗いそこに目が光る何かがいた。


「!?」

「フクちゃん、今日から一緒の部屋になった大武さんよ。仲良くしてね」


 ペットはモモンガだけじゃないのか…!


 小鳥遊さんはフクロウみたいな生き物を腕に乗せると、彼…彼女? を紹介してきた。


「夜行性だから昼間はお部屋で眠っているの。メンフクロウのフクちゃんっていうのよ。よろしくね」


 アニマル天国ですね。

 あれ、夜行性といえば、ネズミ系って夜行性な生き物多くなかったっけ。モモンガのももちゃんは昼に活動するタイプなの? と謎が生まれたが、ささいなことなので気にしないことにした。

 フクちゃんは私をじっと見て、何を考えているのかわからない顔をしていたが、目を細めると「ホゥ」と一鳴きした。


「よろしくって言っているわ」

「そうなの? よ、よろしくね…フクちゃん…」


 歓迎されてる…のかな?

 インコとかモモンガとかフクロウと暮らした経験がないのでわからんが、彼らは小鳥遊さんと意思疎通できるみたいだし、すごく騒ぐわけでもない。動物は好きな方なので別に構わないけど。

 学校だけでなく、この寮もペットOKなんだね。



■□■



 小鳥遊さんが夜の自由時間にささやかな歓迎パーティを開いてくれた。夕飯後からの数時間は各自勉強したり、娯楽をしたり、寝る準備をしたり各々好きな時間を過ごしていいそうだ。

 モモンガのももちゃんには乾燥パイン、フクロウのフクちゃんにはなにかの干し肉、インコのピッピには穀物。

 そして私と小鳥遊さんの前にはそれぞれショートケーキがのったお皿があった。


「ここの売店で売っているものだけど、これも美味しいのよ」


 あたたかいココアを淹れてくれた小鳥遊さんがはにかみ笑いを浮かべていた。

 この学校に馴染めるか不安にもなったけど、こうして歓迎してくれる人が他にもいたのか…小鳥遊さんの心遣いが身にしみる。


 ショートケーキの甘さに頬を緩めながら、私は他にも聞きたいことがあったので質問した。

 気になっていたのはSクラスという存在だ。


「私ね、今朝Sクラスの日色君って男の子に学校まで案内してもらったの。昼食のときも付き合ってくれてね。すごくいい人だなって思うんだけど……なんかSクラスの人って特殊なのかな? 関わっちゃまずいの?」


 私はSクラスの生徒の中で日色君としか関わっていない。

 解せぬのだ。担任の先生も、日色君も危険な能力があるからわからないうちはSクラスの生徒に近づかないほうがいいと忠告してきたことが。わからないことが多すぎて気になってしまう。

 私の疑問に小鳥遊さんは眉を八の字にしていた。


「日色君は生徒会長していたし、人当たりがいい人だもんね……だけど、彼は人を操るテレパス能力を持っているから怖がられることも多いの」


 ──怖がられる。

 ……転校初日の私みたいに、異物を見る目で見られて、周りから遠巻きにされてるってこと?

 …だから彼はあの時、悲しそうな目をしていたのかな? ……私のボッチ問題にも自分のことのように怒ってくれたのかな。

 思い返せば……私、結構無神経な事を彼に言ってしまったのかもしれないぞ……


「だけど理由ない能力の行使はできないんでしょ? 日色君はそんな事する人には見えないもん」


 危険な能力と言うか、センシティブにならざるを得ない能力を持つ彼。だけど彼本人を知らないのに、そうやって壁というか距離を作るのはなんか嫌だった。得体のしれないものは怖いけど……

 だけどあんなにいい人である日色君が怖がられるのはとても悲しいことである。

 

「うん、理由なき行使は罰せられることもあるわ。特に特別クラスの人の能力は危険度も高いから。それでSクラスの生徒は厳重に守られ、普通クラスの生徒より優遇されてるのよ」


 行動を制限され、監視される代わりに、他の生徒よりも優遇されることで差別化を図っているのだと。


「大丈夫。私は日色君が危険な人とは思っていないわ。…でもね、中には危険な能力をコントロールが出来ない人もいるの」


 Sクラスはエリートの集まり。

 その能力は普通クラスの生徒とは比べ物にならないほど強力で危険なのだと彼女は言った。


「脅しとかじゃないの。怪我をしたくなかったら、Sクラスの人にはあまり近寄らないほうがいいと思う……それがお互いのためよ」


 だからその怪我というのはどういう意味なのかと、超能力に関して素人同然の私は問い詰めたかった。 

 しかし、おっとりした雰囲気の小鳥遊さんの顔が妙にこわばっており、その迫力に負けた私は問うのをためらってしまったのである。

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