閑話休題

「おい、爺、

死ぬ直前まで魂の記憶が戻らないのは

なんとかならないのか?


分かっていれば

もっとやりようもあるのに……」


転生の間に戻って来た俺は、開口一番、

目の前に居る神(自称)に問う。


筋骨隆々の屈強そうな巨漢に、

彫りの深い顔立ちで

白髪と白髭を長く伸ばした老人。


その見た目は

神っぽいと言えば神っぽい。


「まぁ、

転生している訳だからね

魂の記憶を維持するのは難しいよ


死の直前に思い出すだけでも

大したもんだと思うよ、私は」



「まぁ、

ちょっと腰を降ろして

落ち着いて、一杯やりなよ


少し休んでいくといい……」


ここ転生の間は

まるでお洒落なバーのような装いで


木目調の内装とカウンターに

照明も柔らかく落ち着いた雰囲気だが、


ここは死後の世界で間違いない。


なんでこんな落ち着ける

くつろぎの空間にしたのかは謎だが。


今、俺は確実に死んでいるのだ。



「それにだ、

性転換転生なんて聞いてないぞ」


「まぁ、

JKの護衛をするんだからさ


同じJKになったほうが

ずっと一緒に居られていいじゃない」


最近は神でもJKと言うのか。


こいつはどうも胡散臭い奴なのだが、


もう俺が既に何度も

過去に転生していることからして、


神もしくは、それに近い存在というのは

間違い無いのだろう。


「まぁ、

どこの時点を現在とするかによって、

過去にも未来にもなり得るからね


時空転生と言うのが

正しいのかもしれないけど」


俺が今考えてたこと

読み取ったろ? お前



『さくら』は前世において

世界を破滅に導く魔を

人知れず打ち破った英雄で


俺はその当時、

さくらの恋人だった。


だが、途中で俺が戦死した為、

俺とさくらが

最後まで添い遂げることはなかった……。


敗れた魔の欠片は悪霊となり

怨みを抱き続けて、

現代に転生したさくらの魂を

けがそうとしている。


俺はさくらを守りたい一身で

この胡散臭い神の誘いに乗ったのだ。


「まぁ、

我々の予定としてはね


彼女の息子が、再び

世界を破滅に導く魔から人々を救う、


そういうことになっているのでね


なので、彼女が穢されてしまったり


彼女が死んでしまって

息子が生まれないというのは


非常にまずい訳だよ、我々としても」


こいつの胡散臭さはともかく、

とりあえず俺達の利害は

さくらを守るということで一致していた。



そして、悪霊達を滅することが出来る

唯一の方法が『魂の道連れ』。


俺が死ぬ時に発生する

魂が霊界に向かう強烈な力を利用して、


そばに居る悪霊を

霊界に道連れにする。


地獄に道連れという言葉があるが、

まさに霊界に道連れと言う訳だ。


お陰で俺は悪霊を倒す為に

毎回死ななくてはならない。



簡単に言ってしまえば、


死ぬ時に俺の魂が

悪霊を道連れにして、

強制的に成仏させてしまう、


まぁ、そんなところだ。



現代のさくらを襲おうとする悪霊から

さくらを守るべく

俺は時空を超えた転生を繰り返している。


さくらの身近な人間に生まれ変わって。


この自称神とやらは

悪霊の出現ポイント、

その時間と空間を把握しているらしいから、

俺はこいつの指示に従うだけだ。


「まぁ、

最初に言ったと思うんだけどね


これにはデメリットもあってね



君は、彼女の身近な人間として

転生する訳だけど


彼女の結婚相手にだけはなれない


生まれて来る彼女の息子、

その父親は別の人間に

もう決まってしまっているからね。」


「まぁ、

それともう一つ……


これだけ短期間で

何度も転生を繰り返している訳だから


君の魂は消耗が激しい、

この上なく


まぁ、

磨耗しているというのが

一番ぴったり来る言葉かもしれない


少しずつ擦れて削れていくように

どんどん小さくなって行き


最後には消えて無くなる


完全な無となる


本当にその覚悟はあるんだろうね?」


「あぁ、それは問題ない……


さくらを、あいつを守れさえすれば

俺はそれで構わない……」


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