十三話 本部塔へ

「16時半を過ぎたか……遅くなってしまった」

「いや、だから17時までに行けばいいんだって。かなり余裕あるだろ」


 第一作戦室は本部塔の二階にある。食堂から本部塔まで徒歩十分もかからないが、片付けで時間を食ってしまったので僕はほとんど小走りのようなスピードで歩いていた。「そんなに急ぐなよー」と言いつつもついてきているノンが、何かに気付いたように急停止した。


「どうした?」と僕は立ち止まって振り返る。

「いや……転移ゲート使わねーの?」

「今朝の任務後から整備中だよ」


 リアンの言う通り、軍関係施設の移動に使われる魔術式転移ゲートは、今は使えない状態だった。これが起動していると、本部塔の頂上に白い光が術式紋を描いているが、当然今はそれが無い。

 国内からある程度離れた土地でのイデア出現の際は、本部塔最上階にある長距離転移ゲートから、偵察部隊からの報告で割り出した位置情報を基に、通信部隊が適切な場所で転移ゲートを設置。そこへ必要な人員が送られる。今朝もそれを利用して現場へ向かった。


「最近多くね?今のタイミングでまたどっかに特殊型でも出たら面倒だぜ」

「そういう時のために、各地に支部を置いて部隊を派遣させているんじゃないか。まあ、僕らは現状国内待機の身だが……」

「自分で術式練って行けば?」


 リアンは平然とそんなことを言うが、転移魔術は難易度が高い。個人で扱うことが難しいため、施設用に固定された術式を設置しているのだ。たしかこれも、大半が総統の創り上げたものだったはずだ。


「倫がやったら海のど真ん中とかに放り出されるんじゃねーかな」ノンが笑いながら言う。爽やかに言うな。

「あり得る。それか雲の上とか」ニヤリとした顔でリアンも同意する。

「お前ら本当に失礼だな」


 言い返せないのが悔しい。僕は強化と回復以外の魔術はからきしである。そのせいで、武器を常に持ち歩かなくてはならないのが、玉に瑕だ。


「ほら、さっさと行くぞ」と僕が声をかけて、三人で再び歩き出す。

「そういえば」とリアンが思い出したように僕を見る。「今日訓練場に来なかったね。珍しい」

「え?お前食堂にずっといたんじゃなかったのか」

「訓練場に行った後、食堂に行った。何してたの?」

「いや、ちょっと街に……いつものあれだよ。あと、図書館で調べ物をしてただけだ」

「ふーん……」


 そんな話をしている間に本部塔へ到着した。

 「塔」と称されるだけあって、この本部塔は国内どころか世界中でも最も高い建造物として知られている。軍の施設が並ぶこの中心地は他の地区よりも地形が高くなっているので、大きな台の上に建っているようなものだ。塔は真上から見ると六角形の形状になっていて、色は全体的に黒っぽい。表面に時々現れる白い術式紋は、結界……ではなく塔の耐久性を保つためのものらしい。大きな実験や魔物を使った訓練をするための施設は塔の外に併設されているが、塔内にも研究開発のフロアや訓練のためのフロアもある。

 僕はよく射撃訓練のフロアにいるので、おそらくリアンはそれで訓練場に行ったのだろう。街での用事がいつもより時間がかかったというのと、図書館に行くといういつもとは違う行動をとったせいで、行き合うことはなかった。思えばリアンは昔から僕を見つけるのが得意だったような気がするが、今日はその謎の特技が発揮されなかったのだろうか。

 エントランスを通り抜けて昇降機へ乗り込む。作戦室のある階のボタンを押して扉から離れた。

 そして十数秒で再び扉が開く。廊下へ出て、第一作戦室のプレートが掲げられた部屋の前まで辿り着いた。

 背後の二人に確認をして、黒い扉をノックした。

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