2話 ルーナの瞳は宝石みたいだ!


 廃墟はなぜ美しいのだろう?

 ルーナとリリアンは、冒険の地である廃城を見てそう思った。

 ヒビ割れ、崩れた城壁を浸食する植物たち。朽ちた外壁にも、蔦植物が這っている。

 日の光の中で、退廃したかつての栄光は静かに、幻想のように佇んでいるのだ。


「リリちゃん、廃墟ってすごいね。綺麗」

「うん。廃墟とルーナって最強すぎる」


 2人は息を呑み、手を繋ぎ直して中に入った。城のエントランスは少し薄暗い。

 でも気にせず、2人は1階層を探検し尽くす。どうやら、1階に居住区はないようだ。

 厨房にトイレ、武具庫、鍛冶場、食料貯蔵庫などが主。会議室らしき部屋もあった。


 中庭で井戸を発見したので、水質をチェック。

 何の問題もなかったので、2人は微笑み合った。サバイバルの基本である水の確保が完了した。


 2人は城の中に戻り、広い階段を上る。

 2階は完全に居住区だった。大小様々な部屋がある。住んでいた人たちの階級で部屋が違ったのかなぁ、と2人は想像した。


「このベッド、そのまま使えそうだね」


 大きな部屋の大きなベッドを見て、ルーナが言った。


「おう。掃除すれば使えそうだな。この部屋をあたしらの拠点にしようぜ!」

「賛成! だけど掃除はあとにして、3階も見てみよー!」


 2人は部屋を出て、更に階段を上る。

 そうすると、そこは屋上だった。ノコギリ型の壁があるので、ここからも弓を放って応戦できる。


 そして屋上にはそれほど背の高くない塔があった。見張り塔、というやつだ。

 2人は当然、塔の中に入った。

 螺旋階段が狭いので、ルーナが先頭を歩き、リリアンが後ろに続いた。

 リリアンはルーナのマントを持ち上げて、自分の頭に被せた。


「ふえ!? リリちゃん何してるの!?」

「えへへ。ルーナのマントの中に隠れた!」

「リリちゃんもマントしてるでしょー?」

「でも鹿革じゃなくて普通のだし、ルーナのマントに一緒に入るのがいいんだ」

「一体感ってやつだね! よぉし! 野獣ルーナリアンだぞぉ!」

「がおがおー!」


 2人はノリノリで階段を上る。

 ルーナが上り切ると、四方が綺麗に見渡せる部屋に出た。

 ちなみにリリアンは目線を下にしてずっとルーナの可愛い尻を見ていた。


(姉様はこーんな可愛いルーナのお尻を叩くなんて極悪だ! てゆーか、姉様にルーナのお尻を取られるぐらいなら、いっそあたしが!! あたしが叩く! もしくは撫でる! もしくは揉む! もしくは頬ずりする!)


「わー! よく見えるねリリちゃん!(景色! 遠くまで見えるよ!)」

「ふぁ!?(ルーナのお尻見てたのバレた!!)」


 リリアンはまだルーナのマントの中である。

 ルーナが立ち止まったからリリアンも止まったが、階段が終わったことには気付いていない。


「ふぁ、じゃなくて、リリちゃんも生で見てよ。すごいんだから」

「お、おう……。でも、今は包まれてるから……(ルーナのお尻はズボンに隠されている。生で見るには脱がさないと……)」

「出ればいいと思うよ(私のマントから)」


 ルーナは割と真面目に言った。

 一緒に景色を見たかったからだ。


「出していいのか!?」

「いいよ(出ないと見れないし)」

「でも、あたし野獣になるかも? あたしの中の野性が爆発するかも!」

「大丈夫だよ?(リリちゃんチョロチョロだから、きっと人類には被害ないし)」

「じゃあ遠慮なく!」


 リリアンはルーナのズボンを下げた。その時に、下着も一緒に下げた。


(ふぁぁぁぁぁ!? リリちゃんが暴走したぁぁぁぁ!! なぜかいきなり私のズボン脱がしたぁぁぁぁ! なんで!? ねぇなんで!?)


 ルーナは酷く混乱した。


「ぽふっ」と言いながらリリアンがしゃがみ、ルーナの尻に頬を当てた。


「ルーナ、あたし、今、すっごく幸せだぞ」


 リリアンはしみじみと言った。


(ルーナちゃんは混乱してるよぉぉぉぉぉ!! 野獣ルーナから混沌のルーナに変身だよ! どうしてこうなったのか、見当も付かないよぉぉぉ! 景色を見ようって話だったのにぃぃ! 何がどう作用したらこうなるの!?)


「もうほとんど、治ってるみたいで良かった」


 リリアンは頬をスリスリ。


「う、うん。お姉ちゃんが毎日、薬塗ってくれるから」

「撫で回してるってこと!?」

「まぁそうだけど、撫でないと薬塗れないよ?」


(あの極悪女め! 自分で叩いて自分で撫でるとか!! 何その高度な手法! やっぱり姉様はいつか分からせてやるぅぅぅぅ!!)


 リリアンはとっても興奮していた。色々な意味で。


「……ねぇリリちゃん、とりあえず恥ずかしいからもうスリスリしないで?」

「ほえ?」


 リリアンは冷静さを取り戻した。

 同時に、自分が何をしているのかもしっかりと理解。

 リリアンの顔がボンッと紅く染まる。


(あああああああ! あたし!! 何やってんだあたし!! ルーナは見るだけって言ってたのに、普通にスリスリしちゃったぁあ! ごめんにょ!! ああん! 噛んだぁぁ!)


 リリアンはとりあえず、頬をルーナの尻から離した。

 でも、次にどうしたらいいのか分からなくて困った。

 ルーナが踵を返したので、リリアンは自然にルーナと向き合う形に。

 リリアンはまだ屈んでいる。すでに鹿革のマントの加護はない。


「景色……見よう?」


 ルーナは照れた風に言った。


「お、おう……」


 リリアンは立ち上がって、やっと景色に目をやった。

 どこまでも広がる草原に、青く澄み渡った空。流れる雲。囁くような微風。

 リリアンはそこに世界を感じて、衝撃を受けた。


「すごい! すごいなこの風景! 高い! よく見える! これが世界かっ!」

「でしょ! 世界は言い過ぎだけどね!」


 ルーナはとりあえずズボンを上げながら言った。

 2人は満足するまで、その場で景色を眺めた。


「よし、じゃあ掃除と食料の確保だね」とルーナ。


「おう。庭がジャングルみたいになってるから、色々生息してそうだ」


 リリアンが言った庭というのは、中庭のことではない。城壁と城本体の間の空間のこと。そこは植物が伸び放題になっていた。


「次はリリちゃんが先に降りて?」

「おう!(あれ? もしかして、あたしがずっとお尻見てたの怒ってたりする……? いや、怒ってるならスリスリの方かな?)」


 リリアンは少し不安な気持ちになりながらも、先に螺旋階段を降りた。

 ルーナはリリアンの頭を見ながら、リリアンに続いた。


(リリちゃんの髪の毛、紅くて綺麗。ルビーみたい。クンクンしたいなぁ。むしろ食べちゃいたい)


 なんてことをルーナは考えていた。

 螺旋階段を下り終わったところで、ルーナはリリアンの頭にパクッと開いた口を付けた。

 噛み付いたわけではない。食べるフリだ。


「ふえ!?」


 リリアンが驚いて身を縮める。


「えへへ。ごめんね。野獣ルーナはリリちゃんの頭を食べたくなっちゃったの」

「あ、あたし、ルーナになら食べられてもいいぞ!」


 リリアンが振り向いて、ルーナの目を見ながら言った。


(あ、リリちゃんの青い目、とっても綺麗)

(あ、ルーナの若葉色の目、とっても綺麗)


 2人はしばらく見つめ合った。



「さっさと魔物を放ちますのよぉぉぉぉ!!」クリスが魔女の背中をバンバン叩きながら言った。「何かいい雰囲気になってますわよ!? 早く! 早く2人の邪魔をしますのよ魔女!!」


「背中叩かないでよ」


 魔女はベッドにうつ伏せの状態で寝ている。全裸で。

 尻には濡れた布が置かれている。冷やしているのだ。

 ちなみにクリスも魔女と一緒にベッドの上だが、座っている。


「あのメスブタ! ルーナのお尻に頬ずりした上、何を恋愛物語みたいに見つめ合っちゃってますの!? 早く邪魔しますのよ魔女!」


「だから背中叩かないでってば。どうしてクリちゃん、こんなサディストに育っちゃったのかしら? 普通、年上のお姉さんの生尻をガチで叩く? ちょっと泣いちゃったじゃないの(ロリコンは治らないけど、クリスの前では控えめにしなきゃね)」


「は? あたくしはサディストじゃありませんわ」クリスはキョトンとして言う。「ただの躾けとして叩くことはありますけれど。あと、お仕置きは半端にしちゃいけませんのよ」


 モニカの教育の賜物である。

 教育という名の洗脳の賜物である。

 まぁ、クリスは気付いていないけれど。


「……そう(この子、無自覚なの!? 恐ろしいわ)」

「それより早く魔物を! 魔物を放ちますのよ!」


「2人が外に出たらね」魔女が言う。「今は不自然だし、ほら、2人とも動き出したわ」


 水晶の中で、ルーナとリリアンは仲良く手を繋いで移動していた。

 

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