EX03 お姉ちゃんと魔女


 クリスと魔女は小さな廃城の前に立っていた。

 まぁ小さいと言っても城は城。パーカー家の屋敷より少し大きい。

 時刻は14時。空はよく晴れていて、白い雲が気持ちよさそうに浮いている。初夏なので気温は割と高い。


「うちの国ですの?」


 気温やら時間やらで、クリスはそう判断した。


「正解よ。やるわねクリちゃん」

「その呼び名はおやめなさい! あたくしはクリスですわ!」

「分かったから怒鳴らないでよ(本当、クリスってうるさい子だわね。少女の頃はもっと可愛かったのに。ああ、少女時代のクリスは世界で1番美しかったのに)」


 廃城は平原にポツンと建っている。昔は周囲に小さな町があったのだが、すでに滅びて消えている。


「辺境ですわね。国境付近ですの?」


 かつては争いが絶えなかった。よって、国境付近は滅びた町が多い。ちなみに、国境近くの城は防衛用である場合がほとんど。

 王様が住んでいるわけではない。軍の偉い人や領主などの住まいだった。


「そうね。ここが一応、ルーナとリリアンの次の冒険の場所よ」

「こんな場所で冒険する意味ありますの?」


 魔女が歩いて崩れた城門を抜けた。

 クリスも後に続く。

 城壁は大半が崩れ落ちている。城の庭は草木が生え放題で、城の外壁も蔦植物の浸食を受けていた。


「廃墟がいいって2人が言うんだもの。それに意味はあるわよ? その場に残された物だけを使って生き残るのは大切よ。今回は短剣とメタルマッチしか持たさない予定なのよ」

「割とハードですわね」


 クリスはこんな汚い場所で寝るのは嫌だ。

 城の中に入ると、酷く埃っぽい。誰も訪れていない証拠である。


「言っておきますけれど」クリスが言う。「あたくしが連休を取れる日まで冒険は禁止ですわよ? いいですわね?(ふふっ、可愛いルーナの冒険を見学しますわ。ついでに、メスブタといかがわしい遊びをしないか見張りますわ)」


 クリスの言葉に、魔女はあからさまに嫌そうな顔をした。


(わたしの楽しみが! わたしの素敵な楽しみが! クリスに邪魔される!)


 前回の無人島では、速攻でクリスに邪魔されている。


「なんですのその顔。不細工な顔が更に不細工になってますわよ?(うぅ、本当は魔女って顔だけは綺麗ですわ。綺麗なお姉さんですわ。本当、これで変態でなければ)」


 クリスはだんだんと腹が立ってきた。


「別にわたしは不細工でもいいのよ。なぜなら、美少女たちがいるから!」


 城の中が薄暗かったので、魔女が松明に火を点けた。メタルマッチで。

 ちなみに、魔法は普通、1人につき1つの属性しか扱えない。しかし魔女は4つの神域属性を操る天才だ。

 それでも、火属性やそれに近い神域属性は得ていない。


「かつてはあたくしも美少女だったのでしょう?(魔女にとって、という意味ですわ。別にあたくしが美人だと言っているわけではありませんわ、ってあたくしは誰に言い訳してますの?)」

「ハッキリ言って、世界一だったわ(今からでも美少女に戻ってくれないかしら? 18歳とか、本当もうおばさんじゃないのよ)」

「15歳になったあたくしは、魔女が急に冷たくなって困惑しましたわ」


「別に冷たくはしてないわ。ただ愛せなくなっただけで、友人として接していたわよ?」

「愛する人と友人に差がありすぎますわ!! ビックリしましたわ!! てゆーかあたくし、後であなたがクソったれのロリコンだと知ってゾッとしましたわ! 無知なあたくしとあんなことや、こんなことをしましたわよね!? それらの意味を知って、本当、心底、殺そうかと思いましたわ!」


「あら、そうなの?(この子、何を言っているの? 自分だって無知なルーナに色々やってるじゃないのよ。お風呂で胸を揉ませるとか高度すぎでしょ。実に羨ましいわ)」

「まぁ、殺しませんけれど(どれもあたくしにとっては、本当に綺麗で大切な思い出でしたもの……言わないけれど)」


 それから2人は無言で城内を見て回った。

 どこもヒビ割れ、埃っぽい。それに所々、壁が崩れている。

 正直、かなり明るいので松明がまったく役に立っていない。邪魔なだけである。しかし魔女はそのことに気付かない。

 なぜなら、

 魔女はルーナとリリアンにどんな報酬を貰おうかと考えていた。


(太ももにキス? 唇にキス? おっぱい吸って貰うのもありね!)


「ねぇ、必要ないと思いますわよ?(光源多いし、松明いりませんわ。暗かったの最初だけですわね)」


 クリスは松明を見ながら言ったが、魔女はクリスの視線に気付かなかった。


「は? 必要に決まってるでしょう?(報酬なしとか意味不明だわ。わたしは腐っても魔女。無料で働いたりしないわよ)」

「本気で言ってますの?(それとも、何かに使いますの? 火を点けるわけじゃありませんわよね? ルーナたちがここで冒険しますし)」


「逆に聞くけれど、クリスこそ本気で言ってるの?(そりゃ、姉としては報酬など受け取らないでしょうけど。てか、下見に誘えって言うから誘ったけれど、クリスを連れて移動する労力分クリスにも報酬払って欲しいわ)」

「あたくしはもちろん、本気ですわ。だって何に使いますの? どうしますの? いい案があるなら聞きますけれど」

「言ってもいいけど、怒らないわよね?」


「あたくしが怒るようなことに使いますの!? どうするつもりですの!?」

「まず質問その1、何に使うのかについて答えるわ。自分で自分を慰めるためよ(だって美少女たちと直接やっちゃったら問題でしょ!? やりたいけど! とりあえずエチエチな報酬で我慢しているのよ! 本当はやりたいけど!)」


「そ、そうですの……(よく分かりませんわね。でも1つ言えるのは、どれほどの明かりがあっても、魔女が日陰者なのは変わりませんわよ? はっ! だからこそ、自分で自分を慰めるしかありませんのね! でもなぜ松明のささやかな光なのか不明ですわ!)」


 2人はいつの間にか城の中庭に出ていた。

 中庭には井戸がある。

 植物が好き放題に中庭を侵略しているが、かつては庭園だったのだろうと想像できる。

 わずかにそれらしき痕跡があるのだ。テーブルやベンチ、謎の彫像などが物語っている。


「質問その2。どうするのか。つまりいい案があるのか、について答えるわ」


 言いながら、魔女は井戸まで移動。クリスも続く。

 魔女は井戸の水を汲み、大きく頷いた。

 クリスから見ても、井戸は生きている。たぶん地下水で、綺麗。


「実はまだ決まってないの(キスならどこにキスして貰うか、とかね。前回逃したおっぱいビンタもいいわね)」

「ふざけんなし!」


 クリスは魔女の尻を思いっきり引っ叩いた。しかし服の上からなので与ダメージが低い。

 魔女は少し驚いたような表情をした。そして少し痛かった。


「なんで素直に消せませんの!?(松明。あたくしが指摘した時に消せば良かったじゃありませんの! 何も使い道がないなら!)」

「消えるわけないでしょう!?(わたしの欲望が消える時、それはわたしが死ぬ時よ! そう、欲望か死か!! それがわたしの生き様よ!)」

「消えないなら消えないって言えばいいじゃありませんの! なんで消えないのか分かりませんけれども!」


「消えないし消したくもないわ! わたしは心から、そう! 心の底から美少女たちが好き! 大好き! 愛しているわ! だからイタズラしたいと思うのは普通なのよ! そう! わたしは別に普通の恋する乙女よ! 相手がたまたま偶然、少女や幼女なだけで!!」


「何言ってますの!? 突然何を開き直ってますの!? 魔女がロリコンなのは知ってますわよ! それよりどうして松明が消えないのか説明してくださる!?」

「自分だってシスコンのくせに!! いい子ぶっちゃってさ! って、え? 松明?」


 魔女は自分が松明を持っていることをやっと思い出した。

 そしてさっき汲み上げた水に松明を突っ込んで火を消した。明るいのだから松明なんて不要である。


「……何の話だと思ってましたの?」

「……いえ、松明の話よ……」


 2人は苦笑い。クリスは深く突っ込まないことにした。


「特に問題もないようだし」魔女が言う。「……帰りましょうか」


「そうですわね……」


 なんだか微妙な雰囲気の中、2人はそれぞれ違う場所を見た。

 魔女は花を、クリスは地面の苔を。


(わたしがロリコンだと知っても離れない友人って、そういえばクリスだけだわね……)


 もう少しクリスに優しくしよう、と魔女は思った。

 あくまで友人として、だ。

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